■際立つ「e:HEV」のリニアで力強い走り
ホンダ・フィットが2022年10月に受けたマイナーチェンジでは、発電用と駆動用を担う2モーター式ハイブリッドの「e:HEV」に「Road Sailing(ロード・セーリング)」を意味する「RS」が追加されたのが注目です。ほかにも多くの改良点が盛り込まれています。
ガソリンエンジン車では従来の1.3Lから1.5Lに排気量を拡大。5つのタイプのうち、販売比率が低かった「NESS」がカタログ落ちして、新設された「RS」と入れ替わり、5タイプを維持しています。
5タイプをおさらいすると、その名のとおり、ベーシックグレードである「BASIC(ベーシック)」は、シンプルな内外装を備え、買い得感もあるグレード。「HOME(ホーム)」は、日常生活に溶け込むデザインと快適性を備えた仕様。スタイリッシュな内外装が際立つ「LUXE(リュクス)」は、現行フィットらしさを最も感じられるタイプといえそうです。
いずれもすっきり感のあるフロントノーズに意匠変更され、アッパーグリルの位置が従来型よりも高くなっています。
さらに、「HOME」と「LUXE」は、アッパーグリルの上部にメッキ加飾の横基調のラインが配されたことで、キリッとした顔つきになっています。
現行型の中でもクロスオーバーモデル的な位置づけになる「CROSSTAR(クロスター)」は、専用エクステリアのフロント、サイド、リヤの各ガーニッシュがシルバーに変わり、タフさを強調することで、クロスオーバーモデルらしい存在感を放っているのが印象的です。
新設されたRSだけでなく、LUXEとCROSSTARのe:HEVにも試乗する機会があり、e:HEVのスムーズでリニアな加速フィールを味わえました。スムーズな加速だけでなく、ダウンシフトもバッテリーEVなどよりも穏やかで運転しやすいのが印象的。
RSは「SPORT」モード時で元気な加速感を享受できるのはもちろん、「NORMAL」でもほかのLUXEとCROSSTARよりもスタートダッシュが鋭い印象を受けます。
e:HEVは、駆動用モーターの出力向上が利いていて、上り坂でもストレス知らず。さらに、アクセルの応答性が一段と鋭くなっているRSは、ガチガチのスポーツ仕様ではないものの、他のタイプと比べると、乗り味も含めてピリ辛程度の味付けがされているのが確認できます。
なお、CROSSTARは、最低地上高が155mm(FF)、160mm(4WD)で、135mm(FF)、150mm(4WD)の他のタイプと比べると若干高くなっているものの、乗り心地に差はあまり感じられませんでした。
好みの差があるでしょうが、RSがより引き締まった足まわりになっています。LUXEやCROSSTARなどの方がソフトであるはずですが、LUXEやCROSSTARは、低速域では上下動だけでなく、左右に揺すぶられるような振動も伝わってきます。RSは段差を乗り越えた際の衝撃自体は大きいものの、ショックの収束(収まり方)はより早く感じられます。
このように、e:HEVのスムーズなパワートレーンに対して、タウンスピードでは足が硬いことによるアンバランスさも少し抱かせます。ただし、マツダ・デミオに乗る筆者が、国産Bセグメントの中でライバルと比べても、フィットの乗り心地は十分に合格点以上というレベルにあります。
フラットライド感ではヤリスが少し上回る程度で、フィットを明らかに凌駕する上質な乗り味を供してくれるのは、プジョー208やシトロエンC3、DS3クロスバックというステランティス勢(旧グループPSA)くらいでしょうか。
個人的には、現行フィットを買うのなら、RSのスタイリングと走りの良さが一段と光っているように思えました。今回試乗した中では、LUXEは日常使いに溶け込みながら上質感を大切にしたいユーザーに最適で、CROSSTARは、専用エクステリアだけでなく、ルーフレールや撥水加工が施されたシート、そして唯一、2トーンカラーを選択できるのもポイントになっています。
●ディーラーでオンにする必要がある標準装備の「急アクセル抑制機能」
また、フィットのプレス向け試乗会には「急アクセル抑制機能」がアクティブになった車両の同乗走行も用意されていました。
同機能は全車に標準装備されていて、ニーズに応じてオンにする際は、ディーラーで専用機器によりセッティングしてもらうシステムになっています(有償で、同機能を使うスマートキーの登録も必要)。従来のペダル踏み間違い防止装置は、車両の前後に障害物(店舗の壁など)を検知して作動する誤発進抑制機能で、この機能も「ホンダ・センシング」に含まれています。
「急アクセル抑制機能」は、前後に障害物がない状態でも急なアクセル操作により、車両がペダルを踏み間違えたと判断すると、出力を絞り、いわゆるペダル踏み間違いによる暴走事故を防ぐ機能です。なお、トヨタやトヨタから同様の機能を供給されているマツダも現時点では、ディーラーオプションになっています。
ホンダの開発陣による実際のテストでは、普通に走らせていて同機能が急に作動してしまう(本来の機能から外れて、エラー的に)ことはほとんどなかったそうなので、より熟成が進み、全車オンの状態で販売されても良いような気がします。
●ボディサイズ:全長3395×全幅1695×全高1540mm(LUXE)、全長4095×全幅1725×全高1570mm(CROSSTAR)
(文:塚田 勝弘/写真:小林 和久)
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