東武の新型特急車両「スペーシアX」が2023年7月15日にデビュー。歴代特急も紹介

■デビュー1年前に発表会を開催

東武鉄道は世界的観光地、日光・鬼怒川温泉へ向かう看板特急の新型車両N100系の愛称と運転開始日を、2022年7月15日(金)に発表しました。愛称は「スペーシア X」で、2023年7月15日から運転を開始します。

発表会の会場に展示された「スペーシア X」の模型
左から浅草駅長、根津東武鉄道社長、東武日光駅長が並んでのフォトセッション

「スペーシア」は1990年から活躍している特急車両100系の愛称で、空間・宇宙を意味するSPACEにIAを加えた造語です。

1990年から活躍している100系「スペーシア」

長い間「東武特急=スペーシア」として認知されているので、「スペーシア X」は「スペーシア」が築いてきた伝統や認知度・イメージを維持・継承しながら、より上質なフラッグシップ特急として、「上質なスペーシア」を端的に表現した愛称なのだそうです。

「スペーシアX」の先頭車の窓はXがモチーフ

「X」には以下の意味合いが込められています。

・新型車両による旅体験=Experience
・新型車両が提供する新しい様々な価値=Excellent・Extra・Exciting・Extreme・Exceedなど
・新型車両が文化や人々の交わり=cross「X」を作る存在であること
・新型車両が未知なる可能性「X」を秘めた存在であること

さらに、車両エクステリアデザインのモチーフとして取り入れた、鹿沼組子の象徴的な「X」模様をイメージした書体をロゴに取り入れました。

●座席は6種類を設定

コックピットラウンジはVRで体験できました
電動リクライニングシートで快適なプレミアムシート

「スペーシア X」は6両編成で、東武日光・鬼怒川温泉側から1〜6号車となります。座席は1号車がコックピットラウンジ、2号車がプレミアムシート、3〜5号車がスタンダードシート、5号車の一部がボックスシート、そして6号車にはコンパートメントとコックピットスイートが設定されています。

1号車・コックピットラウンジはソファ席です。運転台越しに前面展望を楽しめる1人席2席と、テーブルを挟んで向かい合わせで利用できる2人席3組と4人席3組の合計20席を配置しています。通常の特急料金1940円(浅草〜東武日光間の場合)のほかに特別座席料金(1人用200円・2人用400円・4人用800円)を加算します。

スタンダードシートは座面連動リクライニング機構を採用
リクライニングが後席に干渉しないバックシェル構造

2号車・プレミアムシートは電動リクライニングシートを1+2列、シートピッチ1200mmで配置しています。シートはバックシェル構造で、リクライニングさせても後席に影響を全く与えません。肘掛けには折り畳み式の大型インアームテーブルを内蔵。背もたれには読書灯を設置しています。特急料金は2520円です。

スタンダードシートは通常の特急料金1940円で利用することができる座席です。リクライニングシートを2+2列で配置しています。シートピッチは現行の「スペーシア」と同じ1100mmですが、リクライニングに座面が連動することで、快適性をアップしています。肘掛けにはインアームテーブルを内蔵しているほか、シート背面に大型テーブルとドリンクホルダー、コンセントを備えています。

ボックスシートの幅は800mmもあります
背面テーブルはノートPCを置いても余裕の大きさ

ボックスシートは5号車に設置された2人向かい合わせの簡易個室です。座席幅は800mmもあるので、かなりリラックスできます。特別料金は1室400円。

コンパートメントは4人用の個室で大型テーブルを囲むようにソファをコの字型に配置しています。6号車に4室設定。特別料金は1室6040円です。発表会ではスタンドや空気清浄機などを展示しました。

コンパートメントに設置される照明を展示しました
発表会ではロングソファとテーブル、照明を展示しました

コックピットスイートは6号車の運転台側に設置した最上級の7人用個室です。プライベートジェットをイメージした個室で、3方向の展望を独占でき、ソファでくつろぐことができます。特別料金は1室1万2180円です。

発表会ではロングソファとランプを展示。ソファのクッションは東武特急DRC(デラックスロマンスカー)を感じさせる仕上がりで、照明は東照宮陽明門の柱に刻まれた「グリ紋」を想起させるデザインが施されています。

●日光の食を堪能

カフェカウンターは1号車に設置されます

1号車にはカフェカウンターを設置しています。最近はJR・私鉄を問わず、供食設備や販売カウンターは観光列車などに限られています。東武「スペーシア」に設置されているビュッフェも2020年に営業を終了しているので、東武特急としては約3年振りに販売カウンターの復活となります。

日光のクラフトビールとクラフトコーヒーを紹介

「スペーシア X」では「自分だけの最適な日光・鬼怒川エリア」と出会える場とするため、日光の食を提供します。発表会ではクラフトビール「Nikko Brewing」、クラフトコーヒー「日光珈琲」が紹介されました。

●東武の歴代日光・鬼怒川温泉特急車両

東武の日光方面特急の歴史は戦前にまで遡ります。日光線が開業したのは1929年で、その際に展望室と食堂を備えた豪華客車トク500形を投入しました。トク500形は国際的観光地日光へ向かう列車として相応しいものでした。東武日光線の開業以前は国鉄東北本線・日光線が観光客輸送を担っていましたが、東武日光線の開業以来、東武と国鉄の間で熾烈なシェア争いが続きました。

1935年には特急専用車両のデハ10系が登場。長距離移動での居住性をアップさせるため、車内には固定クロスシートを採用。第2次世界大戦中と終戦直後の運用期間を挟んで戦後まで活躍しました。

1943年には下野電気鉄道を買収して鬼怒川線としました。1949年には鬼怒川温泉への特急の運転を開始しています。

東武博物館で保存されているモハ5701

1950年代に入ると、日光を巡ってライバルの国鉄とのシェア争いが激化。東武は1951年に5700系、1956年に1700系、1960年に1720系DRCと、短期間に新型車両を続々投入して、グレードアップを図ってきました。

転換クロスシートが並ぶモハ5701の車内

特に1720系DRCは、国鉄の上級クラスに匹敵する豪華さと高速性能で国鉄を圧倒しました。1700系もDRCに改造されて、DRCは文字通り東武の看板特急車両となり、1991年まで31年間活躍をしました。

引退した車両のうち、5700系と1720系DRCに保存車が存在しています。

モハ5703は貫通型に改造された晩年の姿で保存

東武鉄道博物館には5700系モハ5701、モハ5703(カットボディ)と1720系モハ1721(カットボディ)を保存しています。モハ5701は非貫通2枚窓として製造された当時の姿を復元。車内にも入ることができます。モハ5703は5700系の増備グループとなる5710型・5720型と同じ貫通型に改造された姿のカットボディとして保存されています。

モハ1721は1720系DRCの浅草側先頭車。東武博物館と公道の間の屋外で保存していて、特徴あるボンネットスタイルの先頭部をいつでも見ることができます。博物館内から客室内に入ることができるほか、アクリル板越しですが運転台を見ることができます。

埼玉県の岩槻城址公園には、1720系の東武日光・鬼怒川温泉側先頭車のモハ1726が保存されています。屋外保存ですが定期的に塗装されていて、綺麗な状態を保っています。土日祝日や8月の日中に車内を開放しています。

埼玉県行田市の「電車のお店のカフェ&レストラン マスタード・シード」

レストランとして利用されている車両もあります。埼玉県行田市ではレストラン「電車のお店のカフェ&レストラン マスタード・シード」で5700系を2両利用しています。車内は1両がテーブル席、もう1両がカウンター席に改装されていて、パスタやピザなどを味わえます。

群馬県のわたらせ渓谷鐵道神戸駅には、1720系の中間車モハ1724・1725を利用したレストランがあります。車両は厨房を挟んで配置。車内はDRCの座席を向かい合わせにして、間に大型テーブルを設置していて、楽しく食事ができるようになっています。

現行の看板特急車両の100系は、1990年に登場。DRCの豪華さをよりブラッシュアップし、新たにコンパートメントが設定されています。

2006年には300型・350型を使用した急行を特急に格上げして、「スペーシア」のサポートを行いましたが、2017年から新型特急車両500系「リバティ」を導入。これにより300型は2017年、350型は2022年に引退しました。なお、「リバティ」は「スペーシア」のサポート役ですが、横揺れを低減させるためのフルアクティブサスペンションを採用するなど、「スペーシア」を上回る装備も持っています。

「スペーシア X」のデビューまであと1年。それまでに、現存する歴代特急車両たちをいろいろと楽しんでおくのもアリではないでしょうか。

(文と写真:ぬまっち

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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