波しぶきさえ美しい、「サルニコの造船所」が生んだイタリア製スポーツボート【SARNICO Spider 46 GTS試乗インプレッション】

■美の神が潜むフォルム、スプレーすらアートと思わせるエレガントなオープンスパイダ―

イタリア・イセオ湖畔の町サルニコに生まれたスポーツボートの建造メーカー「カンティエリ・ディ・サルニコ」。世界最高峰のクラフトマンシップを活かし、少量生産で“独自の走り”と“随一の美しさ”を誇るプロダクトを送り出しています。そのサルニコ社が手掛ける「スパイダー 46 GTS」の完成度を、マリンジャーナリストの山﨑 憲治さんがリポートします。


●イセオ湖畔の街の名を冠した建造メーカー

SARNICO SPIDER 46 GTSのデザイン
SARNICO SPIDER 46 GTSの完璧なデザインは美神を潜ませる

イタリア北部湖水地方、コモ湖、イセオ湖、ガルダ湖周辺は、ヨーロッパきっての避暑地として貴族たちのゴージャスなビラが並び、芸術、音楽、趣味、スポーツと、洗練された遊びの文化が培われてきた。サイクリング、バイク、スポーツカー、パワーボートetc。その中心はコモ湖だった。

隣接するイセオ湖にはボートメンテナンスのファクトリーが集まっていた。湖畔のサルニコの街とその周辺、後にプレジャーボートのトップブランドとなるRivaもここで誕生している。

SARNICO SPIDER 46 GTSのフォルム
安定感のあるフォルム

そのサルニコの名をブランド名に持つ「Cantieri di SARNICO」は1992年に創業。1997年にForestiファミリーが取得、2001年には最初のプロダクト艇SARNICO65クーペをデビューさせる。

CEOのLuigi Forestiはヴェニス・モナコのオフショアパワーボートレースに優勝、またビアレッジオ・モナコのレースにも優勝の若きレジェンド。貴族の出であり、そのラグジュアリーなライフスタイルの体現者としてのボート創りのこだわりがSARNICOのブランド名を確実なものにしている。

SARNICO SPIDER 46 GTSの走り
SARNICO SPIDER 46 GTSの美しいフォルム

現在のファクトリーはサルニコから南西7㎞のカプリオーロに移し、少量生産の利点を生かした高品質なボートを送り出している。SPIDER、SARNICO43、45、SPIDER46GTS、SARNICO50、60、60GT、60GTV、65、SARNICO GRANDE、ARCIDIAVOLOのラインアップが用意されている。

●何処を見ても破綻の無いデザイン

SARNICO SPIDER 46 GTSのメインデッキ
オープン艇の解放感にあふれたメインデッキ。対面するソファ、オープンギャレー、ヘルムステーション。走り出したい誘惑にかられる

シャープなスタイリングのTルーフを持つオープンイクスプレス艇が停泊している。メタリックゴールドとブラックのラグジュアリーなカラーコンビネーションがその伸びやかで美しいフォルムを際立たせている。

塗装剤はPALINAL、ラグジュアリーブランドが挙って使うイセオ湖で生まれた塗装ブランドだ。バウデッキからフロントスクリーン、Tトップへの流れるようなライン、サイドフォルムの工芸のような造作とキャラクターライン、アフトで絞込みロープロファイルを見せつける、何処を見ても破綻の無いデザイニング。美神の潜むそのカタチに感応するばかり。

SARNICO SPIDER 46 GTSのバウバース
バウバースにはアイランドベッドのマスターステートルームがある

このアートフルなデザインを創作するのはNuvoLari-Lenardスタジオ、スーパーヨットからプロダクションモデル迄、最も先端的で芸術性を帯びたデザインを提供するスタジオだ。代表的なのはPalmer JohnsonやCRN、プロダクト艇ではMonte Carlo Yachts、Colombo、Lexus LY650のインテリアなど、話題の中心はNuvoLari-Lenardだ。もちろんこのSARNICO Spider 46 GTSもその代表となる。

●まるでライトウェイトスポーツカーの運転席

SARNICO SPIDER 46 GTSのロアデッキサロン
ロアデッキのサロンにはゆったりとしたコーナーソファが用意される

トランサムステップのチークデッキから乗り込む。このチークはサロンフロアだけでなく、両舷のキャットウォークからバウデッキまで貼られ、バウデッキにはサンパッドが敷かれる。右舷前方にヘルムステーション、その背後にゴールドのギャレーユニットが置かれサロン後部のコの字型ソファへとつながる。

左舷にはフロントウィンドウ下からサロン後部へと流れるロングソファが用意され、その前方は傾斜を持ちサンベッドの趣きを示したまま後部デッキのソファを形作る。防寒対策の為、透明なエンクロージャーで囲まれているが、開放感あふれたオープンキャビンだ。

SARNICO SPIDER 46 GTSのヘルムステーション
オープンスポーツカーを思わせるヘルムステーション

ヘルムステーションは右舷前方に。フリックアップするベンチシートの前に革巻きの2スポークステアリングホイール、その前方にFURUNOのマルチモニター、その左右にVolvo Penta D6 IPS600・435hpのアナログメーターが並ぶ。

ステアリング右手前にIPSジョイスティック、その上にエンジンコントローラ―が位置している。まるでライトウェイトスポーツカーのドライビングシートにいるようでわくわく感に包まれる。

●「海」を感じさせるトーンコントロール

SARNICO SPIDER 46 GTSのゲストルーム
ミジップにはフルビームのゲストルームが用意される。ツインベッド右舷サイドにワイドなダブルベッドがあり、左舷サイドには縦向きにシングルベッドがある

中央のスライドドアを開け、コンパニオンウェイをロアデッキへ降りる。広々としたサロンが広がる。ウォールやソファはホワイトに近いベージュ、トリムは濃いネイビーブルーと、マリンを感じさせるトーンコントロールが施されている。

右舷サイドにはシンクに2口コンロ、冷蔵庫のギャレーが用意される。その横にはたっぷりとした3人掛けソファがありリラクゼーションラウンジが展開される。左舷にはトイレとシャワーブースのパウダールームが位置している。

SARNICO SPIDER 46 GTSのギャレー
艶やかな色彩のギャレーが位置する。キャビネットのトップを開けるとシンクに2口のIHコンロが現れる。その下には冷蔵庫が潜んでいる

バウバースはオーナーズルーム。ルームのブルー&ホワイトのトーンコントロールが芳醇なマリタイムを演出する。両脇から3ステップで上がるアイランドベッド。ミジップにはフルビームのツインベッドルームがある。右舷にワイドベッドを横向きに配置し、左舷にシングルベッドがセットされている。子供たちを放置するにはいいスペース。天井は低いが舷窓からの採光が豊かで閉塞感はない。

●ミッドシップスポーツを操るような痛快さ

SARNICO SPIDER 46 GTSの走り
スプレーを巻き上げ追いやり叩き落す、船上はどこもドライだ

晴天、北風6m。イエローコンディションの夢の島マリーナから出航。8名乗船、Volvo Penta D6 IPS600・435hp×2基。ポート内600rpm5.1ノット、1000rpm7.7ノット。運河を若洲沖から東京ゲートブリッジを右舷前方に見ながらスロットルを入れていく。

うねりと共にチョッピーな波がある。1500rpm10.0ノット、ハンプ状態でもトルク感ある走り、更に回転を上げる。2000rpm14.5ノット、プレーニングし始める。2500rpm23.3ノット。スムーズな加速が続く。

3000rpm31.1ノット、クルージング速度領域。ターンを試みる。ステアリングを切りこんでゆく、心地よいインサイドバンクを伴いながら思い通りのトレースラインを描いていく。追いやり巻き上がるスプレーが煌めいている。IPSにありがちな極端なインサイドへのバンクはなくバランスの良いインボード艇の運動性能を思わせる。まるでミッドシップスポーツカーの切れ味の良い痛快極まりないコーナリングのパフォーマンスを見せる。

SARNICO SPIDER 46 GTSの走り
クルージング速度の30ノットで旋回する。バランスの取れた旋回性能を示す

このハルのデザインはVictory Design、パフォーマンスボートやオフショアレース艇のボトムデザインで世界的な権威を持つナバルアーキテクト。高剛性なハルでありながら波当たりのソフトさを作り出し、絶えずドライな環境にコクピットやヘルム周りを作り上げている。

波を断ち割りたたき上げたスプレーをしっかりチャインで落とし、後方へ追いやる。スイミングプラットフォームさえドライだ。更にエンジン回転を上げる。3400rpm36.7ノット。MAXフルスロットルを試みる。

この日のトップスピード37.2ノット、素晴らしいパフォーマンスを見せるSARNICO Spider 46 GTS。エンクロージャーをはずして走りたい。サマータイムが待ち遠しいではないか。

●SARNICO Spider 46 GTS概要

全長 14.65m
全幅 4.28m
喫水 1.10m
重量 15.00 トン
エンジン 2×VOLVO PENTA IPS600
最高出力 2×435ps
燃料タンク 1600L
清水タンク 395L
問い合わせ テクノマーレインターナショナル
TEL:048-878-6806

(文:山﨑 憲治/写真提供:テクノマーレインターナショナル/撮影:山田真人)

【関連リンク】

・テクノマーレインターナショナル
https://www.tecnomare-yachts.co.jp/

この記事の著者

山﨑 憲治 近影

山﨑 憲治

1947年京都生まれ。子供のころから乗り物が大好き、三輪車、自転車、バイク、車、ボート。まだ空には至ってはいない悩みがある。
車とプレジャーボートに対する情熱は歳を得るとともに益々熱くなる。
日本人として最も多くのプレジャーボートのテスト経験者として評価が高い。海外のボートショーでもよく知られたマリンジャーナリストである。2000年~2006年日本カー・オブ・イヤー実行委員長。現・評議員。2008年~現在「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。パーフェクトボート誌顧問。
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