山手線で実証運転が始まった電車の「自動運転」ってなに?

■手動走行との差ほとんど感じないぐらいスムーズ

10月11日から、東京都内を走る山手線で、乗客を乗せた営業列車での「自動運転」が試験的に始まりました。

乗客を乗せて自動運転中の山手線E235系

自動運転を行っているのは、山手線で運用するE235系電車のうちの2編成です。この2編成には、自動運転には必要不可欠なATO装置(Automatic Train Operation=自動列車運転装置)を搭載するなどの改造を行っていて、前面の窓と乗務員室扉の窓に「ATO」のステッカーを貼っています。

前面の窓には「ATO」のステッカーが貼ってあります

自動運転の形態は、運転士が乗務する有人自動運転。運転台には発車ボタンが設置されていて、駅を発車する時に運転士がボタンを押すと電車が自動的に走行し、次の停車駅に正確に停止します。運転士は発車ボタンを押すだけで、それ以外の操作は基本的には行いません。

○で囲んだ緑色のボタンが、新たに設置された発車ボタンです

自動運転の列車に実際に乗ってみましたが、正直言って筆者のレベルでは、手動運転との違いをほとんど感じないほどスムーズに走行していました。

●ATOってなに?

自動運転に必要不可欠なATOとはどんなものなのでしょう?

ATOは、保安装置が許容する速度以下で自動的に列車の加速・定速走行・惰行・減速・定位置停止制御などを行う装置です。保安装置とは、列車の衝突や速度超過を防ぐための信号装置のこと。

自動運転を行う路線の保安装置は、基本的にATC(Automatic Train Control=自動列車制御装置)を採用しています(例外はあります)。ATCは許容速度を超過すると、自動的にブレーキがかかるようになっていて、安全性が高く、ATOとの相性がとても良い保安装置です。

ATOの動作イメージ(JR東日本プレスリリースより)

実は、ATOによる自動運転は1960年には地下鉄などで試験が行われ、1976年に札幌市営地下鉄東西線で実用化され、以後、各地の地下鉄に普及しました。また、無人運転は1981年に神戸新交通ポートアイランド線で導入されて以来、新交通システムを中心に採用されています。

無人運転を最初に行った神戸新交通ポートアイランド線
札幌市営地下鉄東西線
ATOによる自動運転を最初に本格採用した札幌市営地下鉄東西線

地上を走る鉄道線としては、つくばエクスプレスが本格的に自動運転を採用しています。

●JR東日本のATOはほかとは違う?

JR東日本でも、2018年10月8日から常磐線各駅停車でATOによる自動運転を導入しました。このATOは、常磐線各駅停車が乗り入れている、東京メトロ千代田線が採用しているものと同タイプで、発車ボタンの位置や数(2個を同時押し)が山手線用ATOとは異なっています。

JR東日本で初めてATOによる自動運転を導入した常磐線各駅停車

JR東日本は、常磐線各駅停車での自動運転による知見を蓄積させて、山手線用ATOの開発に活かしています。

では山手線用ATOはほかと何が違うのでしょうか? 運転台のボタンの違いもありますが、一番の違いは走行パターンにあります。

一般的なATOは、運行条件にかかわらず一定の走行パターンで運行します。しかし、JR東日本のATOは地上の運行管理装置と連携して、運行条件(列車の遅れや急遽の徐行など)に応じて走行パターンを可変させることができるというものです。

一般的なATOと山手線用のATOの列車制御のイメージ(JR東日本プレスリリースより)

JR東日本は2018年12月29日、30日、2019年1月5日、6日の終電後に、山手線でATOによる自動運転の走行試験を実施。加速・惰行・減速など、車両の制御機能と乗り心地の確認をするとともに、想定される様々な走行パターンを用いた試験を行いました。

終電後の試験は2019年度、2020年度も行って、一定の成果を得ています。

2022年2月中旬には、営業列車を運行している時間帯で自動運転の試験運転を実施。前後に営業列車が走行している環境で、加速・惰行・減速などの自動運転に必要な機能、乗り心地、省エネ性能の確認を行いました。その結果、手動運転よりも約12%の省エネ効果があることを確認しています。

山手線における手動運転と自動運転の消費電力量の比較(JR東日本プレスリリースより)

自動運転の実証運転は、2ヵ月程度実施する予定。2023年春ごろから山手線用の車両にATOに対応した車両改造を順次行って、2028年頃までに自動運転を本格導入することを目指しています。

●将来の無人運転の可能性は?

山手線が自動運転化した後、次のステップは無人運転(ドライバレス運転)です。無人運転では、前方を監視する運転士が乗務しません。JR東日本は、線路上の安全を確認するための障害物検知システムを、2022年3月に開発しました。

このシステムは、車両の前方にステレオカメラを搭載して障害物をリアルタイムに検知するものです。

前方障害物検知システムのイメージ(JR東日本のプレスリリースより)

障害物検知システムは、2023年度から営業車両に搭載してデータの蓄積、機能改善を継続していく予定です。

2022年5月24日には、JR東日本と東武鉄道が無人運転実現に向けて協力して検討を進めると発表しました。東武鉄道も、2021年からカメラとレーザー検知センサーを使用した障害物検知システムの試験を行っていますが、今後システムを共通化することで、導入のスピードアップや開発コストの低減が期待できます。

なお、JR東日本は新幹線の無人運転も目指したATOの開発も行っていて、2021年には上越新幹線新潟駅から新潟新幹線車両センターまでの回送線で、自動運転の試験走行も行っています。今後の自動運転や無人運転の開発がどうなっていくのか、興味深いところです。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
続きを見る
閉じる