ホンダ「フィット」に加わった待望の「RS」は、スポーティ仕様というよりも上質なグランドツーリング的存在

■待望の「RS」は、トヨタ・ヤリスを追撃する切り札

長年の間、ホンダの登録車を牽引してきたフィット。現在では、その座をフリードに譲り、さらに圧倒的な認知度を誇る現代の国民車ともいえるN-BOXが盤石の構えとあって、自販連による登録車販売ランキングでは、10位前後という状況になっています。

フィットRS
マイナーチェンジを受けたフィットRSの走り

2022年1月〜6月の上半期は、前年同期比99.8%の2万9617台で9位。トヨタ・ヤリスが同68.5%でも8万1580台で1位ということを考えると、少々物足りなく感じられます。

ホンダ フィットRS
ホンダ・フィットRSのリヤビュー

2022年10月に受けたマイナーチェンジの目玉は、お馴染み「RS」の追加。同時に、2モーターハイブリッドシステムの「e:HEV」も改良され、モーターの最高出力の向上と、アクセルのレスポンスも高められています。

「RS」は「Road Sailing(ロード・セーリング)」から命名されていて、「RS」の名はフィットだけでなく、1974年10月、初代シビックに追加された「1200RS」など、ホンダがスポーティ仕様に与えるグレードになっています。

ホンダ フィットRS
新グレード「RS」のエンブレム

現行フィット登場時に、筆者が開発主査に「RS」が設定されなかった点について伺うと、「BASIC(ベーシック)」「HOME(ホーム)」「NESS(ネス)」「CROSSTAR(クロススター)」「LUEX(リュックス)」と、5タイプを揃えたシリーズの世界観に「RS」は似合わない(そぐわない)、というようなニュアンスが返ってきたのを思い出します。

●「RS」は、上質かつスタイリッシュなエクステリアが印象的

マイナーチェンジで加わったお馴染みの「RS」は、現行フィットが持つ上質感を損なわずに、適度にスパイスが効いた絶妙なスタイリングを実現しているように映ります。

ホンダ フィットRS
ホンダ・フィットRSのエクステリア

エクステリアは、専用フロントグリルやフロントバンパーをはじめ、サイドシルガーニッシュ、リヤバンパーやリヤスポイラー、アルミホイールなどの専用意匠により、さり気なくスポーティ感を演出。

ホンダ フィットRS
フィットRSの16インチアルミホイール

これらの専用エアロパーツには、ピアノブラック塗装が施され、フロントグリル右下とテールに配された「RS」のロゴも効果を発揮しています。

そのほか、エキパイフィニッシャーや専用16インチアルミホイール、ブラック塗装ドアミラーなどを用意。これらのエアロパーツは、フィットをRSらしく引き締めているのはもちろん、「Enjoy耐久レース」こと「Joy耐」で得られたノウハウも盛り込まれ、空力性能を高める機能パーツでもあります。

ホンダ フィットRS
フィットRSのインパネ

インテリアは、グレー基調のコンビシートで、RS専用本革巻ステアリングホイール(3スポーク)、本革巻セレクトレバーのほか、減速セレクターやドライブモードスイッチなどを用意。

セーリングは、帆船の「帆走」という意味ですから、ホットハッチというよりもコンパクトなグランドツーリングといえそうな仕立てになっています。

ホンダ フィットRS
フィットRSの走行モードスイッチ

先述したように、アクセルオフ時の減速力を4段階で選択できる減速セレクターに加えて、「NORMAL」「SPORT」「ECON」から選択できる3つのドライブモードを備えています。さらに、先述の16インチタイヤ、専用サスペンションにより足元が引き締められています。

●「e:HEV」の進化でスムーズな走りにも磨きがかかる

既述のようにRSは、「Road Sailing(ロード・セーリング)」という車名からも分かるように、スイフトスポーツやポロGTIのような辛口な仕様ではなく、快適性も担保されたバランスの良い走りが得られます。

ヨコハマタイヤの「ブルーアースGT」を履く足まわりは、他のグレードと乗り比べると確かに引き締まっていて、低速域では、大小問わずコツコツとした突き上げがあります。

ホンダ フィットRS
ホンダ・フィットRSの走行シーン

中高速域になるとフラットライド感が得られ、RS以外との乗り心地の差は確実にあるものの、大差があるとはいえません。

また、「e:HEV」は、エンジンが頻繁に作動するものの、街中から山道までモーターアシストによるスムーズさが確実に感じられます。2モーターのうち、駆動用モーターは、最高出力が80kW(109PS)から90kW(123PS)に向上し、モーターアシストの加勢が強まっています。

ホンダ フィットRS
フィットRSのフロントシート

ドライブモードスイッチは、メーター左側のインパネにあり、運転中の操作性はもう少し。マイナーチェンジということで、「置き場」が限られたのかもしれませんが、頻繁に切り替えるものではない、というのもあるかもしれません。

ホンダ フィットRS
フィットRSのリヤシート

「SPORT」にすると、CVTのステップアップシフトとも相まって、レスポンスが高まりスムーズな加速感が得られるため、山道や高速道路などでは重宝しそう。

コーナリング姿勢も安定していて、いざとなれば軽快なフットワークも堪能できます。

一方で、減速セレクターで回生ブレーキを強くしても、バッテリーEVのような強烈な減速Gはなく、逆にいえばスムーズで扱いやすくなっています。ただし、「SPORT」にしても強烈な加速感や減速感が得られず、「RS」はあくまで「Road Sailing」からの域を出ていないのが分かります。街中で普通に走らせる分には「NORMAL」で十分という印象。

ホンダ フィットRS
RSはハイブリッド仕様のe:HEV のみとなる

高速道路でも挙動は安定していて、スポーツ仕様というよりも小さめのグランドツーリングのようなキャラのように思えます。乗り心地が良いのはもちろん、リヤシートでは、例の上下動が大きくなり、音や振動面が強くなるのは仕方ないところでしょう。

とはいえ、100km/h巡航時は国産コンパクトとしては十分に静かといえるレベルで、美点である後席足元の広さも快適性に寄与しています。

現行フィットは、上質な内外装に加えて、広々したキャビンなどによる快適性などが美点で、RSは、上質さを維持しながらスパイスを効かせた仕様になっています。

●ボディサイズ:全長4080×全幅1695×全高1540mm
●e:HEV RS 価格:234万6300円

(文:塚田 勝弘/写真:小林 和久)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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