2030年に350万台の電気自動車を売ると宣言したトヨタの先鋒、bZ4Xの実力は? スバル・ソルテラとの違いは?

■トヨタとスバルの思惑は同じようで違う

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
トヨタbZ4X
国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
スバル・ソルテラ

トヨタは昨年「2030年に年間350万台を電気自動車にする」という計画を発表した。トヨタ全体の販売台数がおよそ年間1000万台なので、8年後は3分の1以上を電気自動車にするという驚くべき内容。その第一弾として企画/開発されたのが今回紹介する『bZ4X』である。ちなみにスバルとの共同開発となり、スバル版は『ソルテラ』というネーミング。トヨタとスバルの思惑は同じようでいて違うあたりを後半紹介します。

まずは試乗と行きましょう! bZ4X/ソルテラの開発テーマは「ガソリンエンジン車から乗り換えても違和感無く走れる」という点だという。最初にハンドル握ったのがソルテラ。前後にモーターを搭載するAWDである。Dレンジをセレクトしてアクセルを踏むと、イメージとしてはプリウスやRAV4などハイブリッドに限りなく近い。「電気自動車感を強く出したい!」を開発目標とした場合、ガソリン車とレベルの違う静粛性など追求する傾向。

●永遠にエンジンがかからない気持ちよさ

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
トヨタbZ4X。あえてEVらしさを出さずハイブリッドに近い感覚で走る

実際、bZ4X/ソルテラが海外市場で競合するヒョンデのアイオニック5や日産ARIYAに乗ると、走り出した瞬間から「う~ん!」とウナるくらい静か&滑らか。bZ4X/ソルテラの静粛性はハイブリッドと同等レベル。もちろん十分静かですけど。ハイブリッドと決定的に違うのは、速度上がってもエンジン掛からないこと。ハイブリッドに乗ったことのある人なら皆さん感じる通り、エンジン掛かった瞬間、なぜか残念に思えてしまう。

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
FF仕様のモーター出力は定格73kW、最高150kWを発生

このままモーターで走り続けてくれたらステキなのに、という感覚です。bZ4X/ソルテラに乗ると「エンジン掛からなかったらいいのに」的な残念感なく、ず~っとモーターで走り続けてくれる。ハイブリッドから乗り換えた人からすれば「なんて気持ちいいんでしょ!」が続くのだった。電気自動車としての新しさを強く期待すると普通のクルマ過ぎちゃうかもしれないけれど、先入観なくハイブリッドから乗り換えたら楽しくて快適に思う。

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
トヨタbZ4X

このあたりがbZ4X/ソルテラの評価を決めるんだと思う。同じことは動力性能にも言える。テスラなどが作りだした「電気自動車って速い!」というイメージを期待してbZ4X/ソルテラに乗ると、確かにスタートの一瞬とか「速いね!」と思えるシチュエーションもあるのだけれど、走り出すとRAV4のハイブリッドなどと同等レベル。データ見てもRAV4ハイブリッドの0~100km/h加速8秒に対し、bZ4X/ソルテラのAWDで7.7秒、FFは8.4秒。

参考までに書いておくと、ARIYAのAWDだと5.7秒。テスラ・モデル3なら4.4秒。同じ価格帯の電気自動車達と比べたら、ハイブリッドに近いことが解ります。こういったクルマ作り、開発チームに聞くと「あえて普通のクルマにしようと考えました」。つまり350万台売ろうとしたら「尖った性能より普通に使えるクルマでしょう」ということ。そうは言ってもARIYAだって普通に乗れば普通。ユーザーがどう評価するか興味深い。

●コストを抑えたいトヨタと平均燃費を上げたいスバル

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
スバル・ソルテラ

個人的には「猫には猫の魅力。犬には犬の魅力」があると思っている。猫を犬のようにすれば犬好きからは受け入れられると考えるのかもしれないけれど、このあたりは開発チームの判断かと。今回、名古屋をスタートし、街中や高速道路、一般道、ワインディングロードなど様々な環境でbZ4X/ソルテラを走らせてみたけれど、普通に乗っていれば静かで滑らかなクルマのため満足度高かった。静かな乗用車です。

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
スバル・ソルテラ。基本インテリアは両車に共通している

実用性で1つだけ気になったのが航続可能距離表示。エアコンを入れた途端、ガックリ落ちてしまう。確かにエアコン入れると航続距離は減るものの、速度や外気温によって随分違う。bZ4X/ソルテラの開発担当者に聞いたら「最悪の条件を表示しています」。確かに酷く落ちる条件もあると思う。ただ20%以上減る数字を見ると、エアコンの使用を控える人も出てくるだろう。暑くてもガマン。少し窓ガラス曇ってもガマン、です。

今回試してみたら、エアコンの使用による実際の走行距離は日産リーフなどと同等レベル。つまり高速道路や流れの良い道を走っている限り、せいぜい5%程度。これまた普通に使えばいい。bZ4X/ソルテラのエアコンも省エネルギータイプを使っている。「快適性を犠牲にしてまで使わないようにする」はナンセンス。トヨタにとって初めての電気自動車ということで、10年前に日産がやった「慎重過ぎる運用」を繰り返している気がします。

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
オプションの20インチアルミホイール。タイヤサイズは235/50R20

最後にbZ4X/ソルテラのバックボーンを。トヨタからすれば「最初の電気自動車」ということで慎重に行きたいと考えたのだろう。日産やヒョンデが気合い入った電気自動車専用プラットホームを採用する中、RAV4をベースにしているため、インテリアを含め基本骨格はエンジン車とよく似ている。開発もトヨタ単独でなくスバルと半々。もう少し深く掘り込むと「トヨタのハードを使いスバルが開発した」くらいのイメージでいいと思う。

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
急速充電中の様子。普通充電のポートは車体右側にある

つまり「まず最小限の投資で電気自動車をラインアップしたい」。一方スバルは違う目的がある。御存知の通り世界規模で厳しいCAFE(企業平均燃費)が課せられ始めた。燃費の良いエンジン車を持っていないスバルとしては、電気自動車で平均燃費を上げたいところ。かといって単独で開発しようとすればコスト的に厳しい。トヨタに共同開発を提案したら「やりましょう!」になった。この流れがbZ4X/ソルテラの方向性を決めたワケです。

●もっと販売台数を伸ばして欲しい

国沢光宏のbZ4X&ソルテラ試乗
スバル・ソルテラ

さて。クルマの最終評価をするのはメーカーでもなく評論家でもなくユーザー。現状を見ると、KINTOでのみ扱うbZ4Xは年内目標3000台の3分1程度の受注。販売するソルテラが900台目標の3分の1程度らしい。私の読者に話を聞くと、皆さん「少し割高感がありますね」。ちなみにbZ4Xの4年使用だと、国の補助金使って申し込み金77万円+毎月8万8220円。個人だと少しばかり高く感じるように思う。

充電ポイントで出会ったリーフユーザー。BEV故のコミュニケーションが生まれることもある

とはいえトヨタにとっては2030年に350万台の先鋒! スバルにとってもCAFEクリアのための重要なアイテムという位置づけ。もっと売りたいところだと思う。個人的には加速力の良さや、レスポンスの鋭さに代表される電気自動車の魅力をもう少し全面に出した方が魅力的だと考えます。KINTOも4年後の残価をもう少し高く設定することで、毎月の支払金額を下げることだって可能。カーボンニュートラルに向け販売台数を伸ばして欲しい。

(文:国沢光宏/写真:楠堂亜希)