日本発のバイク向け先進運転支援システムはステレオカメラを使う【バイクのコラム】

■日立AstemoがEICMAで二輪向けADASを発表

Hitachi Astemo EICMA2022
日立のステレオカメラといえば四輪での採用例も多い。電制サスペンションとの連携も考えられているという

2022年11月8日~13日、イタリア・ミラノで開催された世界最大級のモーターサイクルショー『EICMA2022』において、日立Astemo(アステモ)が二輪向けのADAS(先進運転支援システム)を発表しました。

あらためて整理すると、一般的にADAS機能としては先行車に追従して速度を合わせるACC(アダプティブクルーズコントロール)や、車線を検知して車線中央維持を補助するLKA(レーンキープアシスト)などが知られています。

また、交通事故の低減につながる技術として、前方に障害物を検知したときに減速・停止を行うAEB(オートノマスエマージェンシーブレーキング=衝突被害軽減ブレーキ)は、もはや四輪では必須となっています。

今回、日立Astemoが発表したのは、同社として初となる二輪車向けステレオカメラを使用したAEBを中心としたADASテクノロジーです。

二輪向けのADASといえば、ボッシュが開発したミリ波レーダーを使ったシステムが、すでに量産モデルに採用されていますが、日立Astemoは、四輪での採用実績も多いステレオカメラで勝負しようというわけです。

●ステレオカメラを軸とした統合制御がポイント

Hitachi Astemo EICMA2022
小型・高出力インバーターや、モーターとギヤボックスが一体となったE-Axleなども展示していた

四輪でのADASに関わってきた豊富な経験を、二輪の安全に活かすというだけでも期待は高まりますが、それだけではありません。

日立Astemoには、パワートレインの制御技術、サスペンション、ブレーキシステムなど多彩なプレーヤーが集まっています。今回の提案においても、ステレオカメラからの情報(衝突危機)を、エンジン制御とブレーキ制御にフィードバックすることをアナウンスしています。

さらに上級システムでは、電子制御サスペンションにも制御を加えるといいます。AEB作動時の車体安定性を高める効果が期待できるものになっているのです。

四輪の場合は、AEB作動時に車体の安定性を保つことは車体側だけで可能です。最新のシステムでは、ドライバーが意識を失っても安全に停止できるものも出てきています。しかし、二輪の場合はそうはいきません。

ライダーでなくとも容易に想像できるように、二輪における車体の安定性には、ライディングポジションやアクションが大きく影響します。

しかしながら、AEBが作動するシチュエーションというのは、ライダーが前方の危機に気付いていないときですから、急ブレーキに身構えていないことになります。当然ながら、そうした状態でのAEB作動は転倒の危険性が考えられるのです。

●メガサプライヤーだからこそ統合制御が可能

Hitachi Astemo EICMA2022
日立Astemoは2021年1月に、日立オートモティブシステムズとホンダ系サプライヤー3社(ケーヒン、ショーワ、日信工業)が経営統合して生まれたメガサプライヤー

そこで、前述した統合制御が効いてきます。

二輪車向けステレオカメラによる「見る」に加え、パワートレイン、サスペンション、ブレーキを連携させることによる、「走る」「曲がる」「止まる」を一括制御することで、車体の安定性を保ちながら危機回避につながるADASが実現できるというわけです。

筆者のようなリターンライダーとしては、刹那的刺激よりも、安心安全にバイクライフを楽しみたいというマインドが強いことでしょう。そうしたライダーにとって、日立Astemoの統合制御ADAS技術は気になるテクノロジーであることは間違いないでしょう。

ご存知のように、日立Astemoは日立製作所と本田技研工業が共同出資したサプライヤーであり、もともとホンダの二輪部門における有力サプライヤーも統合されています。

気の早い話かもしれませんが、日立Astemoが発表した統合制御ADAS技術は、ホンダのバイクに採用されてもおかしくありません。国産バイクで統合制御ADASを味わえる日が来ることを期待したいと思います。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
続きを見る
閉じる