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■XT4の日常使用性を探りに探る!
乗り始め、1875mmの車幅と左ハンドルに困惑したと、ここまで何度か書いてきましたが、走っているうちに何とか慣れてきました。
ただし、本人が慣れても日常的に走らせるシーンの環境は変わらないわけで、「お。ヤマグチさん、XT4に乗っているのか。じゃあ道幅を広げるか」と道路行政が考えるはずもありません。
車庫入れも含めた日常シーンでの使いやすさの他、XT4に与えられているユーティリティ性について見ていきましょう。
お国柄の違いはどこかにあるのかなあ?
●車庫入れ、まずはアタマから入れてみた
車両サイズ、全長×全幅×全高:4605×1875×1625mm。
カタログでは「コンパクトSUV」と謳っているキャデラックXT4ですが、どうやらそのゆえんは日本でいうところの5ナンバーサイズの全長4700mmを切る4605mmにあるようです。4605mmとて日本では5ナンバー枠上限寄りで、コンパクトとはいえないのですが、アメリカ的に見ればコンパクトでしょう。ましてや兄貴分XT5、XT6の車両サイズはそれぞれ、全長×全幅×全高:4825×1915×1700mm、5060×1960×1775mm …ことにキャデラック・エスカレード(これも一度乗ってみたいものだ)に至っては5400×2065×1930mmもあるのです。これら3車に比べればXT4などチビとさえいいたくなるコンパクトぶり…「コンパクト」と謳いたくなるのもよく理解できるというものです。つまりお国柄の違いなのです。
さて、本記事のために走り込み、慣れた頃にふたたび「ゲ。」となったのは、実家での車庫入れのときでした。
うちの車庫はタテ長で、4台分スペースの前後に入り口があるのですが、最初後ろ側の入り口に頭から突っ込もうとしたら、どう見てもドアミラー間の幅のせいで入れず、後で入り口幅を測ったら2100mmでした。XT4のドアミラー間は2135mmですから、そのままでは入るはずがなく、ドアミラーをたたんでやっと入れることができたのでした。
たたんだところで幅縮小分はいくらでもなく、初心者じゃあるまいし、15cm動かしては外に出て確認を繰り返すという車庫入れだったことを述べておきます。XT4に関心があり、車庫スペースが5ナンバーサイズ基準の車庫をお持ちの方は、必ず車庫サイズとの関係を考えることを忘れないでください。
次はタテ長車庫の前側の出入り口からバックで入れます。
バックモニターは補助的なものだと思っているので自力でと思ったのですが、初めからあきらめ、モニター、ドアミラー、目視の3つを駆使して行いました。
右ハンドル車と対称的な左ハンドル車ですから、上半身をねじって振り向くときは右を向かねばならないのでしょうが、何度も書いたようにウエストラインが高い、リヤピラーが太いことで見えない部分が多く、モニター、ドアミラー、降りて確認を繰り返しての車庫入れが必要でした(われながらかっこ悪い…)。
記事のための車庫入れはリハーサルを行わず、1発本番で臨むことを常としているのですが、まだ感覚が取り切れず、左バックスタート位置を履き違えたために1発入れは叶わず。1回だけ切り返しをすることになってしまいました(われながらかかっこ悪い。)。このスタート位置を間違えなければ1発で仕留めることができると思います。これは小さいクルマも大きいクルマも同じなのですが、車庫入れは道幅をいっぱいに使うのがコツです。
大きな車体ですが、自分のものになって時間が経てば慣れていくでしょう。
バックモニターの写真は車庫入れ途中の見え方を示したものですので参考にしてみてください。
また、ルームミラーはカメラからの像を映す液晶モニターにもなっているのですが、写真の状態は後ろの車両と450mmの間隔を残して止めたときの見え方です。実ミラー像とカメラ映像とではこれだけ見え方が変わってくるので注意が必要です。
●荷室容量大検証・床が高めだからこそ使いやすい!
前項で、後ろとの車両の距離は450mmと書きました。これはずいぶんと短く見えますが、バックドアはきちんと開けられます。それはリヤバンパー後端に対してバックドアガラスが寝ていてヒンジが車両前方に位置しているからです。
そのバックドアを開けたときの様子と寸法を示した写真をお見せします。前回のフィット試乗に続いて、ティッシュペーパーの箱を並べた写真も撮ってあります。
これを読んでいるみなさんの近くにティッシュペーパーの箱が転がっていたら手に取って床に個数分あてがい、部屋にいながらにしてXT4の荷室サイズを疑似的に体感してみてください。
なぜか国産車は、外からの視線を遮る荷室のシェルフトレイが消えていますが、XT4には健在です。やはりないよりはあったほうがいい。
荷室内壁はまんべんなくカーペットで敷き詰められたハイグレードな造りになっていて、こういった処理も国産車からなくなってしまいました。内壁もできるだけ凹凸を少なくし、デッドスペースはなるべくつぶして荷室スペースに充てようと努力した形跡が見られるのと、全体がスッキリした形になっているのもいいところです。
開口部下端および荷室床面は高めの部類です。荷室高さを大きく稼ぐ、そして出し入れをしやすくするために低くしているいまのクルマと逆行しています。しかし筆者はXT4の荷室床が高めなことを否定はしません。いや、むしろ「本当はこっちのほうがいいんだけどなあ」と考える肯定派です。
確かに地面にあるものをいったん高い位置まで「よっこらしょ」と持ち上げるには力を入れる必要がありますが、よ~く考えてみてください、XT4のように荷室床が高ければ置くときに楽だと思うのです。到着した先で積んだ荷を出すときも同様。初めから高い位置にあれば「よっこらしょ」もなく取り出せる…そもそもぎっくり腰になるのは、重いものを地面や床など、低い位置から持ち上げるときでしょ? 棚やテーブルの上などにある重量物を持ち上げるほうが楽で、ぎっくり腰にはならないでしょ? それと同じ理屈です。同じ荷室高さなら床が高いほうが最大容量は小さくなる方向に向かいますが、大きなボディサイズがものをいって、すでに大きなXT4のトランクルーム、どのみちタテ方向いっぱいになるほどのものを積むチャンスは少ないはずで、ならば高い床の利点を理解しながら使うほうが日常のメリットは大きいでしょう。
●パワーリアゲートがおもしろい!
冒頭で述べたお国柄の違いといっていいのかわからないのですが、少なくともこれは国産車にはないなと思ったのが、バックドアを電動モーターで開閉させるパワーリアゲートです。
ひと目見て「これいいな」と気に入りました。電動開閉する…別にめずらしくはありません。バックドアに開閉スイッチがついている…これもモーター開閉式なら見慣れたものです。ならばどこがいいと思ったのか。それは開閉のさせ方とそのスイッチで、理由は3つあります。
まずスイッチの設置場所が、運転席ドアのドアポケット部という、押しやすくも押しにくくもない、絶妙な場所にあること。こちら向きではなく、スイッチ自体、車両前方を向いています。どっちみちシフトがPでなければ開かないようにはなっていますが、このようなスイッチは停車中に使うものですから、運転中、ヘタに目に入りやすかったり、手が触れやすい場所にないほうがいいのです。国産車の電気式オープナーは、計器盤に他のスイッチと横並びにするか、ドアアームレストの表面に設置されるのが通例です。
2つめは、スイッチそのものが操作がしやすいこと。国産車の電気式オープナーは誤操作防止で? 引くものが多いのですが、XT4は丸くて大きめなスイッチを軽いひと押しで作動するのがいいと思ったところです。そのタッチも心地いい。
3つめは、これこそ国産車で見かけないものなのですが、このスイッチは周囲がダイヤルになっていて、全開・全閉・OFF(作動しない)はもちろんのこと、3/4高さの開き位置を選べること。それだけではなく、全開と3/4の間の高さをユーザー任意でセットできる点も親切です。取扱説明書には「…車庫の扉やルーフに積んだ荷物などとリアゲートが衝突することを防ぎたいときに使用…」とありますが、背の低い人がリアゲートのスイッチに手が届く高さにしたいときにも有効なロジックでしょう。
実車で見ても写真で見てもサイドからの全開と3/4開とを比べてみるといくらも変わらないように思えるのですが、身長176cmの筆者が実際にバックドア下にもぐると違いは大きく、XT4を手に入れた人は、身長次第でぜひ活用すべき機能だと思います。
この、ユーザー任意でゲート高さを決められるクルマを筆者が初めて知ったのは、先代か先々代のSUBARUフォレスターで、「さすがワゴンを地道に造ってきたSUBARU、一日の長があるな」と感心しましたが、現在はほとんどの国産メーカーが採り入れています。しかしどれもこれも、いったんセットしたらその後は再セットしないかぎり任意高さで開け続けるしかないものばかりです。その点もXT4は優れていて、ダイヤルを全開か3/4(または任意設定高さ)に合わせてからボタン押しをすればいいわけですから、そのときの都合や気分で開け方を選ぶことができるわけです。
そうそう、3/4スイッチに感嘆して忘れるところだった!
XT4のパワーリアゲートには、ハンドフリーで開閉できる機能も与えられています。最近、国産車にも増えている機能で、キーリモコンを携帯したオーナーが両手いっぱいに荷を抱えて近づいたとき、バンパー下に足をかざせばバックドアを開閉してくれる装置です。
XT4のキックエリアはリヤバンパー左下。親切なのは、キーリモコンを携帯したオーナーが近づいたとき、「足をかざすのはここですよ」とクルマが知らせるための照明が地面を照らしてくれることです。夜でもわかるようにという配慮でしょうが、その光は筆者が昼間に気づいたほど明るいものでした。うっかり見落とすと宝の持ち腐れになりますので、XT4を手に入れた方は有効活用したい機能です。照明が灯るのは国産車にはあるのかな。
●点数は少なくてもひとつひとつが大きい室内収納
室内収納部の数は多くはありませんが、大きなボディによる大きな室内スペースであることを活かし、ひとつひとつを大きくしている印象です。特にセンターコンソールは幅広であることもあり、シフト前方のスライドのふた付きもの入れ、アームレストリヤコンソールなどは幅広で深く、手まわり品を入れるにはうってつけのサイズを持ち合わせています。コンソールはワイヤレス充電器が内蔵されていました。
これまた国産車では見かけない「これいいな」がもうひとつありました。同じくドアポケット部で、それは左右に設置されています。折りたたみ傘入れ。直径6cm以下のものに限られますが、傘の置き場に無頓着なクルマが多い中、折りたたみ傘に限られるとはいえ、傘置き場を備えるクルマはあまりありません。筆者などはいつでもクルマのトランクか後席床に放り投げている有様です。傘の収容部をクルマの設計段階からきちんと考えられた前例には、古くはR30スカイライン、N13パルサー兄弟があります。最近では現行ワゴンRくらいのものでしょう。ロールスロイスの場合は別格ですが。
●モード選択の自由度、自然換気能力が高いXT4のエアコンディショニング
エアコンは左右独立で温度コントロールができるもので、取扱説明書上では「デュアルオートマチックエアコンディショナーシステム」と呼んでいます。
コントロールパネルの姿は写真のとおりで、小さめボタンがずらりと並び、少々煩雑に思いましたが、じき慣れました。
空調はこうでなくちゃ! と思ったのが、空調の吹出口選択が、乗員のための「上半身送風(VENT)」「上半身+足元(BI-LEVEL)」「足元(FOOT」と、「くもり止め(DEF)」がまったく無関係に作動させられることです。
写真を見てみてください。乗員のための風をどこに送ろうと、左のくもり止めスイッチはランプが点きっぱなしでしょ? そしてガラスくもりがひどく、とにかくくもり消しを最優先させたい場合は、専用の「デフロスト最大」ボタンを押せばいいというロジックになっています。これも国産車にはほとんど前例がなく、これまで筆者が触れた輸入車の中では先代のBMWミニにこのロジックがあったくらい。たぶん現行ミニも、他の輸入車にもあると思います。
なお、前回のホンダフィット試乗と同様、XT4でも走行風圧(ラム圧)による外気導入量を調べておきました。XT4のファン風量は全部で7段階。空調パネルを「上半身送風」「外気導入」「ファンOFF」にし、100km/h時に入ってくる自然導入風量を見たところ、ファン風量全7段階のうちの1.5に相当する風が入ってきました。試乗車に乗るたび、筆者はいつもこの方法で外気導入量を見ているのですが、XT4は大きい方です。運転席ドアのガラスを10mmほど下げたら2相当に増量しましたが、おもしろいことに助手席側を10mm下げても同じ2相当のままでした。クルマの換気とは中と外の空気を入れ替えることです。外から空気が入ってこないと中から出ていきません。これはファンをまわしても同じことで、ファン停止状態の走行風が入りやすいかどうかは、そのままファンによる換気性能がいいかどうかの目安にもなります。コロナ禍の中、気になる方も多いのでは?
今回までは4回続けて、XT4そのものについて調べたことを述べてきました。
次回は左ハンドル車に乗った感想を述べていきます。
(文/写真:山口尚志)
【試乗車主要諸元】
■キャデラック XT4 プラチナム(左ハンドル・7BA-E2UL型・2021(令和3)年型・9AT・ステラーブラックメタリック)
●全長×全幅×全高:4605×1875×1625mm ●ホイールベース:2775mm ●トレッド 前/後:1600/1600mm ●最低地上高:-mm ●車両重量:1780kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:-m ●タイヤサイズ:245/45R20 ●エンジン:LSY型(水冷直列4気筒) ●総排気量:1997cc ●圧縮比:- ●最高出力:230ps/5000rpm ●最大トルク:35.6kgm/1500-4000rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射(筒内直接噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛プレミアム) ●WLTC燃料消費率(総合モード/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):-/-/-/-km/L ●JC08燃料消費率:-km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソン式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/ディスク ●車両本体価格:670万円(消費税込み)