目次
■C&Bセグでもルノーとメルセデス・ベンツが手を組む? これからの動きに刮目せよ
●ルノー・アルカナ、あるかな?
毎週金曜日の夜8時~30分強、生LIVE配信されている、国際モータージャーナリスト・清水和夫さんのYouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」内の人気コンテンツ、生で時事ネタなどを伝えてくれる「頑固一徹学校」。この動画は2022年7月8日(金)に生公開(本人出張のため事前収録)されたルノー・アルカナ試乗レポートと、ルノーをはじめとした欧州自動車界の今、そして近未来へ向けての清水和夫論です。
では動画と合わせ、ルノーの動きを中心に、欧州自動車業界の近未来を予想してみましょう。(クリッカー:永光 やすの)
●モーターで制御するドグクラッチにルノーの独自技術が光る
このアルカナというクルマ、突然変異みたいにいきなりルノーから出てきたんだけど、48Vや1モータではなく、2モーターのハイブリッド、いわゆるストロングハイブリッドが登場しました。トヨタ、ホンダ、三菱が持っているパテントをかいくぐりながら作られ、ルノー・スポール、F1チームも技術開発に関与したと言われています。
どんな機構か。
まず、ドグクラッチ。ドグクラッチとは歯車と歯車を直接ガッチーン!と、噛み合わせるんですが、ポルシェのカップカーなどのレーシングカーにも使われているクラッチで、非常に振動、ショックが大きいんですね。GT3のカップカーなんかに乗ると、手の骨にヒビが入るんじゃないかと思うほど、ドーン!と振動がくるんです。
そのドグクラッチを、モーターによって完璧にギヤとギヤをスコーン!と合わせるので、ほとんど変速のショックが無いんです。そのドグクラッチを使ったというところが、さすがの日本の自動車メーカーも気が付かなかった…。
ということで、非常に素晴らしい独自技術を持っています。
直接ギヤとギヤが嚙み合いますから、ハイブリッドにしてはダイレクト感にあふれています。
エンジンは1.6L 4気筒のノンターボエンジンなので、いわゆる枯れた技術というか、昔からあったエンジン。それが、新しい「E-TECHハイブリッド」によって生まれ変わったアルカナ。どんな走りなのかというのをお届けします。
●メガーヌベースのSUVが「アルカナ」
パッケージ的にはルノー・メガーヌベースのSUVに仕立てられているので、結構ボリューム感のあるデザインで、インテリアも少しセクシー。果たして実際、どんな走りなのか、試してみたいと思います。
おぉ~、加速感はダイレクト感がありますね。まぁ、ちょっと路面のデコボコしたところはタイヤとサスペンション、特にタイヤが固いかなという感じがします。でもやっぱりダイレクト感があって、走りもダンピングが良いし、さすがルノーの足っていう感じがしますね。
低いスピードだとEVモードで走れるんだよね。エンジンかからないでバッテリーとモーターで走っています。このへんはやっぱりEVだから気持ちイイな。
やっぱフランス車なので80km/h以上のスピードでは多分、もう最高に気持ち良く走れるSUVのハイブリッドですね。
●上手く走れば燃費も20km/L。F1譲りの技術はサスガ
燃費も今、100kmあたり5.4Lだから、リッター18~19km/Lくらい。上手く走れば20km/Lを超えるのは間違いないですね。
EVモードを切ってエンジンとEVの合わせ技。グゥ~っとこうエンジンも元気ある。やっぱりハイブリッドにするとI.6Lの自然吸気のエンジンも、かなり静かに使えるよね。これはもうルノー・スポルト、つまりアルピーヌ・チームがF1で得たモーターやドグクラッチ系の制御を量産車に持ち込んだということですね。
今、登りでグ~ッとエンジンが遠くでかかっていますけど、グッと踏み込むと、ダイレクト感があります。
サスは良いね。昔乗ったC-HRのザックス・ダンパー付けたC-HR並みの良さですね。
ステアリングも軽いし、何よりもインテリアがカーボン風でかなりセクシー♪
マンホール、ドーンッ! ン~ちょっと固いな。
もう一回、マンホール、ドーンッ!! まぁダンピングが良いから許容範囲。
はい、マンホールテスト、ボヨ~ン!
ダンピング良いね、固さは気にならない。
いや~、気持ちいいクルマだな!
●ロシアの自動車メーカーに投資しているルノーのもがき…
ルノーと言えば、フランス政府も株持っていて、そしてルノーを頂点として、日産がいて三菱がいて。っていうような三重箱の構造。
最近、ルノーも苦しみもがいているところがあります。ヨーロッパは例のウクライナとロシアの問題…。ルノーはロシアの自動車メーカーに相当、投資しています。聞くところによると、約5万人くらいの従業員を解雇できずにいるらしいんですね。日産はサンクトペテルブルクに約4000人くらいいるので、まあそのくらいの給料だったら払ってもそんなに被害は大きくないんですけど、ルノーは5万人ですからね。
その負債処理をしなくてはいけないので、ルノーはヨーロッパで非常に苦しい立場に立たされています。
●ルノーとメルセデス・ベンツの関係は続く?
ただ、最近メルセデス・ベンツが妙なことを言い出して、「横置きエンジン、FFベースのAクラス、Bクラスの生産をやらない…」というようなことをオラ・ケレニウス氏(ダイムラー/メルセデス・ベンツCEO)が発表したんです。
で、気の早いジャーナリストは「撤退」という言い方をしたんだけど、実際には撤退とは書いていなくて「生産しない」と書いてあったので、もしかしたらルノーからCセグメント、Bセグメントの横置きトランスアクスルのクルマを貰うんじゃないかな?と。
スマートではスマートプロジェクトとして、メルセデス・ベンツのスマートとルノーのトゥインゴはいったん協業していますから。ただ、スマートプロジェクトそのものが中国のジーリー(吉利汽車)のほうに支配が移ってしまったので。
まぁしかし、ルノーとメルセデス・ベンツの関係はそういうかたちで続いていくんじゃないかな、と思っていたんです。
そこに、このアルカナというハイブリッドが出た。
このクルマは、欧州で売られる日産のSUVにも搭載されるし、ルーテシアにも搭載されてるんですね。ですからおそらく、ルーテシアクラス、あるいはこのアルカナ含めて、この新しいハイブリッドシステムもそのままルノーからメルセデス・ベンツにOEMされるのではないか…。
という風に、私は予想しています。
ということは、メルセデス・ベンツは大型のトラック部門はボルボと一緒になって、乗用車のコンパクト系はルノーと一緒にやって、メルセデスはオリジナルのCクラス、Eクラス、Sクラスより上の高級セグメントのところ、いわゆるプレミアムなところはバッテリーEVにしていこう、という風に、かなり目的ごとに組織を分けていくのではないかな、と思っています。
そういう意味で、ルノーの動きというのはヨーロッパにおけるひとつの自動車産業の、あの大きなウェーブのきっかけになるのかな、という気がしているんですね。
つい最近、ステランティス…プジョー、シトロエン、アメリカのクライスラーとイタリアのフィアットを統合した会社なんですが、ここが欧州自動車工業会から離脱すると、自分たちだけでやっていく、ということを表明したので、そうするとEUの中でやはりパワーバランスがかなり崩れてくるんです。
イギリスがすでにブレグジット(※Brexit:英国がEUから離脱したことの造語)していることとか、いろんなことを考えていくと、ルノーとメルセデスの関係というのは、これから欧州の中心的な存在になっていくのかな、という気はしています。
●まだまだエンジンの時代は続く
このカーボンニュートラル、バッテリーEVと言われている中で、エンジンを使ったハイブリッドを作ったということは、「まだまだエンジンの時代はこの先も続くよ!」ということを、ルノーは真剣に考え始めた。
時代の流れ、空気で「EV!」って言うんじゃなくて、実際に事業をやってみたらバッテリーEVはなかなか収益が得られないんです。高いし補助金も必要だしね。やっぱり現実的な解としてハイブリッドがいいだろうと。
このクルマは2モーター・ストロングハイブリッドなので、これにバッテリーをちょっと多めに積めばプラグインハイブリッドになりますから、外部からの電力で長距離100kmくらいEVで走れれば、ますますこのクルマの価値っていうのは高まっていくのかな、と思っています。
そういうようなことをずいぶん前に感じていたので、私はある雑誌に「フランス革命」というようなことを書いたんです。なんかフランスがいろんなことをやりそうだな…という気がします。
実際にF1を見ても、アルピーヌのアロンソ、速いよね。ルノー・スポルトはアルピーヌという名前に変える、かな?
今、アルピーヌはA110のスポーツカーを作っています。これは1000万円くらいなので、今後、バッテリーEVの、もっと上のスポーツカーを作るのではないかと。その時のブランドは、間違いなくアルピーヌになると思うんですね。アルピーヌ・ブランドはスポーツカーのプレミアムなブランド。
というような位置付けになっていくとしたら、やっぱりしばらくルノーから目が離せないな!というのが、今の私の見立てです。
●「選択と集中」。デザインとサスペンションで勝負するルノー
そんな中でこのアルカナに乗ってみて、やっぱりルノーはデザインや足。まぁ細かいところ、低速のブレーキのタッチとかは日本車のほうがよくできているんですけどね。
ルノーはカーナビなんかはあっさりと諦めていますから。最初からandroidとiPhoneのジャックが2つ用意されていて、もうそれは「スマホを使ってください!」というような割り切りですね。
選択と集中、自分たちの得意とする領域、あと次の時代に向けたルノーのクルマ作りのメッセージ。
ルノーの強みは、やはりデザインとサスペンションかな、と思っていますけどね。
このルノー・アルカナ、日本では一部のクルマ好きの、フランス車を支持するのは相当濃いクルマ好きだったんだけど、これからはもうちょっと幅広い人たちに向けて人気が出るかなと思っています。
●ルノー独自のクルマ作り「カングー」人気が凄い
そうそう、忘れちゃいけないのがカングー。年に1回、山中湖で「カングー・ジャンボリー」っていうカングー・ミーティングがあるんだけど、800台くらいのカングーが集まって山中湖のコンビニがカラになるくらい凄い人気!
カングーは犬のケージを2段積みできるので、愛犬家のファミリーにも愛好されています。ちょっと前までカングーのディーゼルがあったので、それなんか私も欲しいなと思ったときがありました。
ということで、このアルカナ、なかなか魅力的なクルマで、自動車メーカーとしてもこのルノーの存在は、ヨーロッパにおいてこれからかなり重要なポジションではないかなと思います。
●ストロングハイブリッドはフォワードの1トップ、ロナウドだ
ハイブリッドと言えば、皆さん気になるのは燃費だと思います。この暑い中、街中ぶらぶら走っても100kmあたり5.4Lくらいなので、リッター19km/Lくらい? 上手く走れば20km/Lを超えると思うんです。
もしこれがディーゼルにハイブリッドを付けたら、30km/L近くいくかな?
エンジンを使ったハイブリッドシステムというのは、本当にCO2下げたかったら理があるし、ここにバッテリーをちょっと多めに積めばプラグインハイブリッドになる。
エンジンとモーターで作ったハイブリッドシステムが中心になって、そこに様々な制御とかバッテリーの容量を変えることによって、もっと燃費を上げたり。あるいは、街中ではEVで走ったりできるので、プラグインハイブリッドという考え方にいけるストロングハイブリッド、2モーターでプラグインハイブリッド。
ここは多分、これからの時代のフォワードの1トップ、ロナウドだと思うね。間違いない!このロナウド無くして、本当に世界の環境技術に貢献できる技術は今のところ見当たりません。
バッテリーEVが無いとCO2は減らない。それは正しい。
でも、EVだけじゃ減らない。それも正しい。
で言えば、真ん中にプラグインハイブリッドというものも必要だと思うんですね。ディーゼルエンジンが最近ちょっとしょぼくれているんだけど、やっぱりエンジン単体の燃費、熱効率を考えたら、やっぱりディーゼルは捨てがたい。
今、ガソリン高いですよ。ハイオクで180円くらい? でも実際、40円くらい日本は補助金入っているので、税金で35円くらいとられて、もう実際リッター200円超えているんです。で、軽油はそこから20円くらい安いですから。
災害時にポリタンクで軽油は運べるけど、ガソリンは揮発しますから携行缶じゃないと持っていけないし、消防法で20Lしかダメなはずなんです。そういう意味で、ディーゼルをちゃんと使うというのもマツダあたりはやっているし。
実はフランスメーカー、ルノーはどうかな? プジョーなんかはまだまだディーゼルを大事にしてますから、ディーゼルエンジンも死んでいないかなと思いますね。
ただ、エンジン単体で走るクルマっていうのは、やはりアイドルストップできないし、回生ブレーキもとれないから、やっぱりベースがハイブリッド。そこはデファクトになってプラグインになったり、また、エンジン取ってバッテリーEVだけ、あるいはバッテリーの代わりに水素で発電できるスタックを積んだ水素燃料電池車。この辺かなと思いますけど。
●ルノーと三菱にあって日産に無いもの…それは、ストロングハイブリッド技術
ルノー・グループというと、ルノーがあって日産があって三菱があるんだけど、実は2モーターの複雑なハイブリッドを持っているのが一番上のルノーと三菱。真ん中の日産は、まだこのストロングハイブリッド持っていないんですね。昔、トヨタから貰ってやったことはあったんだけどすぐにやめてしまったので。
なんか三菱のアウトランダーとルノーのアルカナのストロングハイブリッドが両方にあるというのは、ルノー・日産・三菱グループ全体で見ると、なんか面白いなと思いますね。
三菱のアウトランダーを買うか、このルノーのアルカナ。
あるかな?
「フランス革命」によりルノーの存在が今後どうなるのか、注目ですね! 清水和夫さんのすべてのコメントは動画で!
(試乗:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの)
【SPECIFICATIONS】
車名:RENAULT ARKANA R.S. LINE E-TECH HYBRID
全長×全幅×全高:4570×1820×1580mm
ホイールベース:2720mm
トレッド(前/後):1550/1560mm
最低地上高:200mm
車両重量:1470kg
最小回転半径:5.5m
定員:5名
エンジンタイプ:自然吸気4気筒DOHC16バルブ
排気量:1597cc
最高出力:69kW(94ps)/5600rpm
最大トルク:148Nm(15.1kgm)/3600rpm
メインモーター:交流同期型
最高出力:36kW(49ps)/1677-6000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/200-1677rpm
サブモーター(HSG):交流同期型
最高出力:15kW(20ps)/2865-10000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgm)/200-1677rpm
電力用主電池:リチウムイオン電池(1.2kWh)
燃料タンク:50L(無鉛プレミアム)
駆動方式:前輪駆動(FF)
トランスミッション:電子制御ドグクラッチマルチモードAT
懸架方式(前/後):マクファーソンストラット/トーションビーム
タイヤ(前後とも):215/55R18
価格:429万円(税込)
【関連リンク】
StartYourEnginesX
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX
ルノー アルカナ
https://www.renault.jp/car_lineup/arkana/index.html
【関連記事】
- 800万円オーバー・限定500台の「GRMNヤリス」を清水和夫が実走チェックしたら、ラリーパッケージに大はしゃぎ♪
https://clicccar.com/2022/07/08/1199536/ - 清水和夫がプロデュース「ラリー コ・ドラ女子サミット」開催。みんな良妻賢母♪【モーターファンフェスタ2022】
https://clicccar.com/2022/06/30/1198374/ - 新井敏弘、勝田範彦、清水和夫のWRC「フォーラムエイト・ラリージャパン2022」応援団が語ったラリーの魅力とは?【モーターファンフェスタ2022】
https://clicccar.com/2022/06/08/1192162/ - 「超扁平タイヤはカッコ悪い」「スポンジ入れると静かに?」清水和夫がタイヤの都市伝説を一刀両断
https://clicccar.com/2022/05/11/1185179/ - F1も新幹線も軽自動車もマクラーレンP1も。止めることなら任せとけ!!世界に誇れる日本の技術「曙ブレーキ」Ai-ミュージアムを清水和夫が社会科見学
https://clicccar.com/2022/04/09/1175979/