鬼滅の刃「無限列車」のモデルとも言われたJR九州のSLが2023年度限りで引退

■製造から100年を迎えた古老のSL

JR九州は熊本〜鳥栖間で運行しているSL列車「SL人吉」の運行を、けん引する8620形58654号機の老朽化を理由に、2024年度3月頃までで終了することを発表しました。

運行終了が発表された「SL人吉」をけん引する8620形58654号機

58654号機は1922年11月18日に落成。今年で製造100年を迎える古豪です。それ故に老朽化が著しく、部品の調達やメンテナンスを担う技術者の確保が難しくなっていることが「SL人吉」運行終了の理由です。

58654号機は1975年に廃車され、肥薩線矢岳駅横のSL保存館で静態保存されました。1987年に発足したJR九州は58654号機の動態復元に着手。ボイラーを新造するなどかなり大がかりな復元作業を経て、1988年8月28日から「SL あそ BOY」として豊肥本線熊本〜宮地間で運行を開始しました。

豊肥本線で「SL あそ BOY」をけん引していた頃の58654号機

2005年には台枠の歪みによるトラブルが発生し、同年8月28日で「SL あそ BOY」の運行を終了。58654号機は2度目の引退となりました。

JR九州は復活を模索。その結果、58654号機を製造した日立製作所に台枠の設計図が現存していることが判明しました。そこで、2007年から大規模な修復工事を実施。台枠は2008年に日本車輌製造で新造。ボイラーも修繕しました。

再復活した58654号機は活躍の場を急勾配のある豊肥本線から比較的平坦な肥薩線に移し、2009年4月25日から「SL人吉」として熊本〜人吉間で運行を開始しました。

しかし2020年7月4日に発生した令和2年豪雨により、肥薩線は甚大な被害を受け、「SL人吉」も運行を休止しています。

●鬼滅の刃「無限列車」をけん引

2019年に、アニメ「鬼滅の刃」が大ヒット。2020年に「鬼滅の刃劇場版-無限列車編-」が上映されました。

この無限列車をけん引するSLが8620形によく似ていたこともあって、JR九州と「鬼滅の刃劇場版-無限列車編-」のコラボ企画として、2020年11、12月に「SL鬼滅の刃」を熊本〜鳥栖間で運行。けん引機となった58654号機は、ナンバープレートを「鬼滅の刃劇場版-無限列車編-」と同様の「無限」に変えて運行しました。

「無限」のプレートを付け「SL鬼滅の刃」をけん引する58654号機

肥薩線の復旧の目処は全く立っていませんが、2021年5月からは「SL人吉」を熊本〜鳥栖間で運行しています。

JR九州は58654号機落成100年を記念して、11月18日(金)に八代駅で「58654号機百歳記念イベント」を開催。熊本〜八代間で「SL人吉 58654号機百歳号」を運行します。

引退が発表された58654号機ですが、それはまだ1年以上先のこと。まずは百歳のバースデーをお祝いしたいと思います。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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