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■ビッグシングルの鼓動感と余裕あるトルク、ビンテージ風スタイルが魅力
多様なスタイルがあるバイクの中でも、近年高い支持を受けているジャンルのひとつが「ネオレトロ」。
クラシカルなスタイルながら、最新技術を投入した走行性能を持つ機種のことですが、イタリアの老舗バイクブランド「ベネリ」の新型ロードモデル「インペリアーレ400」もその1台。
1950年代の名車をモチーフにしたスタイルを持つこのモデルは、美しいフィンを持つ374ccの空冷単気筒エンジンや、キャプトンタイプのマフラー、2連メーターやサドルタイプのシートなど、ビンテージ感溢れる装備が満載! それでいて、現代の技術を採り入れたパフォーマンスと高い信頼性なども魅力だといいます。
そんなインペリアーレ400に、JAIA(日本自動車輸入組合)主催の輸入2輪車試乗会で乗ってきました。
最近は、排気ガスや騒音などの規制が厳しいことで、特に空冷エンジンのバイクは、あのヤマハの名車「SR400」がついに生産終了になるなど、なかなか存続が厳しいことが現状。そんな時代にもかかわらず、新しく登場したビッグシングルマシンは、一体どんな乗り味を楽しめるのか? 早速レポートしてみましょう。
●1950年代の名車がモチーフ
インペリアーレ400は、1950年代にイタリアのベネリと、その兄弟メーカーともいえるモトビが販売した「Imperiales(インペリアーレズ)」がモチーフとなっているモデルだそうです。
ちなみに、ベネリは、1911年にイタリアで創業し、かつて数々の国際レースで活躍した老舗バイクメーカー。1980年代後半に一度消滅しましたが、現在は中国の銭江グループ(Q.J.)の傘下に収まり、デザインをイタリア、生産を中国で手掛けています。
日本では、二輪用品などを手掛けるプロトが輸入販売を行っています。
インペリアーレ400の大きな特徴は、前述の通り374ccの空冷単気筒エンジンを搭載すること。古典的なビッグシングルのパワートレインを、現代風にアレンジし、同じくクラシカルなスチール製のダブルクレードルフレームに搭載します。
また、車体後方にストレートに伸びるキャプトンタイプマフラーには、ヘアライン加工も施され質感も満点。ラウンド型の燃料タンクやアナログ式の2連メーターなど、ビンテージバイクをイメージさせる数々の装備が光ります。
●押し歩きや取り回しも楽
では、早速試乗してみましょう。まず、ポジションは、アップライトなバーハンドルとミドルコントロールのステップ位置により、上体が起きて自由度が高い感じ。街乗りやツーリングでも、疲れにくい乗車姿勢ですね。
また、足着き性は780mmというシート高とリヤ2本サスが適度に沈み込んでくれることで、なかなか良好です。筆者の体格は身長165cm、体重59kgですが、片足を出した場合、お尻をシートからずらさなくてもカカトがピッタリと着きます。
車両重量は205kgで、同クラスのSR400が174kgですから、若干重めな感じ。かといって、1000cc以上のツアラーなど、300kg近いバイクほどの重さはないため、押し歩きや取り回しも比較的楽。狭い駐車場でも、あまり苦労することはなさそうです。
セルスイッチを押してエンジンを始動させてみます。キャプトンタイプのマフラーから、ビッグシングル独特のドコドコといった排気サウンドが奏でられ、ビンテージ感が満点です。
あえて欲を言えば、始動方式にセルモーターとキック式を併用していれば、もっと雰囲気がアップしたでしょうね。空冷のビッグシングルは、冷えているとキックでは掛かりにくい場合も多いのですが、こうしたビンテージ風バイクであれば、その面倒さも味のひとつになったと思います。
エンジンが冷えているときはセルモーターを使用し、エンジンが暖まっていればキック始動といった感じで、状況に応じて選べれば、もっとクラシカルな雰囲気がアップしたかもしれませんね。まぁ、このあたりはコストの関係もあるでしょうから、あくまで「欲を言えば」の範疇ですけどね。
●低中回転域をキープする方が楽しい
アクセルをじわっと開けながらクラッチをミートすると、低回転域から豊かなトルクが出てきて、ビッグシングル独特の鼓動感と共にトコトコとスムーズに加速します。
こうしたシングルエンジンのバイクは、あまり回転を上げず、早めにシフトアップした方が気持ち良く走れることが多いのですが、インペリアーレ400も例外ではありません。5速ミッションを駆使し、豊かな低中速トルクを活かして、比較的高めのギアで走る方が心地よかったですね。
ちなみに、エンジンのパワーは、最高出力15.5kw(21.1ps)/5500rpm・最大トルク29Nm(2.957kgf-m)/4500rpmですから、スペック的にも4000~5000rpm前後をキープする方がキビキビ走ることが分かります。
ただし、レッドゾーンの6000rpmあたりまで回してもトルクに谷が出ることはなく、比較的スムーズに回る特性でしたが、燃費と実用速度などを考えると、そこまで回す必要はあまりないでしょうね。
●前後サスがよく動きタイトターンも軽快
コーナリングでは、フロントの正立サスペンションとリヤの2本ショックが初期の沈み込みではソフトな感じながら、奧で踏んばる感じ。安定感は比較的高い印象でした。サーキットを走るなど、かなり尖った走りをしない限りは、サスペンションの性能は十分だといえるでしょう。
また、ブレーキは、レバーの入力に対しジワッと効く感じですが、プワーではなく、こちらも必要十分な制動力を確保しています。逆に、ガツンと効かない分、握りゴケなどの不安が少ないと言えます。
今回の試乗会場では、パイロンを立ててスラロームを試せるコースもありましたが、走ってみると、とても軽快。エンジンの低中速トルクが豊かなことと、前後サスがよく動くため、スロットルワークだけでヒラリヒラリと気持ち良く切り返せました。
また、定常円旋回も試しましたが、車体が思った方向へよく曲がってくれ、車体のコントロール性は良好。きっと、街中の細い路地をタイトに曲がったり、Uターンをするときも楽でしょうね。
●どんな場所でもゆったり走れるバイク
インペリアーレ400に試乗してみて実感したのが、ゆっくりと、周囲の景色を眺めながら走ることがとっても似合うバイクだということです。
トルクフルな特性を活せば頻繁なギアチェンジも不要ですし、郊外などで、エンジンのドコドコとした心地よい鼓動を感じながらクルーズすることが、このバイクを最も楽めるシーンだと感じました。
いわゆる戦闘的なスポーツバイクと違い、ワインディングなどでも、あまり飛ばそうと思わせず、バイクをあえてゆっくり走らせたくなる雰囲気があります。
きっと、クラシカルなスタイルと、このバイクが持つ走りの素性がそう感じさせるのでしょう。
ともあれ、街乗りではもちろん、郊外などへのバイク旅でも、ゆとりあるライディングを味わえるのがインペリアーレ400です。なお、価格(税込)は、59万9500円。現在すでに注文を受け付け中で、デリバリーは2022年6月頃の予定です。
(文:平塚 直樹/写真:小林 和久)