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■ダイハツが想定していた販売比率は、カスタムが50%、タントとファンクロスが各25%だが…
マイナーチェンジを受け、2022年10月3日に発売されたダイハツ・タントが絶好調といえるスタートを切ったようです。
タント・シリーズ(タント、タント・カスタム、タント・ファンクロス)の受注台数が、発表後1ヵ月時点で約5万台に達し、月間販売目標台数である1万2500台の4倍の受注を集めています。
特に人気なのが、上質感を備えながら迫力を増した顔つきが印象的なタント・カスタム、アウトドア仕様として追加されたタント・ファンクロスの2モデル。
ここでは、新型ダイハツ・タントの魅力を探っていきます。
今回のマイナーチェンジでは、「威圧感を抱かせないフォルムがユーザーから好評」という素のタントには手は入れられていません。エクステリアデザインが変更されたのは、新たに加わったファンクロス、そしてカスタムの2モデルです。
バンパーやヘッドランプのデザインが変更されたカスタムについて、ダイハツ くるま開発本部 製品企画部 チーフエンジニアの秋本智行氏に伺うと、カスタムだけのマイナーチェンジである場合は、ここまで変更できなかったかもしれないそう。
「ここまで」というのは、アウトドア系(ファンクロス)という企画がセットであったことで、ラゲッジスペース(後席のシートアレンジ)も含めた大変更ができたというニュアンスです。
タント・シリーズは、今回のマイナーチェンジによりラゲッジスペース側からも後席のスライドが可能になり、使い勝手が増しています。現行型登場時のプレス試乗会において、助手席側のピラーイン(ピラーレス)構造を持つミラクルオープンドアが特徴のタントでは、助手席側ドアから荷物を出し入れすることが多いという理由から、荷室側からの後席スライド操作系(レバーなど)の採用を見送った、という話を筆者はそのとき伺いました。
●荷室側からも後席スライドが可能になり、さらに上下2段調整式デッキボードを用意
日常使いであれば不足はないでしょうが、デイキャンプも含めたオートキャンプなどのアウトドアでは、大きな荷物や多くの物を頻繁に出し入れするはずです。
そこで、新型タントでは、荷室側からも後席スライドが可能になっています。それだけでなく、新たに上下2段調整式デッキボードを用意。上段(脚を立てた状態)にすれば、後席背もたれ前倒し時にフラットになり、荷室を上下に仕切ることができます。
さらに、デッキボードの下には、ラゲッジアンダースペースも用意。通常状態では、開口部下側とデッキボードの段差を小さく抑えることができます。
このデッキボードは脱着式で、車外でミニテーブルとして使うことができます。キャンプでテーブルとして活用したり、あるいは地面に直接置きたくない荷物を置いたりするのに重宝しそうです。
上下2段式調整デッキボードにはまだまだ特徴があります。
たとえば、背もたれを前に倒し、デッキボードを上段モードにするとフラットになるため、先述の秋本智行氏は「クーラーボックスなども置きやすくなります」と説明してくれました。後席の背もたれを前倒しにすると段差が残ってしまうことが多く、その課題を解消するべくデッキボードでフラットにするという選択をしたようです。
新しいタントでは、後席と荷室まわりが一新されています。なお、後席は240mmのロングスライドを実現しており、前席のフルフラットと後席背もたれを寝かせたセミフラットが可能。
なお、筆者は、ファンクロスのこうした使い勝手への配慮の高さから、販売が終了した軽の超スーパーハイトワゴンといえるウェイクの受け皿でもあると想像しました。秋本智行氏は、「そうしたニーズも拾うかもしれない」と前置きしつつ、「ファンクロスもあくまでファミリー層がメインであり、ウェイクよりももう少し広いユーザー層を想定している」という想いも伺うことができました。
さらに、タフトと社内で競合するのでは?という問いに対しては、「タフトはもう少しパーソナルなキャラであるため、それほど需要を食い合うことはない」というお答えでした。
●9インチスマホ連携ディスプレイオーディオのメーカーオプション設定
装備に戻ると、インパネでは9インチスマホ連携ディスプレイオーディオのメーカーオプション設定がトピックス。エアコンやマルチメディアなどに対応する音声認識機能や「Apple CarPlay」のワイヤレス接続、HDMIソケットの追加設定により、DVDプレイヤーやゲーム機など、幅広い端末に対応しています。
他にも、電動パーキングブレーキの設定グレードの拡大、フロントセンターアームレスト(ボックス付)の装備、デッキサイド4ヵ所にユーティリティフックを4つ配置、インパネ助手席側にショッピングフックを備えるなど、利便性の向上が図られています。
これらは、タント、カスタム、ファンクロスの共通機構、装備(なお、上下2段調整式デッキボードは、福祉車両をのぞく)です。
続いて、発売前の時点でタントシリーズの50%を占めると同社が想定しているというカスタム(なお、タントは25%、ファンクロスも25%と想定)をチェックします。
発売1ヵ月後のデータでは、タントが約20%、カスタムが約55%、ファンクロスが約25%と、タントが予想より5%低く、カスタムの比率がその分高くなっています。
●フロントまわりを刷新したカスタムと、ルーフレールや専用バンパーを備えるファンクロス
カスタムは、より上質感と迫力を出すため、大型のフロントグリルをはじめ、ヘッドランプ、バンパーも含めて手が入れられています。
インテリアは、ブラックを基調にブルーの加飾が配置され、精悍さと質感の高さを醸し出しています。シート表皮には、レジスター加飾と統一感のあるブルーが採用され、さらにブルーのパイピングもあしらわれています。
ここまでカスタムの顔つきを変えたのは、登場時はバランスがいいと判断していたものの、市場から「もう少し迫力ある顔つきを」という声もあったため。結果、金型から変えることになったそうです。
ルーフレール、専用バンパーとスクエアなヘッドランプを備えるファンクロスは、ひと目でアウトドア系と分かるデザインが与えられています。
インテリアは、ブラックを基調に、オレンジの加飾やカモフラージュ柄のシート表皮が配されています。その他、後席背面とデッキボード表面に防水機能が付与されていて、濡れたり汚れたりした荷物も置きやすく、手入れのしやすさも美点です。
ラゲッジスペース内には、ルームランプが天井と側面(デッキサイド右側)に配されていて、夜間の荷物の出し入れや車中泊をする際などにも便利でしょう。
さらに、ファンクロス専用として、USBソケットが後席右側にも用意されています。
タントも含めて荷室を中心に使い勝手を向上しつつ、売れ筋への期待が高いカスタムの内外装を磨きあげることで、スタートダッシュに成功したタント。ライバルは、王者ホンダN-BOX、スペーシア・ギアをラインナップするスズキ・スペーシア(スペーシア・ベースは商用車のため、全軽自協のスペーシア・シリーズには加算されない)という売れ筋モデルばかりです。
なお、2022年10月の軽自動車の販売ランキングでは、タントはN-BOXに次ぐ2位でした。半導体などの部品不足という重荷はありそうですが、マイナーチェンジ後の数字は、2022年11月分から反映されるはずで、11月の新車販売が気になるところです。
(文・写真:塚田 勝弘)