新型シビック・タイプRは2020年代のホンダスポーツを表現する【週刊クルマのミライ】

■新型シビックタイプR発表、2022年9月発売

2022年7月15日、ホンダが新型シビックタイプRを発表しました。2021年にフルモデルチェンジしたシビックをベースとしたタイプRは、FF世界最速であることを目指した最新のスポーツモデルです。

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開発責任者の柿沼 秀樹さんは「ピュアエンジンタイプRの集大成」と仕上がりに自信を見せた

シビックタイプRとしては7代目にあたる新型モデルですが、その基本コンセプトは、いまから30年前の1992年に生まれた最初のタイプRである「NSX-R」とは異なります。

そもそもタイプRというのは『レーシングカーが持つ速さと、圧倒的なドライビングプレジャーを両立する』ことが基本コンセプトで、それをまとめて”サーキットベスト”といった表現もしてきました。

しかし、2017年に生み出された先代シビックタイプRから第二世代のタイプRとなっています。速さは当然の条件として、スポーツカーの枠を超えた「アルティメットスポーツ」であることが、第二世代タイプRの基本コンセプトとなります。

先代シビックタイプRに引き続き、新型モデルでも開発責任者を務める柿沼 秀樹さんは、新型シビックタイプRにおいて、世界トップレベルの速さと、日常でも快適に使える新たな時代のタイプRを目指したといいます。

具体的なイメージとしては、快適性においてはベースモデルと同等レベルとしたうえで、過去のタイプRを圧倒する絶対的なパフォーマンスを目指したのが新型シビックタイプRというのです。

●キーワードは「アルティメットスポーツ2.0」

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フロア下からつながる大型のディフューザー、アルミステーの大型リアスポイラーなど空力対策もバッチリ

そのために掲げられたコンセプトは「アルティメットスポーツ2.0」というものです。2.0という数字は先代タイプRの方向性はそのままにバージョンアップを図ったということを意味しています。

さらに、柿沼さんからは「ピュアエンジンのタイプRとしての集大成」として新型シビックタイプRを作り上げることができたといった旨の発言もありました。あくまで集大成であって、エンジンを積んだ最後のタイプRとは明言していませんが、非常に意味深な発言といえるでしょう。

エクステリアの仕上げについても、確実にバージョンアップしています。これまでのシビックタイプRには、どこかゴテゴテとした印象もありましたが、新型シビックタイプRは非常にスマートに仕上がっています。

265/30-19サイズのタイヤを収めるために前後フェンダーは大きく膨らんでいるはずですが、洗練されたフォルムとなっているため、ベースのシビック比で90mmのワイドボディになっているようには見えません。

WTCCでホンダとパートナーだったJASモータースポーツや、HRCの四輪部門などの知見を活用したという空力デバイスをインストールしたボディはサーキットで本領を発揮しつつ、街なかでも違和感なく馴染むスタイルになっているという風にも感じます。機能美を極めたフォルムというと、ありきたりな表現に思えるかもしれませんが、まさに機能が生んだ必然的で、上質な美しさがここにあります。

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スリーサイズ(メーカー測定値)は次のようなっている。全長:4595mm(+45)、全幅:1890mm(+90)、全高:1405mm(-10) ※()内は標準シビックとの差

こうしたスマートなルックスには、新たにリバースリムとされたアルミホイールの採用も貢献していることでしょう。先代モデルが20インチだったのに対して、インチダウンというのは意外な選択ともいえますが、新しいデザインのアルミホイールのおかげもあって、インチダウンしたというネガティブな印象はまったくありません。

今回、エンジンについては具体的な数値の発表はありませんでしたが、先代モデルに対して「最高速とパワーウエイトレシオ」の両要素においてレベルアップしていることは明言されました。つまり圧倒的なパワーアップと軽量化、空力特性の向上を果たしているということです。

そうであれば冷却性能向上は必須といえます。フロントバンパーの開口部は大きくなっていますし、ボンネットにはラジエターを通った空気を抜くためのアウトレットが新設されています。

エンジン系では、フライホイールの軽量化などにより回転合わせをする際のレスポンスも10%ほど向上させているといいます。トランスミッションは当然のように6速MTを採用していますが、スポーツドライビングでの回転合わせを助けるレブマッチシステムも進化を遂げているといいます。従来にはなかった2速から1速での回転合わせもできるようになったということで、極低速コーナーでの走りもスムースになっていることでしょう。

●日常でもタイプRらしさを感じられる

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手のひらに吸い付くようなアルカンターラ巻きステアリングホイールが先代タイプRに引き続き採用される

それはともかく、新型シビックタイプRは「ピュアエンジンタイプRの集大成」であって、けっしてタイプRの集大成ではありません。電動化時代になってもタイプRというコンセプトは生き続けるはずです。そのために重要なのは日常生活に溶け込むことといえるでしょう。

非日常的な性能はタイプRの必要条件ですが、そのために日常を犠牲にするというのは2020年代のタイプRとしてはふさわしくないといえます。実際、先代モデルから電子制御サスペンションを取り入れることでコンフォート・モードを選べば、普段使いで我慢を強いるようなことなく仕上げラれていました。

新型シビックタイプRでは、速さを追求するだけでなく、そうした快適性も高めることで、二面性を持つタイプRに仕上げています。

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ドライブモードで「+R」を選ぶとメーターが専用グラフィックになる

そのポイントとなるのがドライブモードの存在でしょう。モードとしては「コンフォート/スポーツ/+R/インディビデュアル」の4パターンから選べるようになっています。モード切替によって変わる要素は、エンジン、ステアリング、サスペンション、エンジンサウンド、レブマッチ、メーターの6項目です。

コンフォート・モードではサスペンション減衰力がローモードとなり、パワーステアリングのアシスト量も増えるなど快適性が増すセッティングになっています。+Rモードはその逆にサーキットベストといえる味付け、GPSの位置情報と連動してスピードリミッターを解除する機能も備わっています。

新型シビックタイプRで注目したいのはデータロガーアプリ「Honda LogR」の存在でしょう。ナビ画面に6連メーターや四輪摩擦円などの表示が可能になっているほか、サーキット走行のデータを公開することでスコアリングしたり、SNSで共有したりする機能も用意されています。

なによりユニークなのは、市街地でのドライビングについても、どれだけスムースかつスマートに走らせることができたかを評価するシステムが搭載されている点でしょう。サーキット走行でなくとも、愛車のタイプRをどれだけ上手に走らせることができたのかを評価&アドバイスする機能があることで、日常的にドライビングを磨こうという気分になれるはずです。

日常での満足度を高めることが、電動化時代のホンダスポーツに必須条件となる未来を、新型シビックタイプRは暗示しているのかもしれません。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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