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■ヘルメットの有無や制限速度など変更内容を解説
●改正案が可決されただけで法律はまだ変わっていない
街中や観光地などの手軽な移動手段として注目されている「電動キックボード」。
2022年4月20日に衆議院で道路交通法改正案が可決され大きな話題となっていますが、よく「運転免許が不要になる」とか「ヘルメットなしで、歩道も走れる」などなど、さまざまな規制緩和がなされるといわれています。
実際に今回の改正道路交通法が施行されると、電動キックボードのルールはどのように変わるのでしょうか? また、どんな注意点があり、いつ頃から始まるのでしょうか?
ここでは、電動キックボード販売会社で今回の法改正にも詳しい「SWALLOW(以下、スワロー)」に、具体的な変更内容について聞いてみました。
●新区分の「特定小型原付」とは?
今回お話を聞いたスワローは、2019年より公道走行可能な電動キックボードを販売している、いわば電動キックボードのパイオニアともいえる企業です。
なかでも同社が扱う「ZERO 9(ゼロナイン)」は、40kmもの長い航続距離やデュアルブレーキなどの高い安全装備などで、多くのユーザーに支持を受けているポピュラーなモデルです。
また、車両の販売だけでなく電動キックボードのルールについても、パンフレット配布・公式ホームページでの記事配信などにより、安全な運転や装備などに関する啓蒙活動も積極的に行っている企業です。
具体的に、どのような改正内容になっているのか聞いてみましょう。
まず、大きなポイントは、原動機付き自転車(以下、原付)として区分されていた電動キックボードが、新しく作られた区分の「特定小型原動機付き自転車(以下、特定小型原付)」に入ることになるといいます。
なお、特定小型原付の定義は、主に以下のようになるそうです。
・電動である
・最高速度20km/h以下に制限されている
・長さ190cm×幅60cm以内である
・特定小型原付に必要な保安部品が装着されている
スワローによれば、「本当はもう少し細かいのですが、おおまかにいうとこれらを満たせばどんな車体でも特定小型原付に区分されます」といいます。
つまり、本来は電動キックボードだけではなく、たとえばスワローが扱う「Fido(フィード)」という小型電動バイクでも、基準さえ満たせば特定小型原付になるそうです。
ただし、ここでは解説を簡単にするために、主に電動キックボードを特定小型原付として紹介しますが、本来は自動配送ロボット、シニアカーなど、もっと多様なモビリティが改正内容には含まれているそうです。
また、特定小型原付に必要な保安部品については現在国交省で審議中で、具体的な装備についてはまだ決まっていないそうです。
●今までの原付との違い
では、電動キックボードが特定小型原付になると、従来の原付とどのような違いが出てくるのでしょうか?
主な変更点をまとめると、以下のようになるそうです。
<改正前>
免許 原付の免許が必須
ヘルメット 必須
走行場所 車道のみ
速度制限 時速30km (原付一種の場合)
年齢制限 免許に準ずる
<改正後>
免許 不要
ヘルメット 任意(着用は推奨)
走行場所 車道、自転車レーン、条件付きで歩道
速度制限 時速20km
年齢制限 16歳以上
(出展:SWALLOW)
免許から速度、ヘルメットや年齢制限など、さまざまなことが変わるようですね。では、それぞれについて、さらに詳しく聞いてみましょう。
●改正後は免許が不要に?
まずは免許について。今まで電動キックボードは原付バイクなどと同じ扱いだったため、原付が運転できる免許証の取得と携帯が必須でしたが、特定小型原付は免許がなくても乗れるようになるようです。
これについて、スワローは以下の理由で免許不要を支持しています。
「免許が不要であれば、特定小型原付は自動車免許を返納した高齢者の移動手段として活躍するでしょう。また、地方などで遠くの学校に毎日通う必要のある学生の交通手段にもなることが期待できます」
電動キックボードをより手軽な移動手段として利用できるようにするには、免許がないほうがハードルが低くなるということですね。
●改正後はヘルメットは任意着用か?
現在、原付扱いの電動キックボードはヘルメットの着用も必須ですが、特定小型原付になると必須ではなく努力義務となるそうです。これについてスワローは
「クルマと同じ車道を走ることを考えると、ヘルメットの着用を推奨します」
といいます。
ちなみに、原付スクーターなど原付に属する車両では、GSマークやJIS規格などの安全規格マークのあるヘルメットの着用が義務付けられています。
一方、特定小型原付ではヘルメットの種類規定はなく、自転車で着用しているような通気性が良いものや、デザイン性に優れているヘルメットをつけることも可能になるそうです。
いずれにしろ、努力義務とはいえ自転車と同じで、走行時はできるだけ着用した方がよさそうですね。
●歩道を走ることができる条件とは?
今回の法改正で、もっとも話題になっていることのひとつが「歩道を走れるようになるのか」ということですよね。これについて、スワローでは
「基本的には歩道は走れません。ただし、条件を満たせば可能です」
といいます。つまり、基本的に特定小型原付でも、歩道の走行は認められていないのです。ただし、車両が出せる最高速度を変えれば可能となるようです。
スワローによれば、今回の法改正では特定小型原付のほかに、最高速度が6km/h程度の「歩道通行車」という区分も設けられるそうです。想定されている代表的な車体は、業務用の自動配送ロボットや高齢者が乗るシニアカーなどで、これらであれば歩道の走行が可能です。
ところが、電動キックボードについても、スワローいわく
「最高速度を変えることにより、特定小型原付←→歩道通行車の区分を行き来できる」
といいます。これはつまり、車両に最高速度20km/hまでの「特定小型原付モード」と最高速度6km/hまでの「歩道通行車モード」に切り替える装備を装着することを意味します。
これにより、特定小型原付モードの時は車道を走行、歩道通行車モードに切り替えることで歩道も走行することが可能となるのです。
●最高速度の切り替えが分かる装置も義務化へ
スワローは、この点について
「歩道通行車モードは、交通量が多く電動キックボードでは車道を走るのが危ない時の一時的な回避策として役立つでしょう。また、最高速度は車体側で6km/h(成人の歩行速度とほぼ同じ)に制限されているので一定の安全性も確保されています」
といいます。
ちなみに、車体が特定小型原付モードと歩道通行車モードに切り替えられる車両では、車体がそのように作られている必要があり、メーカーに責任が求められるといいます。
また、そうした車両には、現在どちらのモードで走行しているのが一目でわかるように「識別点滅灯火」と言われる装置の装着も義務づけられるそうです。
この装置について、スワローは
「イメージとしては電動キックボードの前後にライトがついていて、特定小型原付モードの時は青く点滅、歩道通行者モードの時は緑に点滅する」
といった感じになるそうです。最高速度を20km/hまでにしたら青、最高速度を6km/hまでにしたら緑のライトに自動で切り替わることが義務付けられるということですね。
●改正法適用時期は2-3年後?
今回の改正では、特定小型原付に乗ることができる年齢は16歳以上と義務づけられていることもポイントです。免許が不要だからといって、誰でも乗れるわけではないということです。
また、法律自体は可決されましたが、すぐに電動キックボードを特定小型原付として運転できるようになるわけではないことも注意したい点です。
スワローによると、新しい法律を施行するまでには特定小型原付用ナンバープレートを交付するためのシステム開発、標識の設置、配布物の交通ルールの書き換え、保険の設定、車体基準の作成、車体基準の審査機関の設置といったさまざまな準備が必要となるといいます。
そして、それらの準備には「1〜2年かかるといわれている」といいます。つまり、2023年か2024年あたりになりそうなイメージですね。それまでは、電動キックボードでもヘルメットや免許が必要ですので念のため。
さらに新法律の施行後も、特定小型原付ではない従来と同じ「原付としての電動キックボード」も残るそうです。つまり、最高速度30km/hまで出せる車両のことです。スワローでは、こうした車両について
「原付として利用する場合は、引き続き免許・ヘルメットは必須となります。新しい法律は原付を置き換えるものではないことも注意が必要です」
と、すでに電動キックボードを所有していり、既存ユーザーなどへの注意喚起も行っています。
●規制緩和の後もルール遵守は必須
現在、電動キックボードについては、一部の交通ルールやマナーを守らない人たちが起こした事故が問題となっています。これは、今回の改正道交法が適用されても同じことです。
車体側で低い最高速度に設定したとしても、やはりユーザーが交通ルールやマナーを守らなければ、事故は起こってしまうでしょう。
もし、改正道交法の施行後に事故が多くなるようなことがあれば、せっかく緩和された規制が再び強化されてしまうことにもなりかねません。
手軽に利用できる新たな移動手段として期待されている電動キックボードだけに、新法律の施行後についてもユーザーは新しいルールを十分に理解し、安全な運転を心掛けてもらいたいものです。
(文:平塚直樹 取材協力:SWALLOW)