目次
■内燃機関と電動モーター、それぞれの「得意」「不得意」はうまく補完しあえる
●発電機兼用・小出力のモーターを要る時だけ細かく使って実走のエネルギー効率を高める
8世代目になったフォルクスワーゲン(ドイツ語発音だと「フォルクスヴァーゲン」、英語発音だと「ヴォルクスワーゲン」。日本でその折衷にしたのは…という話を始めると脇道に逸れるので、今回は省略するとして…)・ゴルフ。そのエンジニアリングにおける(私個人の)注目点のひとつが “電装48V化”と“マイルド・ハイブリッド”というパワーパッケージ、です。
オルタネーターを、もともとの発電機としてだけではなく、始動(スターター)にも、さらに駆動と減速時回生のためのモーターとしても使い(モーターと発電機は電力の出入りが逆になるだけで、原理・構造としては基本的に同じですから、とくに誘導電動機の場合はこういう機能が簡単に実現できる)、クランクシャフトとの間はリブドベルトで伝達する。
この複数の機能を託されたモーター=発電機をVWの広報資料では「BSG(ベルト駆動スターター=ジェネレーター)」と呼んでいます(が、機能はもっと多い)。
そしてその電力の「出し入れ」も含めた車両の主幹電力システムを、長年の定石だった公称「12ボルト」、実質12~14ボルトの電圧から、「48ボルト」システムに変更(これも大枠としての呼び方で実際の走行の中で機能する電圧はもう少し低い)。そのメリットは、同じ電力を使って“仕事”を生み出す時に電流が少なくてすむこと(電力(W)=電圧(V)×電流(A)だから)。つまりモーターなど大きな電力を使うユニットが12V仕様よりも小さく軽くできる。
この48Vの新しい動力システムは、「第8世代」となる新しいゴルフにおいて、日本導入直後の現段階では2種類のガソリンエンジンとの組み合わせがラインアップされているのですが、その中でもとりわけ「eTSI Active」を名乗るグレードに搭載されている、直列3気筒・1Lエンジン(これ自体は、かつてup!とともに登場したユニットの最新版)とのコンビネーションが、走らせてみて「なるほどね…」と思わされたので、ここではそのパワーパッケージの走り味に絞って、「実況レポート」してみることにします。
●マイルド・ハイブリッドとしても、動き出しからひと味違う
日本国内の一般道では、ごく日常的な範囲の発進から動き出し、つまりアクセルペダルを少し踏み込みつつ動き出す、というところで、エンジンと駆動輪である前輪との間にはデュアルクラッチ・トランスミッションを介しているので、エンジンだけが仕事をするのであれば、まずアイドリングから少し回転を上がったところでクラッチをミート~VWのDCTはここもかなり「上手」なのですが~そこでクルマが動き出し、加速に合わせてエンジンの回転と音が上昇していく、のですが、このクルマの場合、発進とその直後に柔らかくクルマを「押し出して」いるのはモーター。スルッと押し始める感触で最初の「押し」が現れる。
この瞬間にこだわって、さらにディテールを“実況”すると…。
エンジン回転が少し上がったところでクラッチの(だけでなくトルクコンバーターなどでも)「滑り」とともにクルマが転がり出し、そこでクラッチが締結されて車速とエンジン回転の関係が一定の関係に収まる、というのがふつうの内燃機関+変速機の発進。でもこのシステムは、アクセルペダルを踏むとその動きに応じて車輪に回転力が発生、クルマが動き出す。明らかに「押す」力の立ち上がりが早い。その中でいつともわからずクラッチがつながり、発進の瞬間には止まっていたエンジンも始動。
先ほども説明したように、オルタネーターが駆動モーターとして働き、発進のためのトルクを発生した時には同時にエンジンのクランクシャフトを回し、その先で2組のクラッチのうちの「奇数段」担当がつながるので、走り出しの瞬間にはクランクが回転・ピストンの往復も始まっているので、そこにシリンダー内直噴のインジェクターから燃料を噴き込みつつ点火のスパークを飛ばせば、何回転もクランキングを続けなくてもエンジンに「火が入る」わけ。だから動き出しからエンジンの回転とクルマが走る速度がシンクロしたまま上がっていく。
ストロング・ハイブリッドでモーターが大きければ、エンジンを使わないで発進ができるけれども、マイルド・ハイブリッドではどうしてもエンジンを始動させてその回転をちょっと上げつつクルマの最初の「転がり」を作り、その中でモーターも駆動に参加する、という流れになるのがこれまでの通例。それが、通常サイズのオルタネーター兼用モーターでも最初の「ひと転がり」が出せる。ここに電圧を3~4倍に高めた、つまり同じ電流値でも電力は大きくなることのメリットが現れている、と理解するわけですね。
アクセルペダルをもう少し踏み込み、少し負荷がかかった状態で柔らかい加速を続けると、エンジン回転は1500rpmあたりからもう少し上まで上がりつつ、3気筒であることを感じさせる軽いオフビートと振動が伝わってきて、でも滑らかに駆動力の増加、車速の増加が続く。
そのままの加速を、アクセルペダルの踏み込みを増さないまま続けると、モーターの介入はほぼ消えて、エンジンが吸い込む空気の量の増加に応じてトルクを増してゆく感覚だけになる。その中で、あるいはほぼ定速の巡航状態の中からアクセルペダルを踏み増すと、最初にスッと押す力が乗ってくる。ここはモーターがまず「仕事」をして、それによって車速(&エンジン回転)を上げる最初の動きを作り、もう少し速度が増えるとまたモーターの存在は消えて、エンジンが「仕事」をしている燃焼音とともにクルマは走ってゆく。そんな感覚です。
● 3気筒なら出るはずの振動を、感じさせないスムーズな回り方
もう少し走り方の幅を広げると、どんな反応を見せるか、に話を進めます。
どんな状況でも、つまりもっと回転を高めても、3気筒エンジン特有の回転1次振動(クランクシャフトの回転1回ごとに1度の揺れ動き)を含むパワーパッケージの振動は、先ほども述べた1500rpm前後の軽負荷域など、ちょっとした状況で「ビート」として体感する以外ではじつによく抑えられており、普通に走ってこのエンジンが3気筒だと感じる、そうとは知らなくてもエンジンからのブルブル振動のようなものを体感したり指摘したりする人はほとんどいないでしょう。
走った後にボンネットフードを開けて確かめてみると、シリンダーヘッドのアッパーブロック(カムシャフトベアリング保持分割ラインから下)をそのままちょうど1気筒分延長、エンジンにとっては前方(車載状態で右側)に伸ばし、しかもヘッドとその延長部を一体に鋳造するという凝ったモノづくりをしています。
その箱状構造の先端をサイドメンバー上のガッチリとしたエンジンマウントに結合してある。ここまで剛性にこだわった設計はちょっと見たことがない。エンジン本体もかつてup!でデビューしたときのこのエンジンの最初の型に比べれば、回り方そのものがかなりリファインされている感触だし。さらに、オルタネーター=駆動用モーターを使って3気筒特有の、あるいはこのエンジン固有の振動やトルク変動を打ち消すような制御をクランクシャフトに印加している可能性もあるし、それはそんなに難しくないはず。
●「力」が欲しい時には、まずモーター、そこにエンジンが加わる
強めの加速を引き出したい、あるいは登り勾配がきついワインディングロードの旋回立ち上がりなどで、アクセルペダルを少し深めに踏み込むと、エンジンには過給による空気が十分に送り込まれ、たとえば2000rpm、さらに2500、3000rpmと回転速度が上昇したところからは、エンジントルクでグッとクルマを引っ張っていく感触が味わえる。この部分では自然吸気の排気量相当に置き換えると(感覚的に、ですが)、1.8Lあたりか、もう少し大きいかな、という印象。
さらにいえば、アクセルペダルをグッと深めに踏み込んだところからの過給効果の応答遅れ、いわゆるターボラグも、ギア・ポジションをホールドしている中で体感することがない。こういう状況では、過給圧が高まってくる手前をモーターがトルクを出して駆動力の立ち上がりを生むことでカバーしていると、論理的に考えればわかるけれども、ふつうに運転しているとそうした「2種動力の混合」が滑らかに行われるので、そうと意識することはまずない。
セレクターが「D」モードでは、アクセルペダルの踏み込みが少ないところではクルマ側がギア・ポジションをできるだけ高めにキープして、エンジン回転としては1500rpmか、状況に応じてそれ以下を使うようにしているので、そこからアクセルペダルを深く踏み込むとダウンシフト、モータートルク(絶対値としてはそんなに強くはない)発生、その先で回転速度が上がったエンジンがトルクを強める、というプロセスで速度を上げる。そのリズムから、登坂のワインディングロードなどではちょっとまだるっこしいこともあったりするけれど。またアクセルペダルのストロークで半分あたりまではレスポンスがおっとりした設定になっていて、その先までしっかり踏み込まないと、モータートルク→過給へとつながる力感が顔を出してこない。
ドライバーとして、もう少しビビットなレスポンスが欲しい、駆動力が瞬時に強まって欲しい、という場合は、セレクターを一度引いて「S」モードにすればいい。ギアセレクトがエンジン回転を2000rpm以上へ、下がっても1500rpm…というシフトプログラムになるだけでなく、アクセルペダルのストローク前半から駆動力を立ち上げてゆく特性に変わる。
そう、アクセルペダルの動きをセンシングして、それを「力の要求」と理解しているのが、最近のヨーロッパ流だし、アメリカでも増えてきています。
●すごく滑らかに、良く転がる
さらにこの新しいゴルフを運転する中では、アクセルペダルを戻した時の走りっぷりも極めて印象的。
セレクターを「D」モードにしておくと、アクセルを離すとほとんどの状況ではコースティング(惰行)に切り替わる。つまりエンジンの燃焼を止め、メカニカルクラッチを切った状態で走行するわけだが、とにかく「ヌメーッ」とでも表現したくなる感覚で、ものすごく良く「転がる」のです。
明らかに、車輪の回転を保持するハブ・ベアリングの機械精度が日本車のそれよりも圧倒的に高く、摺動抵抗が極小。路面から細かな振動が伝わってきてもベアリングの中でガタつきが出ずにきれいに回る。それが実感される転がり方。この「きれいに保持されて滑らかに転がる」車軸支持によって、走り慣れた道路の舗装がやり直されたのかと思うくらいスムーズな接地感、転がりの印象になる。この感触はe-ゴルフからのもので、最近ではパサート、アルテオンもフェイスリフトとともに同じ感触を身につけてきました。
この「転がり」の良さは、ちょっとした下り坂ならコースティング状態なのに車速が上がってゆくほど。クルマの流れの中では、他の車両にみるみる追いついてしまい、ブレーキを踏まざるをえなくなることも多い。こうなるとドライバーとしてもこのクルマ専用のドライビングがしてみたくなります。それはすなわち…。
まず駆動力をかけた「力行」状態で前方の上り下り勾配とクルマ群の流れ、信号の存在などを観察する。ここで駆動力を使うのをできるだけ少なくしておき、減速・停止に移る時には「惰行」で止まりたい目標地点まで行ける、あるいは先行車に遅れずに追従できると判断したら、アクセルペダルを全戻し、コースティングに切り替え、そこで様子を見る。速度が遅くなりすぎそうだ、と判断した時はアクセルペダルを柔らかく踏むと、瞬時にエンジン回転がその瞬間の変速比に対応するところまで上昇しつつ(ここは燃焼開始以前にBSGがクランクを回している)、クラッチがつながる。そこにショックはまったく出ない。逆に、より減速が必要な時はブレーキペダルを踏む。つまり運転の組み立てが鉄道車両に近づいてゆく感覚。
この惰行状態が時間、距離の両方で長くなるほど、メーターに表示させておいた(これもセンターディスプレイの「車両」で設定する必要がある)平均燃費の値はみるみる良くなっていく。
●発電・回生と機械ブレーキを組み合わせた減速
ここで、アクセルオフ~コースティングに関しては勾配検出を行っていて、下り坂の勾配が一定以上きつくなったところではすぐにクラッチをつないでエンジンブレーキに移行する。のですが、1L・3気筒が発生するポンピングの抵抗はかなり弱く、とりわけ高めのギア・ポジションを選択しているDモードでは「エンジンブレーキ」はかなり薄い。そこで減速したい時にはブレーキを多用することになる。
またアクセルペダルを全戻しするとコースティングモードに移行するのですが、その中でブレーキペダルを踏み始めた(ペダルストロークが検出された)瞬間からオルタネーターによる回生が始まることが「ヒュー」という独特の回転音がかすかに聞こえることで感知できます。アクセルからブレーキに踏み変えた時も(当然ながら)同様。つまり回生は強くはないがかなり頻繁に行っていることも伝わります。
ということで、減速が必要になったら、日本のドライバーに多い「最初はソーッと、徐々にペダルを踏み増して様子を見る」ブレーキングではなく、踏み始めにサッと必要な減速度を立ち上げて減速終了までそのまま」という「踏力一定ブレーキング」で。これで車速=運動エネルギーが大きいところでサッとBSGによる回生を引き出せます。
ただ、「すごく転がる」コースティング・モード、ブレーキペダルを踏んだ瞬間から入って来る回生による減速度(これもあまり強くない)、そのまま減速を続けていると起こるダウンシフト、速度が落ちると回生が切れる、そして止まる寸前にはクリープに切り替わることも…と制動・駆動の状態が次々に変化してゆくことで、ソフトなブレーキングでは、我々が日頃からトレーニングしている「踏力一定ブレーキング」の予測制御がちょっと難しくなってはいますが。
ふつうに減速してきて停止に向かうところでは、エンジン~トランスミッションはコースティングに入っているので、そのままアイドルストップし、そこから一時停止、駐車場の中などを動く時は電動駆動のみになります。
一方、この1Lモデルで高速道路に入り、ACC(車間距離保持機能付きクルーズコントロール)をたとえば100km/hに設定して巡航すると、下り勾配にかかって車速維持のための負荷が減少すればもちろんすぐにコースティングに移行し、さすがに2、3km/h程度のオーバーシュートはそのまま放置(プリウスなどはもっと速度変動の幅が大きい)。その先で上り勾配にかかり、車速がはっきりと低下するまではコースティングを維持します。日本でもようやく可能になった120km/hの巡航では、当然ながら走行抵抗、とくに空気抵抗が増加することもあり、コースティングが顔を出すタイミング、そこから転がり続ける時間はかなり減り、「異様なほど」転がるという感覚はちょっと薄くなりました。
●異種の動力源を組み合わせて走る、という原点に戻って整理すると…
内燃機関にとって最も不得手な「お仕事」の領域、かつこの排気量だと空車で1.3tを越える質量を押し出すだけのスターティングトルクが出せないところで、まずはモーター駆動で“押し出す”。最初の数転がりでも、駆動の立ち上がりと燃料消費の両方に相当なメリットがあります。そしてエンジン回転が1500rpmあたりに上がったところからはエンジンに“仕事”をハンドオーバーしつつ、アクセルペダル・ストロークに対してエンジントルクが追いついてこないところでは、うっすらとモータートルクが乗ってくる。あるいは、またほぼ平坦な道路を一定負荷・アクセルペダル・ストローク一定で巡航している状況から、上り勾配や加速要求などでペダルストロークを増すと、スッとなめらかにクルマを押し出す力が増える。
この感覚はかなり幅広い速度域で現れ、ガソリン・エンジンではこんなに早いタイミングでトルクは増えない、と思わせる立ち上がりの速さと連続感を味わえます。いうまでもなくガソリン・エンジンはスロットルを開けて吸気流量が増えないと燃焼圧力の増加は現れない。その感触に馴染んでいる者にとっては、「エンジンではない存在が“押して”いる」感覚を覚えることがあったりもして。
でも発進の瞬間、とくに最初の「転がり出し」も、エンジン駆動だと燃料消費がグッと増える状況なのであって、市街地走行など発進・停止を繰り返すパターンではこの「動き出し」をモーターに任せるだけで、これはほんとに「大幅な」燃費改善ができます。
中高速域で、加速あるいは登坂のためにアクセルペダルを踏み込みつつ瞬間燃費表示の動き方を見ていると、「押し出し」を始めるところはモーターが受け持っている、ということが読み取れます。
内燃機関だけで走るクルマだと、エンジンが走行抵抗とバランスするのに必要なトルクを維持している状態から、まずエンジンに送り込む燃料を増やして燃焼を強め、それで回転速度を上げ、速度を上げる、あるいは勾配に対応する。この「エンジンを加速する」ところでかなり無駄に燃料を使うことは当たり前に知られています。
そこでまず蓄えておいた電力を使ってモーターにトルクを発生させてクルマを押し、そこで求めていた車速へ、あるいは勾配との釣り合いが生まれたところで、エンジンは多くの仕事はしないままに、そこで走る回転速度に来ている。そこでエンジンに、クルマが走る分だけの「仕事」を受け渡せば、無駄な燃料消費をかなり減らせる。
とまぁそういう理屈。それが理屈そのままに実体化されています。
●エンジンが不得手なところをモーターがお手伝いする、という理屈そのままに
これらの、エンジンで“押す”と燃費率が悪化するところを貯蔵電力をモーターに送り込んで走り、エンジンの弱点をカバーすることで、走行トータルの燃料消費の無駄な増加を削る。これは内燃機関+電動モーターによるハイブリッドの基本中の基本。日本の技術者の方々も「それは先刻承知」と言うだろうし、発進の瞬間をモーターに任せるものはいくつかあるけれども、エンジン=モーター直結機構でその理屈を体感させてくれる走りを、幅広い状況で実現できているものは残念ながらほとんどない。
走り出してからも、駆動力「増」を求められた最初の瞬間に、まずエンジン回転を上げる=エンジン内部の往復&回転運動部品群を“加速”するのに燃料を消費するのが日本流になってしまっていて、モーターで“押し”、エンジンは車速の変化と一体に回転速度を上げ、そこで新しい運転状態に移行する、というハイブリッド動力の「あるべき姿」を実現した例にも未だほとんど出会っていません。
それに対してVWは、このゴルフ“8”でモーターの出力を9.4kW(13ps)、最大トルクは62Nm、電池容量も0.6kWhとそれぞれかなり控え目にしつつ、走る中で求められる「力」と燃料消費の抑制をいちばん効率的に具現化する特性を作って来ている。私としては初対面以来の“味見”の中で、そう実感しています。しかも2つの動力源の混合による駆動力の増加→一定へ、という流れを、体感ではほとんどノーステップ、つまり駆動力増加のショックどころか変化の折れ点をほとんど感じさせないところまで仕上げてきています。
その「無段差」駆動のためには、エンジンとモーター、DCTという機構要素群の、車速に対する瞬時の回転速度合わせ、協調制御が欠かせないのですが、そこにはこれまでVW社内で蓄積された経験知、たとえばDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)のギアボックス、一対のクラッチ、そしてエンジンの協調制御での知見などが活きているはず。
私の体感では、歴代のDCTの中でも最も滑らか、かつクラッチミートの時間が短いと思われる。エンジン(クランクシャフト)を駆動モーターで始動して回転速度が合わせやすいことも大きいし、今回、このトルク容量が小さいほうのDCTユニットも、より大きなトルクに対応する仕様と同様に、従来の乾式単板クラッチから湿式多板クラッチに変更したことも効いていると思われます。
最後に、1200kmほどを実走して確認できた燃費は、高速道路を主に市街地や郊外道も走って平均速度51km/hで(燃費を論ずる上では区間平均速度とともに整理することが必須です)、平均燃費18.2km/L。車両のディスプレイに表示される区間平均燃費(日本車の”甘い”表示値が多いけれど、VWを含めてドイツ車はかなり正確)では、高速道路の80〜100km/h巡航、平均速度80km/hで22km/Lというセクションもありました。いうまでもなく、この車体サイズと居住空間の広さからすれば相当に優秀です。
というわけで、なかなかの優れもの。それも「内燃機関の不得手なところを、モーターが得意とする使い方でカバーする」という、動力混合のお手本のような使い分けから同調、そして「内燃機関が得意なところ」へと手渡しする、しかも電動機構も電池も重量が嵩まないように。
そういう資質を具現化していることは、これからの時代、自動車は内燃機関と電動動力の両方を積むことが当たり前になっていく中で、ひとつの指針を示す存在になっていきそう。だから少なくとも自動車の開発を担う人々には、一度その走りを様々な状況で体験し、何をどうしているのかなど、分析していただきたいクルマなのです。
(文:両角 岳彦/写真:Volkswagen-特記以外)