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■「事故らない」ためのドライビングスクール講師でもある清水和夫
●ポルシェ911 GT3 RSを乗るには体力・気力・メンタルも必要ですよ!
前回紹介した、ポルシェ911 GT3 RSを国際モータージャーナリスト・清水和夫さんがシルバーストーンで味わった至福の3LAP。
今回は、この究極の超モンスタースーパーマシン試乗の後日談が、毎週金曜日20時からYouTubeで生配信されているStartYourEnginesX『頑固一徹学校』10月7日配信分で語られているので、ご紹介します。
清水さんとポルシェの関わり、そのポルシェを作ったピエヒ博士の尊敬するホンダ…などなど、興味津々な話がいっぱいです。
●F1マシンばりの超強烈なダウンフォースで速さを得たポルシェ911 GT3 RS
ポルシェ911 GT3に比べ、今回乗った911 GT3 RSはどのくらい速いのか?
たとえば、ダウンフォースがGT3は285kgで、GT3 RSはGT3の3倍の860kg! つまり、マシンの上から860kgで押さえつけるということ。200km/hで走ると、GT3 RSは約400kgのダウンフォースがある。だから、もう完全にF1と同じようなダウンフォース技術を使ってクルマを速く走らせているのです。
エンジンのパワーを上げて、タイヤをブッとくして、そして軽量化してクルマを速く走らせる、というのが従来のやり方。ただ、もうここにきて、エンジンはもう一杯いっぱいだしね、4Lフラット6を9000rpmまで回していますから。軽量化もカーボンを使ったりして多少は軽くなっているけど、ある意味、もう一杯いっぱい。
これ以上速くするにはどうしたらいいのか?ということで、空力に行こうと。
今週(配信当日の10月7日時点)は鈴鹿でF1が走っていますけど、F1と同じやり方ですね。
スピードを上げるには、ドラッグを少なくする。ただ、コーナーではダウンフォースを高めなければいけない。
ということで、リヤの巨大なウイング。これがブレーキングするとピュッとオッ立つんですね。オッ立つから空気の力でダウンフォースがかかって、ブレーキングで前のめりになるのをグ~ッと上から押さえつける。それがDRS(ドラッグリダクションシステム)のひとつの効果です。
ちなみに、DRSというのは『空気抵抗を減らす』というシステムですけど、今回は広義の意味で使われています。
ブレーキングしてターンインするときには、フロントの床下にフラップがあり、それでフロントにダウンフォースをつけてアンダーが出ないようにする。それがオートモードのスイッチを付けていると、シルバーストーンを1周走ると、ブレーキングではリヤにダウンフォースがかかり、ターンインではフロントにダウンフォースが普通にかかる。
ということで、イヤになるくらい速いんですよ!!
見た目、たとえば4速170km/hくらいかな?と思っても、実は185km/hくらいでいけるとか。だから、見た目よりも速いコーナリングが可能なんです。もはや、これ以上速くする技術は無いだろう…とずっと思ってきましたけどね。
●とにかくまぁ~Gが凄いのなんのって!
私は最初の水冷996型のGT3…2003年だったと思いますけど、イタリアのサーキットで行われた試乗会に幸運にも参加しています。
また、水冷時代からのGT3、GT3 RS前期/後期。997型のGT3、GT3 RS前期/後期。そして991型のGT3、GT3 RS前期/後期。そして今回は992型のGT3 RS前期にも乗ってきました。992型後期のGT3 RSがあるのかどうか分かりませんけども。
ただそれと並行して、今度はターボのGT2、996型GT2 RSにも乗ってきました。私は鈴鹿で行われているRUSH CUP(ラッシュカップ)というレースで走っていました。ちなみに、ターボのGT2でいえば996型がベストカーでしょうね。
で、今回は992型のGT3 RSでシルバーストーンを走ってきました。
4LAPくらいしか走っていないんですけど、データを見ると、まぁ横G=1.55Gで1.6G近いです。ブレーキング=1.6Gを超えています。何周か走って慣れてきたときに、一発思いっきりブレーキ踏んだら1.7Gくらい出ているし、見通しのいい高速コーナーで、アンダーステアが出るくらいのところまで攻めてみると、軽く1.6Gくらい出ていますから、帰ってきて首が痛いのなんのって!
●レーシング・ポルシェに乗るための体力・気力作りができる『ポルシェ・ヒューマン・パフォーマンスセンター』
F1では、その前座として991型のポルシェ・カップカーのレースもあります。
今、レーシングカーは物凄く速いですから、もう人間の体はついていかない。なので、シルバーストーンにある「ポルシェ・エクスペリエンスセンター」には『ポルシェ・ヒューマン・パフォーマンスセンター』というのがあり、そこに行くと、フィジカルにその人間の体を鍛える、レーシングドライバーに必要な機能を高めるような、フィットネスジムのエクササイズがあるんです。
笑っちゃたのは、電話ボックスみたいな部屋があって、その室内がル・マンのLMP-1くらい、40度くらいの暑さになって、その中で我慢大会をするような部屋もあるんです。
また、文末に添付した動画にあるように、壁に向かっていろんなランプがパッパッて点き、その点いたところを押すというもの。レーシングドライバーとして目は真っ直ぐ見ていなければいけない。で、点いたらパッと押す。その反射神経とか、視野の広さを鍛えるトレーニング。この視野の広さは150~160度くらいはないとダメだ、と。でも、なんとなくこの辺(真横辺り)って感じますよね。
まぁ、人間を鍛えないと、これからのポルシェGT3みたいな速いクルマは乗れないぞ!と言われているみたいな気がしましたね。
確かに、最近の0-100km/h=3秒切るようなタイカンのEVに乗ると、加速したときに血が後ろに行ってブラックアウトしそうになりますからね。これは田中哲也さんもですけど、レーシングドライバーみんな、ポルシェ・タイカンでフル加速すると「ヤバイ、やばい!」って、発進して2秒後くらいにはもうブレーキを踏まないと、ウゥ~ってブラックアウトしそうになっちゃうんですね。それくらい今、速いクルマが出てきています。しかも、ナンバー付きの公道を走れるクルマで。
ですから、体を鍛えていかないと、とてもじゃないけどこれからの911 GT3みたいなハイパフォーマンスマシンなんか乗れないです。まぁケイマンのGT4なんかはほのぼのしているのかなと思いますけど。
911 GT3、GT3 RSは、普通の人が乗りきれるクルマじゃない!というのは、あえて言っておきたいと思います。
●356を世に出したフェリー、フラット6を作ったピエヒ
シルバーストーンに行ってみたら、993型GT3 RSのプレゼン資料の中に、まずフェリー・ポルシェ、フェルディナント・ポルシェの息子さんなんですけど、最初に356を作った2代目ポルシェさんですね。その方の書いた言葉がそのまま資料に出てくるんです。
「パッと見渡すと、私が乗りたいクルマは無かった。ゆえに私は、自分が満足できるクルマを作ります」
と言って356が出てきたんです。これは4気筒エンジンですね。
1960年代になると、やっぱり6気筒エンジンが欲しい!ということで、これがポルシェの3代目、娘さんの系譜であるフェルディナント・ピエヒさんが、ポルシェに入って6気筒エンジンを作るんです。それが911が誕生した最初のモデルになっています。
わずかそこから10年もしないうちに、2.7LのカレラRSというのが出てきます。これが1972年にパリ・ショーに出るんです。
この1972年というのは言い得て妙なんですけど、私が免許を取ったのが1972年。ポルシェの最初のカレラRSが出たのも1972年。しかも、田中角栄さんが最初に調印した日中国交が1972年。あ、そうそう、ホンダがシビックでマスキー法をとったCVCCエンジンも1972年でしたね。
ですから、この50年という歴史の中で、ポルシェのRSが始まります。
でも、実際にモノが出てきたのは1973年なので、クルマ好きの方は『73(ナナサン)カレラRS』という風に言われて、今もしあったら1億円くらいします!
●最新式GT3 RSより高価な旧型は1億円超え!
ということで、昔のクルマより最新のクルマのほうが何倍も速いんですけど、値段は一番昔の曾お爺ちゃんのカレラRS、2.7L の73カレラが今、値段は一番高い。まぁ、実存はしないですから無いものねだりではないですけど。
今ね、中古の991型GT3でも3500万円くらいします。この新型の992型GT3 RSは3000万円ちょっとなので(3134万円)、むしろお安いなと思いますね。もし、幸運にも新型が買えた方は、売ってはダメだと思います。すぐに5000万円とかって値段がついちゃうんですけど、もうそういうビジネスではなくて、やっぱり大事に乗って欲しいなと思います。
●HONDA LOVE♪なピエヒさん
で、そのピエヒさんが6気筒エンジンを作るんですけど、ちょうど1965年くらいにホンダがエスロク(S600)を出しました(※1964年3月~1965年12月生産)。
「なんか東洋から変なクルマが出てきた…」
フェルディナント・ピエヒさんはエンジンの回転を上げるのが好きな方だったので、「どれどれ…」ということでホンダのクルマを買ってみたと。そうしたらなんと、当時のポルシェよりもリッターあたりのパワーは出ているし、回転数は上がるし!
それ以来、フェルディナント・ピエヒ氏はずーっとHONDAをリスペクトするんですね。
スティーブ・ジョブズ氏が秋葉原で、ウォークマンを作ったソニーに魅せられたように、ポルシェもホンダに魅せられていきました。
『デア・シュピーゲル(Der Spiegel)』というドイツの雑誌のインタビューでピエヒさんは、「生まれ変わったらホンダで働きたかった」という一節が実際に書かれているんです。ふたつめはトヨタで働きたかったと。
ピエヒ氏はドイツの中でもちょっと異端児。お爺ちゃんの血を受けていましたから、まぁ変人扱いされていたので、ドイツ社会には馴染まなかった…というのもあるのかもしれませんけれども。まぁ当時のホンダの高回転エンジンというのに憧れたらしいんですね。
すると、ホンダがいきなりニュルブルクリンクに水平対向12気筒エンジンを引っさげてF1でデビューしちゃうんです。これもまたビックリしたんでしょうね。その翌年はメキシコGPで優勝してしまいますから。以来、ピエヒさんはずーっとホンダをリスペクトしています。
●73カレラの意志を継ぐ最新のGT3 RS
911 GT3の系譜は73カレラにある。
で、今回乗ってきたのは、通常のやり方…ボディを軽くして、でっかいタイヤを履いて、エンジンパワーを上げて速くする…というのは、もう限界に来たので、DRSという空力を使って速くする。タイヤの摩擦円的に言えば物凄い横Gがでかい。加速Gはそんなに変わらないで下にこう、減速度が上がって横Gが広がったから、パンツがボヨ~ンと伸びたような、変形の三角形になったような、ブリーフみたいな摩擦円になったかもわかんないです。ま、そんな経験をしてきました。
●オレももっとジジィになったらポルシェでトレーニングするか~
ポルシェは、前途のようにトレーニングセンターをシルバーストーンの中に作ったんですけど、一日入って350ポンドくらいって言っていました。私も2022年、ヤリスCVTで全日本ラリー選手権やっています。
「反射神経とか衰えたら、イギリスに行って1週間くらい、そのトレーニングセンター行ったらどうなる?」って聞いたら、確実に運動神経は良くなるそうですね。筋肉とかは日本でも鍛えられますけどね。
でも、レーシングドライバーに必要なフィジカルなトレーニングというのを科学的に分析してやる。最近、オリンピックで金メダルを獲るような選手たちは、そういう人間のフィジカルなところのトレーニングと、あと心を鍛えています。特にゴルフはメンタルスポーツと言われますから、大叩きしても次のホールに引きずっていかない、というような精神的なトレーニングというのもやるそうなんですね。宮里藍さんもそういうのを受けて、前のホールを大叩きしても次のホールに引きずらないっていうようなトレーニングの効果があったという風に言われていますから。
レーシングドライバーも、予選は速いんだけど決勝は遅いってヤツはいっぱいいますよね。後ろからライバルが来ると、プレッシャーかかっちゃうん。F1でいうと、予選ではルクレールなんかも速いんですけど、本番が速いフェルスタッペンっていうのは、あらゆる状況に対して冷静な判断ができて最適なチョイスができるというのは、やっぱり精神的に物凄い落ち着いた認知判断の分析力がないとだめ。後ろから追われてプレッシャーかかって、キョロキョロとバックミラーを見るようなドライバーじゃダメでしょうね。
そういう精神力も、レーシングドライバーの場合は凄く重要。だから、フィジカルな運動、あるいは反射神経、『心・技・体』とよく言われていますけど、あらゆるものが完璧でないと、速いクルマというのは乗れません。
●速いクルマを楽しむならサーキットへ行け!
つい最近…原因がよく分からないので詳しくは言いませんけど、スーパーカーが箱根・ターンパイクでクラッシュし、ガードレールに裏返しになって炎上。亡くなった方は幸いいなかったんですけど。
ターンパイクは制限速度50km/h。仮にレンタカーのヴィッツでも50km/h以上出てしまいますから、それを何百馬力というスーパーカーでターンパイクで走って楽しむなんて、もう全く今の時代やってはいけないこと。それがイベントの最中の事故だったということで、私たちが世間から見られる目がまた厳しくなる…。
もう今の時代は、とにかく速いクルマはクローズドコース、サーキットで楽しんで下さい!
私も17年間、ポルシェ・ドライビングスクールのチーフインストラクターをやってきました。だけど、ある人には悪口を言われ、「清水さんはインスタントに速いドライバーを育成している」って揶揄されたことがあります。まぁそれは確かにそうだなと。乗れてしまうと公道を飛ばしたくなりますから。
だから、口を酸っぱくして言っていたのは、「安全のためにスキルを上げるのであって、そのスキルは公道で使ってはいけませんよ!」と。
ですから、「速く走りたかったら首都高のルーレット族じゃなくて、サーキットに行って楽しんで下さいね」と。
ポルシェはそういうことのためにこのスクールを開いています。
NSXでも、登場した1990年くらいからガンさん(黒澤元治さん)と一緒に、オーナーズミーティングのインストラクターをもう30年以上やっています。最初NSXが登場したときは、いきなりレジェンドから乗り換えた方とかいろんな人がいたので、そこら中でスピン、クラッシュ! スポーツカーに乗れるスキルの無いお客さんが多かった。
これはヤバイ!ってことで、ホンダもオーナーズミーティングを行い、鈴鹿ともてぎでいろんなトレーニングをしてスキルアップをお願いしたんです。
しかし、決してそのスキルは公道で試してはいけない。だから、スポーツカー愛好家は公道では「能ある鷹は爪隠す」。
もちろん、一般の人に対してもマナーの良い運転をして欲しい。横断歩道に人がいたらキチっと止まって欲しい。そういうジェントルマンドライバーじゃないと、やっぱり速いクルマに乗るということは危険ですよね。そんな想いがあります。
●まだまだ続く、清水和夫とポルシェとの思ひ出、そしてホンダへの想いを語る
動画では、伝説のレーシングドライバー・生沢徹さん(※2022年で80歳)との思い出や、生沢徹・清水和夫・岡田秀樹・市嶋樹(SPOON)組でニュルブルクリンク24時間レースにS2000 でエントリーし、クラス優勝し感動した話。また、こちらも伝説のレーサー・式場壮吉さん(※歌手・欧陽菲菲さんの夫)が持ち込んだ技術がヒール&トゥだったこと…etc.
そして、視聴者からの質問に生回答するコーナーへと続きます。
「NSXミーティングでのガンさんとのエピソード? そんなの言えません! お互い墓場まで持っていきましょう…という話は10コくらいあります。まぁ墓場から掘り出してください」
…なんのこっちゃ!(笑)
清水和夫さんが語るすべては、動画へどうぞ~!
●↓ コチラの動画は『ポルシェ・ヒューマン・パフォーマンスセンター』でのひとこま。清水さんがポツッと一言コメントしています。聞き逃すな!(笑)
(試乗:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの)
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ911 GT3 RS
全長×全幅×全高:4572×1900×1322mm
ホイールベース:2457mm
トレッド(前/後):1630/1582mm
車両重量:1450kg
乗車定員:2名
エンジン種類;水平対向6気筒
内径×行程:102×81.5mm
総排気量:3996cc
最高出力:386kW(525ps)/8500rpm
最大トルク:465Nm/6300rpm
燃料タンク容量:64L
駆動方式:後輪駆動
ミッション:7速PDK
サスペンション形式(前/後):ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前/後):275/35ZR20/335/30ZR21
最高速度:296km/h
0-100km/h加速:3.2秒
0-160km/h加速:6.9秒
0-200km/h加速:10.6秒
車両本体価格(税込):31,340,000円
【関連リンク】
StartYourEnginesX
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX
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