FRなのにショートノーズ? 新型マツダ「CX-60」のデザインは二律背反から【特別インタビュー】

■ラージ商品群はニュージェネレーションデザインの集大成

CX60・メイン
スリークな美しさとSUVの高さのあるスタイルをどう両立させるのかがテーマだった

9月15日に発売されたマツダ新型「CX-60」が評判です。新世代ラージ商品群として、直列6気筒エンジンなどの新機構に加え、FRプラットホームによる佇まいも話題に。

そこで、エクステリアデザインの狙いについて、CX-60のデザイン全般を指揮した玉谷氏に話を聞いてみました。

●相反するふたつの要素にしっかり向き合う

── はじめに、今回のデザインコンセプトは「ノーブル タフネス(気品のある、力強い)」と、相反した言葉の組み合わせがユニークですね。

CX60・デザイナー
マツダ株式会社 デザイン本部 CX-60 チーフデザイナー 玉谷 聡氏

「ご存知のとおり、『魂動デザイン』を掲げるマツダは、コンセプトカーの『VISION COUPE』のようにスリーク(背が低く、つやがあり、なめらかな感じ)な美しさを目指しています。しかし、CX-60は高さのあるSUVの骨格ですから、まずその融合に悩みました。そこで、実際にスケッチやモデルで何度も検討してみたのですが、やはりどうもうまく行かない」

── これまで「CX-5」などのSUVをデザインしてきましたが、今回はさらに難しかった?

「はい。ラージ商品群としてスタンスがまったく異なりますから。そこで、結局初心に戻ってノーブルさとタフネスという、相反する要素にしっかり向き合おうと決めました。両者の融合は非常に難しいのですが、そこで逃げるのではなく、正面から向き合うという意志ですね。これにあたって、デザイナーの迷いをなくすため、チームでしっかり議論した上でこのコンセプトを掲げたわけです」

CX60・CX-5
CX-5。FFベースでありながらFR的なスタンスを採る。突き出たフード先端がシャープ

── 新しいラージ商品群はFRレイアウトが特徴ですが、マツダは「CX-5」などでもFR的なスタンスを目指していました。そこで、実際にFR車を扱ってみてどのような違いがありましたか?

「実は、ラージ商品群はFRの中でもフロントミドシップ的なレイアウトを採っているんですね。今回はこの素性をしっかり出すため、前輪の軸からAピラー付け根までの距離をかなり長く取りました。これにより、どのアングルからでもFRらしくリアに荷重が掛かって見えるんです。
また、横から見るとショルダーラインの軸は水平基調なのですが、断面をリアからフロントに向けて変化させ、リアアクスルに溜めた力をフロントに向けて『ズバッと』突き抜くスピードを表現しました。微妙なのですが、これによってボディを少し前傾させて見える効果もあり、そこがマツダらしいとも言えますね」

CX60・フロントフェンダー
前に突き出さず垂直にとなったフード先端と、タイヤからAピラー付け根までを長くとったFRレイアウト

── CX-5やCX-30などではフロントエンドを突き出させて前進感を得ていましたが、CX-60では突き出し感がなく、グリルはほぼ垂直のイメージとしましたね。

「はい。従来は、あくまでFFのバランスの中でスピード感を出すため、フロントオーバーハングの長さを活用して、あえてフードの先端も伸ばしていたんです。今回はFRらしい短いオーバーハングでのバランスを考え、ノーズ自体はAピラー付け根からフロントの先端までしっかり長さを表現しつつ、一方で、フード先端のシャープな突き出しはむしろ抑えました」

CX60・フロント
縦型になったランプとプロテクター表現の少ないすっきりしたロアバンパー回りが特徴

── フロントでは従来と大きくイメージが異なる縦型のランプも特徴的ですが、なぜこの形状になったのでしょう?

「ランプも先のフードと同じで、短いオーバーハングの中では従来のような切れ長形状は構造上難しいんです。また、顔の厚みも増えていますから、そこに切れ長のランプではバランスも悪い。だったら、いっそのこと従来のマツダ車とは異なる表情にしようと考えた。
実は、構造的な理由で当初はもっと縦長だったのですが、設計部門と調整を重ねてこの形に落ち着きました。そこに特徴的なラインティングシグネチャーを組み合わせ、グリルとの連続性を持たせているんです」

── SUVでは派手なプロテクターを付ける例が多いですが、CX-60ではエアインテークやロアバンパーを見てもそうした表現はなく、ほぼボディ色になっているのが印象的ですね。

「グレードにより若干の違いはありますが、サイド面がシンプルでメロウ(豊かで美しい)な表情なので、フロントをゴテゴテにしてしまうとバランスが取れないのです。そこで要素を減らして光の映り込みを優先しようと。ホイールアーチのクラッディングも同じで、できるだけ幅を狭くし、上級グレードではボディ色にするなど上質な表情にしています」

CX60・ドア面
「引き算の美学」として広い凹面で構成されたドアパネル。基本はMAZDA 3と同じ表現方法とした

── サイドのドア面について伺います。最新の魂動デザインでは「引き算の美学」として「MAZDA 3」のような映り込みのある凹面表現としていますが、今回は広大なドア面を持つラージ商品群として、たとえば凸形の断面にするといった案はありませんでしたか?

「ええ、検討段階ではありましたね。たしかに、CX-60の全幅は1890mmと従来より広いのですが、実は新設のトランスミッションのレイアウトやドライビングポジションの確保など、インテリア関連で使ってしまい、エクステリアの造形代はCX-5とほぼ同じなんです。
その条件で、CX-60の長く分厚い躯体にボディ断面、プランビュー(真上からの視点)とも満足できる張り出しは難しく、試作しても非常に弱い表情になってしまった。そこで、与えられたサイズの中でいかに大らかな面を作るかをあらためて考え、やはりMAZDA 3の方向で行こうということになったのです」

CX60・サイド
どの角度から見てもリアに荷重が掛かったように見えるFR的なプロポーション

── 次はリア回りについてですが、新型のリアパネルの高さは、ボディの大きさを考えると意外なほど低くなっていますね。

「よく気付きましたね(笑)。CX-5などではウエッジを効かせ、フロントを低くリアを高くしたスポーティなバランスとしています。一方、CX-60ではノーズを上げてほぼ水平基調としていますから、実はCX-5よりリアが低くなっています。
実際にはチョットした違いなのですが、より低重心に見え、落ち着いた大人っぽさが感じられるんですね」

CX60・リア
ノーズを挙げて水平基調となったことにより、意外にもリアパネルはCX-5より若干低くなっている

── 最後に。魂動デザインもかなり認知されてきたと思えますが、今回の新商品群ではまったく異なる次のステージへ、といった考えはありませんでしたか?

「それはなかったですね。魂動デザインはMAZDA 3からニュージェネレーションに入り『CX-30』『MX-30』と続いていますが、まだ完結はしておらず、CX-60も同じジェネレーションとして考えました。したがって、逆にラージ商品群はその集大成と言えるかもしれません。
もちろん、SUVとしてかなり表現の幅は広げたと認識していますが、さらに今後の展開についてはいま議論を進めているところなんです」

── 次のジェネレーションでの展開に期待しています。本日はありがとうございました。

(インタビュー:すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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