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■プロローグ・ホンダ軽、起死回生のヒット作・N-BOXに思うこと
街でN-BOXを見るたび、弊社「ニューモデル速報」で主筆を務められていた星島浩さんが、同じく弊社刊「モーターファン・イラストレーテッド」のVol.28のコラムにて書かれていた一文を思い出します。
「正直いうと、ほどなく発売される新型インサイトや次世代EVはともかく、最近のホンダは些かサボっているのではないか? と疑っていた。
例えば乗り終えたばかりの新型ライフである。
久しぶりにホンダが軽乗用車分野に意欲的な姿勢を見せたことは大いに評価しよう。
(中略)(初代)シビックの成功は半面、軽乗用車分野にさほど力を入れない経営戦略に傾いた。
海外生産が始まり、現地試乗に適合すべく世代を追うごとに外形を拡大。よりコンパクトなサイズの要望にフィットで応えたのは大成功だが、国内市場で新車3台に1台を占める軽自動車ブームに乗ろうとしなかった…(中略)
本来やる気になれば、ホンダが軽自動車分野でスズキ、ダイハツに負けるとは思えないのである。例えば生産車種…乗用車に限ってもダイハツは10指に余る、スズキはダイハツより少ない代わり日産、マツダに供給する分がある。どだいホンダはバモスを別にライフとゼストの2車種だけなのだから、もっと効率的な開発ができるはずなのだ。(以降略)」【2008年12月の最終型ライフ発表後、2009年1月15日発売「モーターファン・イラストレーテッド Vol.28内、星島浩の車座」から引用】
初代N-BOX発表が2011年11月。ホンダがこの記事からたった2年で新機種を造り上げたとは思えず、記事掲載時点ですでに開発中盤にあったと思われますが、ホンダの主力軽でなければならない最終ライフもスズキやダイハツ2強の前にあっては不発に終わり、確かにこの頃のホンダは軽市場に於いて劣勢に立たされていました。1967(昭和42)年、N360で軽マーケットを暴れまわったのが嘘だったかのように、軽のヒット作に恵まれていない時期が続いていたのです。
2011年11月に発表、翌12月に発売された初代N-BOXは、いきなり「カキーンッ!」と打音を響かせる大ホームランを放ち、あっという間に、一般社団法人 全国軽自動車協会連合会(通称・全軽自協)が発表する軽四輪車新車販売台数No.1の常連に。
筆者は街にあふれるN-BOXを見るたび、そして「軽四輪車新車販売台数No.1」の称号を目にするたび、星島さんの「本来ホンダが軽自動車でスズキ、ダイハツに負けるとは思えない。」の論を、ホンダがN-BOXで証明したように思えてならないのです。
●相変わらず「No.1」をゆく2代目N-BOXのバリエーションは38!
今回取り上げるN-BOXは、もちろん初代型ではなく、2代目となる現行型。2017年8月31日発表、翌9月1日に発売されたものです。
なぜいまさら5年も前に発売されたクルマを採り上げるかというと、旧型時代の2015年、2016年に続き、2017年8月に2代目になってから昨年2021年に至るまで、初代を含めれば連続7年、2代目になってからでも連続5年、軽の販売台数1位を獲得し続けているからです。正確には「N-BOXシリーズ」というべきで、これらの中には2012年7月~2017年8月まで売られていた、荷室フロアが傾斜した「N-BOX+(プラス)」、2014年12月~2020年2月まで発売されていたロールーフ版「N-BOX/(スラッシュ)」も含まれますが、これら2台がシリーズ全体の販売量を押し上げていたとは思えず、軽販売台数トップを誇っているのは、本家N-BOXの実力によるところ大であることに疑いはないでしょう。
現行型が登場から5年も経過しているのにもかかわらず、なぜ売れっぱなしなのか、あらためてそのN-BOXを見てみようじゃないかと考えたわけです。競合車にはスズキスペーシア、ダイハツタントがありますが、これらライバルを押しのけて1位独走を続けるN-BOXは、最新ハイト軽購入予定者には気になる存在でしょう。
今回主役に据えるN-BOXは、昨年2021年12月16日付で、Honda SENSINGのアダプティブクルーズコントロール(以下ACC)に渋滞追従機能を加え、パーキングブレーキを電子制御化した一部改良版。機種としてはその前年の2020年12月24日のマイナーチェンジ時に、専用の内外装を纏わせて追加された、特別仕様車的存在の「コーディネートスタイル」。
このN-BOXのバリエーションは多大で、まず標準N-BOXとややコワモテ系のN-BOX Customに大別され、それぞれに「ベンチシート仕様」、助手席の「スーパースライドシート仕様」、そして従来のN-BOX+(プラス)需要を吸収する「スロープ仕様」の3仕様を用意。
ややこしくなるのがここから先で、まず標準N-BOXから始めると、ベンチシート仕様は安い「G」と高い「L」の2種が基本構成。そのLには、ただの「L」の他に、「Lコーディネートスタイル」「ターボ」「Lターボ コーディネートスタイル」があり、今回の試乗車はこの「L ターボ コーディネートスタイル」です。
スーパースライドシート仕様の基本構成は「EX」1種ですが、その「EX」にはターボ版もラインナップ。したがって「EX」「EXターボ」の2機種となります。
スロープ仕様は「Gスロープ」「Lスロープ」「Lターボ スロープ」の3機種。
N-BOX Customも似たような構成ですが、ベンチシート仕様から安い「G」がなくなる代わりに、標準「L」と「ターボL」それぞれに、特別仕様車の「STYLE+BLACK」が加わるいっぽう、なぜかスロープ仕様は「Lスロープ」1機種になり、ターボ搭載車はなくなります。
全機種それぞれに2WD、4WDを用意。というわけで、最終的に駆動方式別にまで細分すると、標準N-BOXで20機種、N-BOX Customは特別仕様車も含めて18機種…合計38機種となります。
多く買われているのはベンチシート仕様と思われますが、この中から選ぶなら、いまどきリヤスライドドアのパワー開閉がオプションでも選べないGはスキップしてL以上を選ぶのが順当でしょう。
そもそも全38機種といえど、L以上であれば、シートやフロアレイアウトの違いで生じる以外の装備や安全デバイスに優劣は少なく、多くの人はそれ以前に、ベンチシートか助手席のスーパースライドか、荷室のスロープフロアなのかを、外観がおとなしい標準N-BOXから選ぶか、ギラギラ仕立てのCustomから採るかで迷うものと思われます。
それにしてもトータル38機種とは! メーカーの決まり文句だった「幅広いユーザーニーズにお応えしてワイドバリエーションを展開」していた、全盛期時代の大衆セダンを思わせるワイドバリエーションぶりで、これでMTの有無があったらさらに膨大な数になったことでしょう。全国ホンダカーズのセールスマンも大変ダ! 発注コードを間違えなければいいのですが。
●さらに拡大されたキャビン長
今回の試乗車がN-BOXの「Lターボ コーディネートスタイル」であることは先述しました。内外装を、ブラウンを軸とした専用カラーリング仕立てにし、他のN-BOXとは少し違う味わいを見せるクルマ。特に試乗車の、ルーフをブラウンに、それ以外を専用のプレミアムアイボリー・パールIIで塗り分けたこのクルマ専用のカラーリングはまことにもって平和なイメージ。
外形寸法は、全長×全幅×全高:3395×1475×1790mm。全高2000mmはそのままに、全長3400mm、全幅1480mmという軽自動車規格になったのは1998年10月なので、この2代目N-BOXの時点で約20年、きょう現在の2022年現在で約25年経過していることになります。現行軽規格以降、どの軽自動車もモデルチェンジをおよそ3~4回行っているわけですが、長さ・幅に制約があるにもかかわらず、アルトのようなセダン型であれ、N-BOXのようなハイト型であれ、室内はいくらかずつでも広くなっているような気がするのは、どのメーカーの軽自動車でも見事な点です。
特にハイト型は屋根が高く、ボディサイドの室内側への傾斜も少ないので、キャビンは高さも幅も外から見るよりはずっと豊かに感じられ、「5人以上乗ることはない」と決め打ちできるなら、「軽自動車で充分じゃないの」と思わせる空間を持ち合わせています。
N-BOXの外観でひとつ心配になったのが、旧型もそうでしたが、フロントバンパーの突き出しがほとんどなく、軽衝突時にバンパーとしての役割を果たすのかということでした。限られたボディ全長に対してキャビンを極限にまで拡大。ことに2代目は旧型の2180mmより60mm長い2240mmにまでキャビン長が延びています。相変わらずエンジンルームはタイトで、フードを開ければエンジンほか補機類がギッシリ…要するに新型も旧型も、キャビンにスペースをカツアゲされたエンジンルームが、こんどはバンパーの突き出し寸を奪ったおかげで、ボディサイドから見ると、バンパー前部はほとんどフラット。むしろ見た目にはホンダマークのほうが車両最前端位置なのではないかと疑うほど平らになっています。
開口部を覗けばエアコンのコンデンサーやラジエーターがすぐそこに見えるほど迫っており、まして2代目になってからはナンバープレート右裏にHonda SENSINGのレーダーセンサーを備えていることもあって、軽い衝突でもこれらが損傷を受けるのではないかと懸念するわけです。
キャビンをライバルより1mmでも長くしたいのはわかりますが、ホンダのMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)もここまでくるとやり過ぎで、そろそろこのあたりで打ち止めにしてもいいのではと思えるくらいに徹底しているのです。
●アウトホイールメーターが特徴の計器盤
運転席に座って前を向き、誰もが最初に「ん?」と気づくのは、ハンドル上向こうに見るメーター配置でしょう。いわく「アウトホイールメーター」。ハンドル輪っかの外側にメーターがレイアウトされる前例には、2005年のトヨタラクティス、同じホンダの身内ならフリードやステップワゴンがあります。ハンドルの遥か上にメーターフードが位置するためにインストルメントパネル上面そのものも高く感じられ、圧迫感を抱くので、筆者はこのタイプを写真で見るのは大嫌い。自分で撮った写真さえ見るのが嫌なのですが、たぶんこれは目の錯覚で、実際の運転席から見ると写真で見たときと違って圧迫感はほとんどありません。ハンドル上に位置すると同時に遠方に置かれているため、実に見やすいのがいいところです。
考えてみたら、筆者が普及を望んでいるセンターメーターもアウトホイールメーターのひとつですが、いずれにしても遠方配置だと、運転視界からメーターに目を向けたとき、焦点移動が少なくすむぶん、メーター情報の認識把握が早くなるというメリットがあります。というよりも、そのメリットを生みだすためのレイアウトなのです。
そのメーターは横広がりの自発光式で、左からマルチインフォメーションディスプレイ、回転計、12ドットの燃料計を挟んで速度計がならび、回転計と速度計の外側には色とりどりの警告灯・表示灯が散りばめられています。黒字に白のプロッティングで、デザイナーがヘンに凝って遊ぶことをしておらず、実に見やすい、好感の持てるデザインで、筆者は気に入りました。自発光時もいいのですが、エンジンOFFの消灯時の見てくれもなかなかのもので、久々に自動車のメーターらしいメーターを見た思いがします。
横並びの計器が何ものにも邪魔されることなく見えているのも「アウトホイール」配置であってこそ。同時に、ハンドル上縁と重ならないよう、メーター底部の台形状シルバーラインから下は何も表示させない配慮も忘れていません。このあたり、オーソドックスなメーター配置をしたばかりに、ハンドルコラム上にドライバーモニターカメラを置いたクルマになるとメーター下部が見えなくなってしまう、前回採り上げたヴォクシーとは対照的です。
通常、計器盤(以下インパネ)はメーターやハンドル部分を除き、デザインとして左右対称に造られるものですが、N-BOXのインパネを眺めると、メーターが横長というのもありますが、通常なら車両センター上に整列するはずのシフトレバー、空調操作&ナビ画面を車両中心線から少しずつ左にオフセット。まずはインパネシフト位置ありきで仕上げられたことがわかります。そのレバーと干渉しないように助手席寄りに空調パネル、その上に空調吹出口を挟んでナビ画面…おかげで空調やナビのコントロール時には背中がシートバックから少し離れ気味になります。
もうひとつ、苦肉の策だったろうなと思うのは、昨年のマイナーチェンジ時に、電動化されたゆえに新設されたパーキングブレーキスイッチの位置。完全にハンドルに隠れてドライバーから見えません。パーキングブレーキの電動化は、おそらくはHonda SENSINGに含まれるACCへの渋滞追従機能追加に伴ってのことでしょうが、2017年の発売に向けた開発段階では、モデルライフ中にここまで進化させることは視野に入れていなかったのではないでしょうか。そうでなければ初めから想定したレイアウトにしたはずで、次のモデルチェンジではうまく配置することでしょう。
収容スペースは豊富に用意され、助手席側には広いトレイにグローブボックス、引き出し式のドリンク置き、センターフロア付近には引き出して使うポケット、上方移動したメーター跡地にふた付きのボックス、ハンドル下にトレイ、インパネ右端にドライバー用ドリンク置き…とりわけ工夫が見られるのはドア内張りで、ドアハンドル上やパワーウインドウスイッチ下のポケットは、他社の他車では見かけないもので、デッドスペースを目ざとく見つけて収納場所に仕立ててあります。詳細はまた後で。
昔は軽自動車でさえ、指で押すといくらか引っ込むインパネでしたが、それも軽自動車が360cc、550cc時代までの話。爪で叩くとカチカチするプラスチックの内装にいまさらガッカリしませんが、それにしても見た目の安っぽさのなさ、造り込み感は軽自動車を感じさせないもので、この造りで「N-BOX買って失敗した!」というひとはいないでしょう。
●もう軽とは侮れない、普通車なんか不要? な重厚な走り
運転視界に不足はなく、ことに着座位置に対してウエストライン(サイドガラス下端)も低いため、実に気持ちのいいものです。フロントガラスが立っている、というよりも、ルーフ前端がドライバーからはるか前方にあるクルマの泣きどころは、これは都内に多いのですが、信号と停止線が近い交差点で信号待ちをしているとき、信号機そのものが見えなくなることです。赤から青をうっかり見落とそうものなら後ろから煽られることに…そもそも筆者はいろいろな意味で信号機の位置が高すぎると思っており、クルマばかりの責任ではないと思っているのですが、信号を見落としやすいデザインとなると、フィット試乗のときに望み、新型ヴォクシーで実現されていた青信号告知機能が、このデザインのN-BOXにこそ欲しくなります。これもいずれ追加されるでしょう。
さて、内装の造り込みに軽自動車であるがゆえの情けなさはないと書きましたが、これは走りについても同様でした。
筆者は現行軽自動車規格になった1998年時はまだ学生でしたが、長さはともかく、幅が初代カローラ並みに広がり、660ccのまま走りはどれほど進化したのかと、いくつかの軽自動車の乗り比べをしたことがあるのですが、重厚な走りを示したのは当時のスバルプレオくらいで、ほかはまだまだ軽自動車の域を出ていませんでした。ひるがえって2022年。ライバルのスペーシアやタントに触れていない段階で結論を出すのはスズキやダイハツに対してフェアではありませんが、N-BOXは「軽自動車はいつの間にこれほどまでになったの?」と思うほど、一人前な走り味を見せました。走り始めや走行中のサスペンションの動き、重厚感は、550cc時代や前回の軽660cc規格車(1990年)ばかりか、現行660cc規格初期時代の軽自動車らと比べてもまるで異なるもので、ミドルクラスや3ナンバー車並みとはいいませんが、少なくともヘタな1000~1300cc級のクルマ顔負けの仕上がりとなっています。
試乗車のエンジンは直列3気筒S07B型のインタークーラー付ターボ仕様。最高出力は自主規制いっぱいの64ps/6000rpm、最大トルクは6.6kgm/4800rpmで、車両重量920kgなら1馬力あたり約14.4kg背負っている計算になり、いまどきの一般乗用車の常識か、ややアンダーパワー寄りの値です。出力、トルクとも最大値の発生回転数は、常用回転域より上のゾーンにあるのですが、にもかかわらず、低速から中高速まで力感のある走りでした。
参考までに書くと、筆者の旧ジムニーシエラは1300ccの4AT。最高出力と最大トルクはそれぞれ88ps/6000rpn、12.0kgm/4000rpm、車両重量は1070kgで、パワー・ウェイトレシオは約12.2kg/psとなります。1馬力あたりの負担が少なくなるぶん、旧シエラのほうがN-BOXより有利なはずなのですが、2WD(=FR)状態での旧シエラとの比較で、どう考えてもN-BOXのほうが走りの力感は上。N-BOXはCVTとの連携がうまくいっていることのほかに、ある回転数でターボがドカンと効くのではなく、あらゆるエンジン回転数で(としか思えない)最適な過給圧にコントロールする、軽初の電動ウェイストゲートの恩恵でしょう。普通車乗りからすると6.6kgというトルクのピーク値はしょぼく見えますが、急加速を試みても、キックダウンとは別の、あのターボ特有の境目がないので、その数字とは裏腹に、走った感触は自然吸気1.5Lあたりのクルマと同等、高速路でアクセルを踏み込んでもターボ稼働前後でクルマが豹変することはありませんでした。
ドライビング姿勢では見えない電動パーキングスイッチ右には、ホンダの経済モード「ECON(イーコン)」スイッチがあります。これはONでアイドリングストップが働き(メーンスイッチON時)、エンジンやCVT、エアコンを統合制御して省エネ寄りにする制御なのですが、ホンダは自信があるのでしょう、エンジン始動直後からがすでにONになっている点が一風変わっています。
通常、この手のスイッチはドライバーが必要に応じてONにするものなのですが、N-BOXではECONが常時ONで、経済運転時は燃料計上のアンビエントメーターが通常の白からグリーンに変わります。そしてECONをオフにしてエンジンを切っても、次の始動時には再度ONになるという強制仕様…力感がある走りもECON ONでのことと知るとなお大したものですが、どうやらN-BOXはECON ONが従来のノーマルモードで、ECON OFFがパワーモードという解釈をしたほうがよさそうです。OFFにしたらしたでさらにパワー感が増しましたが、普通の使い方をする限り、ECON ONでも充分でした。この種のスイッチを使い分けするひとも少ないでしょうから、常時ONのセッティングは正解です。
軽自動車らしからぬ点でもうひとつ感心したのは、ターボエンジンということもあるのでしょうが、街乗りでA/Cスイッチを入れ、クーラーのコンプレッサーを駆動させてもパワーや加速の落ち込みがまったくなかったことです。現行初期660cc軽規格車でがっかりしたのもこの点で、筆者がいま使っている旧シエラさえ、夏には加速時のパワー不足をA/Cオフで補うことがありますが、N-BOXでは山間道でもA/Cオフにしたくなるシーンはありませんでした。ターボのない自然吸気版N-BOXはどうなんだろう?
高速道路では80~100kmゾーンで走り、後続からのあおりも想定して急加速を試みましたが、A/Cを入れていても走りの感触はガソリン1.5L車並み。車線変更後の直進性も普通のクルマ並みに取り戻します。ただし背が高いことから、横方向の揺れ(ロール、ローリング)は収束までの間にもうひと揺れし、いわば「お釣りがくる」というヤツになるのですが、これは致し方ないか。このお釣りを想定して山間道を60km/hあたりで走ったら、逆にローリングがほどほどだったのは不思議なところです。
N-BOXは、自然吸気車、ターボ車ともCVTですが、ターボ車のハンドルにはシフトスイッチがついており、無段変速をわざわざ7段の有段変速にしてマニュアルシフトができるようにしてあります。
シフトDのときにスイッチを引けば暫定的にマニュアルモードになり、一定速走行や加速状態になったとき、または右スポークのシフトアップスイッチの数秒間引きで自動解除。完全なマニュアル走行を求める場合はシフトS落としで本格マニュアル固定シフトとなり、スイッチ操作でシフトアップ/ダウン。自動解除はしませんが、車速低下で自動シフトダウンするのと、加速しているにもかかわらず無操作を続け、エンジン回転がレッドゾーンに近づくと自動でシフトアップします。
パドルシフトは、スイッチをハンドルスポーク裏に与えてハンドルといっしょにまわるもの、コラム側に設けてハンドルがどの角度にあってもスイッチは定位置で固定されているものと、メーカーによって操作方式が異なりますが、N-BOXは前者に属します。筆者は、マニュアルモードはパドル式よりもフロア側のレバー前後で行うほうがやりやすいと思っているのですが、どのみちもともとあまり使わない人間です。ただのDに入れてクルマ任せに走るほうが楽だからです。
筆者がマニュアルデバイスで有用だと思って唯一使いこなすシーンは山間道下り。Dでもクルマが下り坂を検知して軽いエンジンブレーキが作動するし、それでも足りなければSに入れればいいのですが、より積極的に、セレクティブにエンジンブレーキを使いたいならマニュアルモード付きのほうがいいに決まっています。N-BOXのパドルシフトは他社の他車同様、左がシフトダウンの「-(マイナス)」、右がシフトアップの「+(プラス)」で、実際、下り坂では左スイッチをチョンチョン引いて使いましたが、筆者などはいっそ左右両方ともマイナスでいいのではと思うほどでした。
80km/h、100km/hでのDでのエンジン回転数はそれぞれ2000rpm、2600rpmで、7速での回転数は2450rpm、3000rpmでした。どのクルマでもそうですが、CVT車は、手動選択時の最上位のギヤのときよりも、クルマ任せのDのときのほうがエンジン回転は低くなります。
各シフトでの回転数は、写真内の表をごらんください。
軽自動車らしくないとばかり述べてきましたが、エンジンの音だけはしょせん軽自動車だなと思わざるを得ませんでした。街乗りで車速が乗ったときの騒音は、多くのクルマはどちらかというとロードノイズの占める割合が多いのですが、N-BOXもロードノイズは他車並みなのに、ここに安っぽいエンジンのゴロつき音が加わってきます。ボディ側の音対策も去ることながら、エンジンそのものからの音の発生を抑えられないかと思います。
音といえば、このボディ形状なのに、どこを走っても風切り音が一切しなかったのは感心したところです。
さて、高速走行後のクルマの姿には参りました。走行後、フロントフェイスを見てみたら虫の死骸がびっしり! ガラスが立っている、フードが高いぶん顔が上下に大きい、夏の高速道路であることから虫の量が多かったせいもあるでしょう。クーラーのコンデンサーが開口部スレスレにまで位置しているため、フィンとフィンの間に虫の死骸が詰まっていました。開口部脇にはなぜかこの時期トンボまで…コンデンサーがすぐそこにあるのと、さらにコンデンサーとバンパーのわずかなすき間を、冷却効率を少しでも上げるためのスポンジで埋めているため、逃げ場がないのです。ガラスやボディ側への付着は仕方ないにしても、洗車時、このあたりの清掃には少々難が伴うことに…虫さんびっしりの様子の写真は撮ったものの、ジャポニカ学習帳と同じ配慮で載せることは遠慮しますが、何かしらの対策を施したほうがいいように思えました。
軽くまわるハンドルの回転数は、筆者目測で左右とも1回転+265度。ハンドル径は筆者実測で365φでした。
最小回転半径は、15インチタイヤ装着車は4.7m、試乗車の14インチ装着車は4.5m。競合するスペーシアの14インチ車が4.4m、15インチ車のスペーシアギアが4.6m、タントの14インチ付が4.4mで15インチ付が4.7m…ライバル勢に対し、何だか全体的にN-BOXがサボっているように見えますが、ホイールベースを忘れちゃならず、あちら2車が申し合わせたように2460mmであるのに対し、こちらN-BOXは2520mm。この60mmの違いが現れているのでしょう。そうはいっても、最小回転半径5m超のクルマに多く乗る身には、最小回転半径の100mm差があろうとなかろうと4m台なら相当小さく感じます。実際、N-BOXでのUターンは、感触としてはコマみたいにその場でクルリとまわるかのような小まわり性で(ほんとうはちゃんと対向車線に向かって反転する)、一般的な幹線路のUターンで切り返しを要求されることはないでしょう。
ハンドルを右いっぱいに切ったときのタイヤの様子は写真のとおりです。
●誰にでも親しまれるであろう、やさしく、落ち着いたインテリア
シートは小さな四角のドット柄で、ブラウンカラーで落ち着いた雰囲気に惹かれます。老若男女の、特に自動車に興味のない層にこそ幅広く受け入れられるでしょう。筆者も気に入りました。
ここにも軽自動車「らしくなさ」が現れていて、前後シートともサイズや良好なかけ心地がしっかり確保されており、いかにも「軽!」的な情けなさは皆無でした。シートはクラスによってサイズ差が与えられていた時代が長く、筆者が乗っていた最終パルサーN14と最終ブルーバードU14とでは、同じ時期の日産車なのに「こうまで違えるかネ?」と思ったほど、前後シートの特に座面長に長短があったのですが、いまはそのようなことは少なくなりました。ましてやN-BOXは軽なのに。
試乗車はベンチシートで、立派なセンターアームレスト付き。難点をいえばシートベルトのバックルが座面に埋まりすぎていて、アームレストの上がり下がり問わず、金属プレートをバックルに挿しにくいことです。以前筆者が使っていた日産ティーダは配慮されていて、運転席用バックルだけは足を長くしており、アームレストを降ろした状態でもベルト着用がしやすい工夫がしてありました。N-BOXも同じようにすれば解決するでしょう。バックル足を50mmやそこら延ばしても影響はないと思います。
後席シートはスライド機構付き。こちらは贅沢なことに左右それぞれにアームレストがあり、後席をいっぱいに下げれば足を組んでリビングにいるのと同じ感覚で過ごすことができます。
前後シート周辺各部の、地面からの高さは写真に示したとおりです。
全機種ではないですが、おおかたの機種に運転席にもアシストグリップ(ホンダ名・グラブレール)があるのは、前々からのホンダ車のよき伝統。これからもずっと続けてね。
今回はここまで。
次回はHonda SENSINGについて解説していきます。
(文・写真:山口尚志(身長176cm) モデル:海野ユキ(156cm))
【試乗車主要諸元】
■ホンダN-BOX L ターボ コーディネートスタイル(6BA-JF3型・2022(令和4)年型・2WD・CVT・プレミアムアイボリー・パールⅡ&ブラウン)
●全長×全幅×全高:3395×1475×1790mm ●ホイールベース:2520mm ●トレッド 前/後:1305/1305mm ●最低地上高:145mm ●車両重量:920kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.5m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:S07B(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:658cc ●圧縮比:9.8 ●最高出力:64ps/6000rpm ●最大トルク:10.6kgm/2600rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射(ホンダPGM-FI) ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):20.2/17.4/21.7/20.7km/L ●JC08燃料消費率:25.6km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/車軸式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:190万9600円(消費税込み・除くディーラーオプション)