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■全長5.6mのアメリカンピックアップで本格4WDのジープ・グラディエーター
●ジープとは/第二次世界大戦で生まれた軍用車がルーツ
ジープは会社名ではなくブランド名です。現在はステランティスのブランド名となっています。ステランティスは多くの企業が合併してできた会社で、フィアットやプジョーもステランティスのブランド名です。
最初のジープは、第二次世界大戦中の1940年にアメリカ陸軍の要請により製造されました。この際、陸軍は135社の自動車メーカーに軽量偵察車の製造依頼をしましたが、これに応えたのは「アメリカン・バンタム」、「ウィリス・オーバーランド」、「フォード」の3社のみでした。
もっとも早く対応したのはアメリカン・バンタムで、ウィリス・オーバーランドとフォードはアメリカン・バンタムの基本設計を元に軽量偵察車を製造します。戦時中はいくつかのバリエーションが製造されましたが、なかでもウィリスMBとフォードGPWの2タイプは多くの台数が製造されています。この2車は完全に同一仕様で、部品にも完全な互換性がありました。
ジープがメーカー名にあらず、ブランド名もしくは車名だと書きましたが、その由来はニックネームにあります。名前の由来ははっきりとはしていませんが、もっとも有力な説と言われているのが、アメリカ軍の偵察車の名称がジェネラル・パーパスを略したGPから生まれたものというものです。戦時中に兵士たちが「GP」、「GP」と呼んでいたのがジープになったというわけです。
戦後、ジープはウィリス・オーバーランドによって民生用として製造されます。その後、ウィリス・オーバーランドはカイザーに買収されます。カイザーはACMに、ACMはルノー傘下に…と紆余曲折しながら、現在はステランティスのブランドとなっています。
ステランティスのなかでも中心的存在となるフィアットは、1979年には自動車部門が独立、フィアットオートS.p.A.を設立し、フィアット、ランチア、アウトビアンキ、アバルト、フェラーリを編入。1984年にはアルファロメオ、1993年にはマセラティも編入されます。
2014年にはアメリカのクライスラーとフィアットが合併しフィアット・クライスラー・オートモビル(FCA)が設立され、クライスラー、ジープ、ダッジ、ラム・トラックスの4ブランドが統合されます。2016年にはフェラーリはグループから離れて独立しますが、大株主が同一であることもあり、関係が途切れているわけではありません。
合併によって巨大化をしてきたフィアット(FCA)は2021年にフランスのPSAと合併しステランティスとなり現在に至ります。ステランティスの所有するブランドは、アバルト、アルファロメオ、クライスラー、シトロン、ダッジ、DS、フィアット、ジープ、ランチア、マセラティ、オペル、プジョー、ラム、ボクスホールと14にもなります。
●グラディエーターとは/ジープのトラックは30年ぶり、グラディエーターは50年ぶりの登場
軍用車時代のジープは乗用車でもあり、トラックでもあり、兵器を載せるベースでもあったはずです。戦後、ジープは乗用モデルとしてスタートしますが、1947年に2WDと4WDのトラックモデルを追加します。その後、1956年にはフォワードコントロールいう名のトラックが登場します。1947年のトラックがボンネット型だったのに対し、フォワードコントロールというのはフロントシート下にエンジンを収めるキャブオーバーの意味です。
グラディエーターの名が冠されたモデルは1962年に登場します。たとえば、戦後の日本車はまず先にトラックなどの商用車があり、そのフレームを使って乗用車を作っていましたが、ジープのトラックはまずクロスカントリー4WDのジープがあり、そのジープをベースにトラックを作るという方向です。この初代グラディエーターもワゴニアというモデルをベースとして作られています。ジープをベースにトラックを作れるということは、ジープのフレームがいかに強固であるかを物語っているといえるでしょう。この初代グラディエーターは1971年にはジープトラックに車名を変更し、1987年まで製造されます。
その後もスクランブラーやコマンチといったピックアップトラックは登場しますが、グラディエーターの名が冠されたモデルは登場しませんでした。コマンチの終了が1992年なので、ジープのトラックは約30年ぶり、グラディエーターの名前が消滅したのは1971年なので、今回の2代目グラディエーターは約50年ぶりの復活となりました。トラックなのでナンバーは「1」、車検は毎年受けることになります。
●グラディエーターの基本概要 パッケージング/全長5.6mは圧倒的に大きい
グラディエーターは、ラングラーの4ドアモデルとなるアンリミテッドをベースにピックアップトラック化したモデルです。日本には限定輸入されたことがあるラングラー2ドアのホイールベースは2460mm、4ドアのアンリミテッドが3010mm、グラディエーターは3490mm。ラングラーのショートと比べるとじつに1m以上も長いホイールベースを持つことになります。
日本に導入されているグラディエーターはフリーダムトップという3分割のハードトップを持つモデルですが、サンライダーという名のソフトトップ仕様も存在。さらにサンライダー・フリップトップ・フォー・ハードトップといって、ハードトップのフロント部分のみが折りたたみ式のソフトトップとなっている仕様も存在します。前後のドアは取り外し可能、フロントウインドウも前倒しすることができますが、その状態での公道走行は違反と判断されることもあるので注意が必要です。
日本仕様のグラディエーターの全長は5600mm、全幅は1930mm、全高は1850mm。ベースとなったラングラーアンリミテッド(ルビコン)と比べると全長は730mm延長、全高は5mmダウンされています。こうしたモデルの場合、全幅は同一のことが多いのですが、グラディエーターはラングラーに比べて35mm拡げられています。トレッドもラングラーが1600mm(前後とも)であるのに対し、グラディエーターは1635mm(前後とも)と35mm拡げられています。
タイヤサイズはグラディエーター、ラングラーアンリミテッド(ルビコン)ともにLT255/75R15で同一なので、全幅もトレッドも純粋に拡げられていると判断できます。ちなみにトヨタ・ハイラックスとサイズを比べて見ると全長で260mm、全幅で35mm、全高で50mm大きく、グラディエーターの存在感がいかに圧倒的なものか、うかがい知れます。
乗員スペースはダブルキャブと言われるもので、フロントシートにセパレートで2名、リヤシートはベンチタイプで3名、計5名の乗車定員となります。荷台の広さは60.3インチ(1530cm)×56.8インチ(1440mm)で最大積載量は250kgとなっています。アプローチアングルは43.4度、デパーチャーアングルは26度、ランプブレークオーバーアングルはホイールベースが長いこともあり20.8度となります。また、最大渡河性能は760mmと十分な深さを確保しています。
●グラディエーターの基本概要 メカニズム/4.000の減速比を持つトランスファーを採用
日本には3.6リットルのV6ガソリンのみが輸入されますが、仕向地によっては3リットルV6ディーゼルも設定されています。ミッションも日本仕様は8ATのみですが、仕向地によっては6MTも用意されています。
駆動方式はフルタイム4WDも選べるパートタイム4WD。駆動モードはリヤ2輪駆動となる「2H」、前後の駆動配分を自動的に調整する「4H AUTO」(これがいわゆるフルタイム4WD状態です)、センターデフロックの「4H PART TIME」、センターデフロックに加えギヤ比を落とす「4L PART TIME」の4モードを持ちます。「4L」の減速比は4.000となります。つまり「2H」や「4H」時の4分の1の速度しか出ませんが、駆動トルクは4倍になります。リヤデフロック、フロント&リヤデフロックも可能です。
サスペンションは前後ともに5リンクのコイルリジット。前後ともにスタビライザーが装着されますが、フロントのスタビラザーはその機能をオフにして、サスペンションストロークを稼ぐことができます。
●グラディエーターのデザイン/ジープらしい7スロットグリルを採用
グラディエーターはラングラーとともに、もっともジープらしいスタイルを踏襲しているモデルといえます。まずその顔付きですが、7スロットと呼ばれる7本の縦長のスロットを持つグリルは、戦後に登場したCJ型で採用されて以来、ジープのアイデンティティとして継承されているデザインです。7スロットグリルの両脇に丸形のヘッドライトが装着された顔付きは、ひと目でジープとわかるものです。
平面基調のボディパネルに、大きく張り出したオーバーフェンダーもジープらしさを強調する大切な要素です。ドアヒンジはもちろんアウターヒンジで、ヘビーデューティさを演出します。フロントフェンダーの前方にはウインカーが取り付けられます。リヤコンビランプはリヤゲートの外側に配置、ハイマウントストップランプはゲートに取り付けられています。荷台の奥、キャビンとの隔壁部分には7スロットを模したデザインが施されていますが、左右両端の1つ内側にはオフロードタイヤのトレッドのような部分があります。この部分は「オフロードバイクを積むときは、ここにタイヤを当てて下さい」という目印になっています。
キッチリ水平に配置されたダッシュボードは、クロスカントリー4WDらしい機能的なデザインです。クロスカントリーランでは、このラインと路面との関係でクルマの傾斜度を読み取るからです。グラディエーターにはボディが横方向、縦方向でどのように傾いているかをモニターに表示することもできますが、直感的にドライブするためにはこの水平配置ダッシュボードはとても大切なものです。
メーターは丸形、エアコン吹き出し口も丸形となっています。正対するパネルはゆるい曲面で構成され、この曲面と塗装の質感がメタル感を醸し出しています。各スイッチ類は大きめで、グローブをした状態でも扱いやすくなっているのはジープの伝統でもあります。
●グラディエーターの走り/何事もなかったかのようにオフロードをこなす
グラディエーターの試乗はオフロードコースを2セクション、都内の舗装路を15分という短い時間のみとなりました。最初に行ったのはオフロードコースで、30度を超える斜度を持つスロープのダウンヒルと、タイヤ1本分くらいのかなりの高低差のあるモーグルの2つのセクションでした。オフロードコースでの試乗ということで、タイヤはBFグッドリッチのマッドテレーンタイヤであるT/A KM2に換装されていました。
すでにトランスファーはL4にセレクトされています。セレクスピードコントロール(ヒルディセントコントロール)を使ってスロープを下るため、ATセレクトレバーを左に倒してマニュアルモードを選びます。オフロードコントロールボタンを押して、ブレーキから足を離すとクルマがゆっくりと前に進みます。
マニュアルモードでは1~8速が選べますが、この状態での1~8はギヤ段数ではなく1km/hから8km/hとなります。つまり1を選べば1km/h、8を選べば8km/hで走行できます。下り勾配ではヒルディセントコントロールとして作動するので、2を選び2km/hで下って行きます。2.8tのボディを支えきれずに若干滑ることもありましたが、それもすぐに収まりグッと大地をつかみ下っていきます。セレクスピードコントロールを使っていれば、アクセルもブレーキも操作は不要、ステアリング操作に集中できるので複雑なコースでも安心して走ることができます。
モーグルコースにはスウェイバーディスコネクトを使って挑みました。スウェイバーディスコネクトとは、フロントのスウェイバー(スタビライザー)を切り離してサスペンションストロークを稼ぐための機能。スウェイバーディスコネクトを使わなくても通れるレベルだといいますが、せっかくの機能なので試してみました。サスペンションはしっかりとストロークし、タイヤが路面を追従します。グラディエーターにとっては、どうってことのないセクションというイメージで、普通に走り抜けてしまいました。
都内での試乗は豊洲周辺。市場がある地域だけに道路は広く、2mに迫ろうかという全幅も気にならずに運転できます。トラックではありますが、最大積載量が250kgと小さいこと、ホイールベースが非常に長いこともあり、乗り心地はそんなに悪くはありません。また、空荷であったにも関わらず、リヤが跳ねるというような印象もありません。ドライビングポジションも乗用車的で、普通に乗っていられ拍子抜けしてしまうほどです。
●グラディエーターのラインアップと価格/グレードはルビコンのみ、価格は840万円
北米モデルのグラディエーターはソフト、ハード、ハード+前方のみソフトという3種のルーフタイプがあり、グレードも多彩に用意されています。そうしたなか、日本に輸入されるのはハードルーフのルビコンというモデルです。ルビコンはオフロード装備を充実させたモデルで、もっともヘビーデューティな仕様。減速比4.000のトラスファーなどはルビコンにのみ装備されるものです。北米仕様のグラディエーターは6MTモデルも設定されますが、日本仕様は8ATモデルのみで、840万円のプライス。パールコート塗装モデルは845万5000円となります。
●グラディエーターのまとめ/すでに400台を受注している大人気モデル
グラディエーターは2021年11月30日から受注を開始し、2022年6月初旬の段階で400台を受注しています。この400台の受注は日本仕様のグラディエーターの実車を確認しないで行われているということですから、まさにファン待望のモデルであったことがうかがえます。
ジープのラインアップのなかでもかなり大型のボディで、日本の道路事情や駐車場事情にはなかなかマッチしにくい部分もありますが、ラングラーよりもさらにアメリカンテイストが濃いグラディエーターは、クロカンファンだけでなく、アメ車ファンの心もグッとつかんでいるのは間違いありません。
実際に所有するには生活環境が対応していないと難しいでしょう。しかし、そこをクリアすれば十分にショッピングリストに載るモデルだといえます。ラングラーの場合、3年後の残価率が90%オーバー、10年後でも50%もあるというのですから、グラディエーターもかなりの残価率が期待できますので、840万円の車両価格も単純に高いとはいえないでしょう。
(文:諸星 陽一/写真:諸星 陽一、ステランティス ジャパン)