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■日野自動車のディーゼル不正は小型エンジンにも拡大
トヨタ・グループにおいてバス・トラックといった大型車カテゴリーやディーゼルエンジンの開発・製造を担う日野自動車が中型・大型ディーゼルエンジンの認証申請において不正を行なっていたことが2022年3月4日に発表され、話題となっています。
さらに3月25日には続報として小型ディーゼルエンジンにおいても燃費計測において不正行為があったことが明らかとなりました。
対象となったのは、トヨタ・コースターなどの小型バスに搭載しているエンジン「N04C(尿素 SCR)」です。
具体的な不正行為の内容は次のように公表されています。
認証試験の燃費測定において、燃費性能が基準を満たしていない可能性を認識した上で、アイドリング時の燃料消費量について、燃料流量が安定する前の測定開始といった燃費に有利な条件での試験実施や、複数回の測定結果から最も良い値を採用するといった不正行為を確認しました。
覚えている方も多いでしょう、日産・三菱による軽自動車の燃費偽装が明るみに出たのは2016年4月のことです。
その後、各自動車メーカーが同様に行為がないかを確認する中で他社でも燃費偽装が発覚しました。対策として、コンプライアンス意識の徹底などを日本の自動車産業界は進めたはずですが、その裏で日野自動車は燃費測定における不正行為を続けていたのです。
ちなみに、尿素SCRシステムを採用したトヨタ・コースターの発売は2019年8月です。時系列からして他社における燃費偽装問題を知りつつ、不正行為を続けていたと考えるのが妥当です。単なる一部署での不正行為にとどまらず、ガバナンスの問題もあるように感じます。
●VWのディーゼルゲートは電動化を加速させたが…
ディーゼルエンジンにおける不正といえば、フォルクスワーゲン・グループによるディーゼルゲートがありました。北米における禁じ手(ディフィートデバイス)を使い、排ガス計測時のみNOx(窒素酸化物)を減らして、”クリーンディーゼル”に仕立てあげたという問題が北米で発覚したのは2015年9月のことでした。
この段階で日野自動車が不正に手を染めていたのかどうかわかりませんが、他山の石とできなかったことは本当に残念といえます。
そして、フォルクスワーゲン・グループのディーゼルゲートを受けて、欧州は電動化に一気に舵を切ることになり、現在の電動化ムーブメントにつながっています。
しかし乗用車はBEV(バッテリー電気自動車)で航続距離や利便性を確保できても、稼働時間や走行距離の長い商用車をBEVに置き換えるというのには難しい部分があります。
じつは、2021年に熊本赤十字病院とトヨタは、世界初の燃料電池医療車の利活用実証を開始していますが、バス・トラックにおいてはFCV(燃料電池車)のほうがニーズを満たすことができるかもしれません。また、水素インフラが整備される水素社会を前提とすれば水素エンジンというのも選択肢になり得ます。
日野自動車のディーゼルゲートは、日本において水素インフラ整備を加速させることになるかもしれません。
●日野のディーゼルゲートを整理してみる
なお、国土交通省が発表している、日野自動車の中型・大型ディーゼルエンジンにおける不正と処分の内容を整理すると以下のようになります。「型式指定の取消し」というのは非常に厳しい処分で事実上の販売停止処分ということになります。小型エンジンについての処分は今後発表されることでしょう。
【中型エンジンA05C】
事実:排出ガス性能に係る長距離耐久試験の途中で部品(触媒)を交換し、排出ガス性能が基準を満たしているという技術的根拠が無いにも関わらず、満たしているとの評価を得て、不正に型式指定を取得した。
処分:中型エンジンA05Cの一酸化炭素等発散防止装置の装置型式の指定の取消し
【日野レンジャー】
事実:不正に型式指定を取得した一酸化炭素等発散防止装置を搭載し、不正に型式を取得した。
処分:中型エンジンA05Cを搭載した共通構造部型式の指定および燃費評価の取消し
【日野セレガ、日野プロフィア】
事実:燃費測定試験において、不適切な方法(燃料流量計の不正操作)でデータ取得を行っており、燃費性能が基準を満たしているという技術的根拠が無いにも関わらず、満たしているとの評価を得て、不正に型式指定を取得した。
処分:大型エンジンA09CおよびE13Cを搭載した共通構造部型式の指定および燃費評価の取消し
【関連リンク】
VW・アウディ・ポルシェのディーゼル問題がアメリカで拡大
https://clicccar.com/2015/11/26/340918/