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■プロローグ/2000年代、ホンダ・フィット誕生
1960年代、70年代、80年代…ホンダ4輪の歴史を「昭和」「平成」「令和」という元号でではなく、西暦で10年区切りしながら眺めたとき、自動車史を飾る作品が各年代に必ずひとつずつ生み出されていることがわかります。それも大ヒットではなく、グラウンドいっぱいに「カキーン!」と痛快な音を鳴り響かせての大ホームランです。
直近では初代「N-BOX(2011(平成23)年)」が2010年代のホームラン作。その頃の軽市場で、スズキ・ダイハツの軽トップ2の前で劣勢に立たされていたホンダは、主力軽・ライフとは別に、新たに「Nシリーズ」路線を敷設。その第1弾として投入されたのが初代N-BOXです。
「N360(1967(昭和42)年)で軽市場を大暴れしたおれたちの底力を見よ!」といわんばかりのホンダの意地で、ダイハツタント、スズキパレット(いまのスペーシア)の2強が占領していたハイト軽市場の勢力分布をあっという間に塗り替えてしまいました。
本記事を書いているのは2021年暮れですが、2020~2029年を代表するホンダヒット作はもっかのところ現れていません。残りあと8年もありますから、その間に何かひとつかっ飛ばしてくれると思っています。
と書けば、筆者のいわんとすることがおわかりになるでしょう。1967年のNッコロを皮切りに、初代「シビック(1972(昭和47)年7月)」、初代「シティ(1981(昭和56)年10月)」、初代「オデッセイ(1994(平成6)年10月)」…これらに続くホンダのエポックメーキング作の2000年代版が、2001(平成13)年6月の初代「フィット」でした。タント、パレットの後追いだったN-BOXはともかく、初代フィットに至るまでのホームラン組に共通しているのは、それまでの常識や既成概念を覆す何かしらを引っさげて新しい需要を喚起し、市場を席巻したことです。
新しいエントリーカー像を見せつけた初代フィットから早くも約20年。そのフィットの現行4代目が発表・発売されたのは、2020年2月13日のことでしたが、登場から1年4ヶ月を経た今年2021年6月に一部改良を受けました。
その内容は、自動地図更新機能や車内Wi-Fiを備えた「Honda CONNECT+ETC2.0車載器」のメーカーオプション追加、ボディ色の入れ替えなどにとどまり、機械部分で目に見える変更はありませんが、その最新フィットに乗る機会をこの12月に得ましたので、その商品性をいまいちど探ってみようと、公道を舞台に走り回ってきました。
その感想をテーマ別に分け、5回に渡ってお届けしようという目論見。1回目は車両概要と車内外紹介、そして走りについてレポートします。
●基本バリーションは5つ。そしてModulo Xに特別仕様車2種…総勢29機種!
現行新型登場から1年10ヶ月経つのに、あらためてバリエーションを安い方から見てみると――
下から順に「BASIC」「HOME」「NESS」「CROSSTAR」「LUXE」…基本構成は5機種ですが、6月3日の改良と同時に、ホンダアクセスのカスタマイズモデル「Modulo X」と、フィット誕生20年を記念した「HOME」ベースの特別仕様車「Casa(カーサ)」「Maison(メゾン)」が追加されています。
標準5機種とCasa、Maisonはそれぞれにガソリンモデル、ハイブリッドのe:HEVがあり、いずれもFFと4WDが選択可能、Modulo Xはe:HEVのFFのみ。2種の特別仕様車に台数や販売期間の制限は設けられていないようなので、近々フィットを購入検討しているひとは、都合29種類の中からひとつを選ぶことになります。
いちばん下の最廉価モデルが「BASIC(ベーシック)」。ベースモデルは概してビジネスユース向けの簡素型であることが通例で、外観も情けない姿となり、装備も乏しいものですが、そんなのは昔の話。BASICの外観はその他のモデルと遜色なく、便利装備がいくつか省かれはするものの、一般ユースにも充分耐えられる商品力を持っています。最廉価ならオプション設定すらされなさそうな新しいHonda CONNECTをも選べるようにしているのもえらい!
おそらくホンダが「This is Fit!」と位置づけているモデルは「HOME(ホーム)」でしょう。「もうちょい上のクルマにしときゃあよかった!」と後悔はしないはずのモデルで、通勤・通学・買いもの・送迎・冠婚葬祭・物見遊山…乗りつけるどのシーンにも、それこそフィットするに違いないHOMEです。実際、新型フィットの中でいちばん売れているのがこのHOMEなのだと。
その上に位置しているのが「NESS(ネス)」。よくわからないのがHOMEと次項「CROSSTAR」に対する関係性で、次々項で述べる「LUXE」と同じLEDフォグランプとダブルホーンの他、シリーズ唯一のプラズマクラスター付オートエアコン、HOMEにある本革ハンドル、シフトレバーとの引き換えで16インチアルミホイールが備わる以外、全体的装備構成と内装デザインはCROSSTARに準じるクルマです。車両価格もCROSSTAR寄り。装備にHOMEとの価格差11万円の価値が見いだせるか、6万円安いCROSSTARと見るか…何となくどっちつかずの印象があり、実際、販売店からもそのような声が届いているようですが、いずれNESSはHOMEかCROSSTARに統合されるような気がします。ただし、フロントピラーからルーフサイドをはさみ、リヤピラーに至るパネル部分と、ドア下モールをオレンジで塗り分けた「アクセントツートーン」が選べるのはNESSだけなので、この彩りに惹かれる方はNESS一択となります。
「クロススター」ではなく、「クロスター」と読ませる「CROSSTAR」は、床下地上高をFFで25mm、4WDで5mmかさ上げしながら内外装をSUV仕立てにしたモデル。そうはいっても走りのメカは他とまったく同じですが、185/60R16サイズのタイヤを履くのはこのクルマだけです。
「LUXE(リュクス)」は名のとおりLUXURY(ラグジュアリー)なクルマで、年配者に選ばれているといいます。かつてのクラウン「ロイヤルサルーン」、マークII「グランデ」に相当する、昭和~平成時代のおやじなら「いちばんいいやつ持ってこい」の一喝で指定するシリーズ最上級モデル。とはいえ、昭和・平成のロイヤルサルーンやグランデよろしく、演歌orムード歌謡調の雰囲気があるはずはなく、LUXE専用装備として「ステアリングヒーター」「本革シート」「アームレスト付センターコンソールボックス+ワイヤレス充電器」などが与えられています。さらにはLUXEブラウン内装車になると、シリーズ唯一シートベルトまでカラーコーディネイトされ、ブラウンカラーになるという手の入れ様…同じ「いちばんいいやつ」でも令和時代のフィットともなるとスマートで先進的になるものです。今回試乗に拝借したのもこの「LUXE」のe:HEV車でした。
●適正なサイズ感が光る、5ナンバーサイズボディ
さて、外観を見てみると、かろうじて4m未満を守った全長に最大限のキャビンを構築したボディ、三角形の吊り目ライトなど、フィットとしての常套を守ってはいるものの、細部を見ると過去3代とは大きく様変わりしています。全幅1695mmはそのままに、全長×全幅×全高:3995×1695×1540mmのサイズは、旧型初期と比べて全長が40mm、全高が15mmプラスされていますが、実車はそれ以上に大きくなったように見えます。そして筆者は、変わっていない幅にこそ新型の大きさを抱かさせられたのでした。
それは少し前までの国産車にうんざりさせられていた、ボディサイドのこれでもかというほど煩雑だったプレスラインがなくなり、ゆったりとした膨らみが幅を感じさせるからでしょう。いわゆる3ナンバー車(普通車規格)ほどのデザインしろはないはずなのに、ボディサイドの造形にボリューム感があり、それでいて室内はこれ以上の幅、長さを求める気にならないほどの豊かな容量がある…いまに至るも5ナンバーサイズ(小型車規格)信仰派である筆者の目には、まるでフィット自身、「広い道ばかりではない日本に3ナンバー車なんか要ります?」とでもいいたげにしているように見えてなりません。
ただし、外側の長さにしろ幅にしろ、フィットとしてはこのサイズが限界でしょう。
実家の家族が2003~2018年の間、初代フィットを使っていたのですが、かつて初代が収まっていた車庫に新型を置いてみるとますます大きく映り、広くはない土地のくせに、ヘンな形をしているせいでなぜか4台のクルマを入れることができてしまううちのヘンな車庫も、新型フィットでいよいよ音を上げそうな気配。
まずは車庫に入ることありきで過去のフィットを選んできた人々にとって、クルマのサイズ肥大化は気がかりなはずで、フィットには次期型以降も5ナンバーサイズを堅持するガンコさを見せてほしいところです。というのも、クルマは5~6年毎にモデルチェンジしてサイズが大きくなっても、自宅の車庫や道路、街の駐車場の幅は5~6年毎にモデルチェンジして幅が広くはならないからです。
グローバル化とやらで日本車の海外販売比率が高まり、日本的サイズの小型車はないがしろにされて久しいですが、5ナンバーサイズから3ナンバーサイズに踏み込んだクルマを見るにつけ、「日本だってグローバルのうちのひとつじゃないの?」と文句のひとつもいいたくなります。
●運転視界は特筆もの・サイドの三角窓から前も見えちゃう、ワイド視界の秘密…?
それはさておき、全体のスタイルは歴代フィットの常套を守っていると書きましたが、細部は変わっています。まずサイドガラスのシルエット。不思議なことに、この横向きガラスの輪郭が変わったことによって、フロント視界が格段に広くなりました。その手品のタネはふたつ。
車両をサイドから見たとき、フロントガラス下端は前輪を覆わんばかりまで前進。それは過去3代も同じですが、これまでのボディ側三角窓は、従来ドア割線の出発点だったフロントサイドガラス先端がフロントガラスの前進に釣られて引っ張られても、ドア割線位置はあくまでもホイールアーチ手前でなければならない都合上、やむなくサイドガラスを分断せざるを得なかったことの成り行きで生じたものに過ぎませんでした。
新型も同じく分断してはいるのですが、今回はサイドガラスを思い切って割線上端からピラー上端に向けて区切ることで三角窓を拡大しました。これがひとつめのタネ。
ふたつめのタネはピラーの見せ方。外見上は従来同様、ボディ色のフロントピラーがメインで、三角窓とフロントドアサッシュ間裏に潜むピラーがサブなのに、中に入り込むとフロントピラーが細く、サブピラーこそが太い…外と中とでピラーの立場を逆転させています。
したがって中から見ると、フロントピラーの存在感が、希薄といえばほめ過ぎですが、ここだけトリム色を黒にしたこともあり、外観から受ける印象よりはずっと細く見えます。
これまでの三角窓はおまけ程度のサイズだった上に、セラミック塗装のせいで有効視野がなおのこと外から見たときほどではありませんでしたが、新型はこれらふたつの相乗効果で、感覚的には、横向き三角窓からの視界がイヤでもフロント視界に入り込み、運転視界を豊かにしています。インストルメントパネル(以下、インパネ)上面がほとんどまっ平らなので、いうなれば洋風住宅の出窓感覚。ちょっと他のクルマでは味わえないものでしょう。
さきに手前側サブピラーが太いと書きましたが、こちらはこちらで巧みな形状にすることで細く見せることに努めています。
サブピラーのうち、こちら側目に入る面の幅ないし面積を細く、残る広い面(これがかなり幅広!)をフロントガラス側に向けることで、太いサブピラーの見かけ上の幅を細くする工夫をしています。これは運転席から見た右サブピラーの話で、実際はどうなのかと対称する左サブピラーに目をやると本当はこんなにぶっとい!
誰も語りませんが、このへん、ボディ設計者の苦労が見え隠れするようです。この手法を初めて見たのは先代レヴォーグでしたが、ホンダだって負けてはいない! 自慢してもよさそうな、このサブピラー構造についてホンダはなぜかPRしていませんが、同じ手をセンターピラーやリヤピラーにも転用し、対衝突要件で太くなった柱による視界悪化に歯止めをかけてほしいものです。
そうそう、全体の運転視界が何となくスッキリ感じたのは、出窓感覚であることの他、フロントガラスの左右ラウンドがかなり少なめでワイパー付近が直線に近いこととも無関係ではないでしょう。住宅のガラスはラウンドしていないもんね! 運転席から見てワイパーがほとんどフル・コンシールド(「完全に隠された」の意)に近いのも○でした。
その割に外から見て丸出しなままですが、これがフード下に隠せれば文句なし!(対歩行者衝突時のためと外観のスッキリ感向上のため。)
●2代目トゥデイの21世紀版と解釈すべきインストルメントパネル
運転席シートに身を沈め、前を眺めると、インパネ上面のかなりの奥行きに目が行きます。
さきに書いたように、インパネ上面がほぼ平ら、その上面を囲む左右の三角窓、フロントガラスの下辺がほぼ直線なため、ハンドル向こうのインパネ上面はほとんど長方形で、何だか机に向かっているような気分になってきます。
できれば、長方形のガラス側3辺はそのままに、メーター上部、後に述べるインパネ手前のパッドがハミ出てもいいから、平面部を1段下げられれば、「フィット」のイメージに叶う軽快感・開放感が生まれることでしょう。好みではありますが、現状はかなり目につく上面がやや圧迫感を抱かせることにつながっています。
やわらかそうなパッドが、両端のカップホルダーを残しながら左右に広がっています。実際にソフトなのはアッパー側グローブボックスのふた部分だけで、ほかはやわらかそうな形をしているだけのプラスチックイマジネーション。布張りにしてくれたほうが安らぐと思うのですが、カタログを見たらNESSとCROSSTARは撥水ファブリック貼りだと。最上級LUXEにも布を貼ればいいのに。
それにしてもこのあたりの造形、インテリアデザイナーは2代目トゥデイのインパネをオマージュしたのかも知れません。
メーター、ナビ、空調パネル、12Vのアクセサリー電源&USBジャック2つ、その下には前から後ろにかけて、スマートホントレイ(LUXEはここにワイヤレス充電器がつく)、シフトレバー、パーキングブレーキ…視認類・操作類の並びはごくごくオーソドックスですが、ひとつひとつが3代目からひとっ飛びに近代化。まずメーターはほぼ全面液晶のものに変わりました。現代的な高精細液晶なのに、角が丸いせいで何となく昔のブラウン管時代のテレビを思わせるところがおもしろい。液晶右には10ドットのLEDで示す燃料計が、左には同じく10ドット表示の高電圧バッテリー残量計を配置されますが、ガソリン車ではバッテリー計が水温計に変わります。
ナビは近年の画面サイズ拡大の波に乗って従来の7インチから9インチに拡がり、パーキングブレーキもいよいよ電動化されました。
ハンドルは、いまどきめずらしい2本スポークタイプで、昔の「へ」の字のような情けなさは皆無。「エアバッグもずいぶん小型化したものよ」という感慨を抱かせるホーンパッド(余談ながら、NESS、LUXE、Modulo Xはダブルホーン!)を中央に、右にはアダプティブクルーズコントロール(ACC)の、左にはメーター表示操作のスイッチが収められたスポークが伸びています。
スイッチは適度な凹凸が与えられ、見ずに操作できるばかりか、特に「RES/+」「SET/ー」なんぞ、慣れれば親指の腹だけでではなく、第1関節ででも押せる形になっていました。
ちょいと目新しいのが左スイッチの、押し操作も備わる上下回転のダイヤルスイッチで、いわく「レフトセレクターホイール」。いまのところメーター表示やオーディオソースの切り替え用に充てられているだけですが、ダイヤルそのものを左右にも移動できるようにし、ナビ操作にも使えればグンと存在意義が上がるでしょう。このあたり、見映えを優先するあまり、凹凸をなくして面一(つらいち)にしてしまい、手探りでの操作がほとんどできないというクルマもありますが、その中にあって今後の進化がちょっと期待できそうなレフトセレクターホイールでした。
●意外に広い、EV走行ゾーン
あらためてタイヤ圧を規定値に調整し、走り出してまず気づいたのは、意外と電気だけで走る速度域が広いことでした。街乗りではほとんどEVモードだけでがんばってしまう。筆者は先代ノートの初期e-POWER車に乗ったとき、乗るまでは「シリーズハイブリッドとて、しょせんはハイブリッド。どうせ充電のためにすぐエンジンがかかるんでしょ?」とナメていたのですが、走ればけっこうモーターだけでがんばったもので、「ハイブリッドとはいえ、走行中はほとんどエンジンが始動せず、なるほど、電気自動車に近い!」と脱帽させられたものです。
フィットe:HEVで筆者が抱いた印象は初期e-POWERに乗ったときのものに似ていて、「e:HEVも電気だけでけっこうがんばるじゃないの!」というものでした。EV走行時にはメーター内に緑色の「EV」マークが点灯。e:HEVのフィット君がEVだけでどこまでがんばるのか、高速道路で観察してみたのですが、アクセルの踏み放しに多少の緻密さは要求されるものの、少なくとも94km/h走行時に「EV」が点灯していることは確認できました(メーターを凝視していたわけでもないので、それ以上の可能性もあり)。
フィットのe:HEVはe-POWERと同様、走行用と発電用、2つのモーターを持つシリーズハイブリッドで、バッテリー電力だけで走るEV走行モード、発電用、駆動用、2つのモーターを稼働させて走るモーターフル動員走行モードの2つを備えるのは両者共通しています。異なるのは、e-POWERはエンジンが発電役に徹し、タイヤ駆動はあくまでもモーターだけが受け持っているのに対し、e:HEVは、高速域でエンジンだけで走るほうが高効率な場合にはエンジンとタイヤをクラッチで直結し、純粋なエンジン走行にも転じるという融通性を持っている点です。とはいえ、遮音がうまくなったのか、フィットもずいぶん静かなクルマになったもので、エンジンがまわっているのか停まっているのかわからないことも多く(それだけにロードノイズがいちばん耳についた)、現在のエネルギーフローを認識するにはほとんどメーターを見るしか手がなかったことを申し添えておきます。
●フィットらしからぬタイヤサイズと重厚な乗り味
タイヤは、フィットにはちょいと過ぎるのではないかと思われる185/55R16サイズで、ホイールを見て最初「こっちがModulo Xか」と勘違いしたようなデザインのLUXE専用アルミホイール付き。55%プロフィールに起因すると思われるコツコツ感はありますが、姿形に似合わない重厚な乗り味を示しました。このクラス、少し前まで、過熱気味な低燃費競争を意識するあまり、高めのタイヤ圧がそのままぴょこたんぴょこたん跳ねる乗り心地に直結するクルマが多かったのですが、最近は高めのタイヤ圧に影響されない乗り心地を見せるバネ、ショックアブソーバーのセッティングを見出すことができたのでしょうか、このフィットもタイヤ圧は相変わらず高めの部類(前輪2.4kg/cm2、後輪2.3kg/cm2)ながら、そしてリヤサスペンションは簡便な車軸式(FF車・4WDはド・ディオン式)ながら、かなり重厚な感触が得られたものです。構造が簡単な車軸式であろうと、複雑なマルチリンクであろうと、サスペンションは、要は設計とチューニング次第だということがわかります。
ハンドルはクイックでもボンヤリ型でもなく。ただし、その割にUターンや車庫入れ操作時など、フルロックまでがやけに早いと感じ、あらためて中立から右にロックするまでを確認したら、1回転と60度ほどでした。
肝心な端から端までのロックtoロックを見るのを忘れましたが、後でカタログを見たら、ステアリングのギヤレシオは舵角のハンドル操作量の大小でタイヤ切れ角が変わる可変式だと(VGR。NESS、CROSSTAR、LUXEのFFのみ。HOMEのFF車にメーカーオプション。)。昔のフィルムのコマーシャルで、「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに」というのがありましたが、フィットは「大きくまわしたときはよりクイックに、ほどほどのときはそれなりに」というハンドリング…中立付近とそこから先とでギヤの刻みを変え、初期操作とフル操作とでタイヤ舵角量にを変化を与えるのは、いっけん扱いにくそうに思うのですが、車線変更であれ右左折であれ、昨日まで乗っていたクルマと同じ様に扱えるくらいなじむもので、違和感を抱くひとはいないでしょう。
右にフルロックしたときのタイヤ角は写真のとおりですが、フルロックまでの回転数が少ない分、タイヤが他車並みに傾いているのに「小まわりが効かない」と錯覚するひとも出てくるかも知れません。
電動パワーステアリングは濡れた小指でまわせるほど軽い、軽い、軽い! 初めから終わりまできれいにまわります。しかしそれはその反面、反力が得られないということでもあり、中にはもう少し重めのハンドル操舵力を好む人もいるでしょう。
ホンダは3ナンバーから5ナンバーに戻したときのアコード6代目(とトルネオ)で、操舵力を3段階に切り替えられる電動パワステをVGRと組み合わせて世界初起用したのですからそれを思い出し、フィットクラスに転用すれば喜ばれるように思います。制御を変えるだけだろうから、スイッチ追加分以上のカネはかからない…よね? と願うことにしましょう。
前席シートはフィット代々大きいものが使われており、初代フィットにして確か当時のオデッセイと同じシートフレームを使っていたと記憶していますが、4代目ともなるとかなり立派なものになりました。座面や背もたれはクッションしろが少ないように思うのですが、だからといって固くも柔らかくもなく、内側に湾曲した背もたれが適度に上半身を抱え込みます。
運転席シートのリフト量(上下調整量)は、筆者実測で約75mm。地面からの着座高さは、最低位置が90年代のセダン並みに低い455mm、最高で520mmでした。筆者はこのクルマを拝借している間じゅう、中位か最高位置にして乗っていましたが、「頭上には座り直しをするのにどこにもぶつけない程度の空間があればいい」と思っている身長176cmの筆者には、最高位のときでも不足はありませんでした。
座り直しといえば、他社の他車では省略されることが多い運転席側のアシストグリップ(ホンダ呼称・グラブレール)があるのはホンダ車のよき伝統。走行中はハンドルを握っているドライバーだって、座り直しや乗り降りするのは助手席、後席乗員と同じなんだから、やっぱり運転席にだって必要だぜ!
なんだか視界の話が多くなってしまいましたが、今回はここまで。歴代フィットが誇ってきたリヤシートや荷室、他の使用性の話は忘れていませんが、これらはもっと後まわしにすることにし、次回はHonda SENSING編をお届けします。
【試乗車主要諸元】
■ホンダフィット LUXE FF e:HEV(6AA-GR3型・2021(令和3)年型・電気式自動無段変速機・ミッドナイトブルービーム・メタリック)
・メーカーオプション:Honda CONNECTディスプレー+ETC車載器、プレミアムオーディオ
・ディーラーオプション:ドライブレコーダー、フロアカーペットマット
●全長×全幅×全高:3995×1695×1540mm ●ホイールベース:2530mm ●トレッド 前/後:1485/1475mm ●最低地上高:135mm ●車両重量:1210kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.2m ●タイヤサイズ:185/55R16 83V ●エンジン:LEB(水冷直列4気筒DOHC) ●総排気量:1496cc ●圧縮比:13.5 ●最高出力:98ps/5600-6400rpm ●最大トルク:13.0kgm/4500-5000rpm ●燃料供給装置:ホンダPGM-FI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:40L(無鉛レギュラー) ●モーター:H5(交流同期電動機) ●最高出力:109ps/3500-8000rpm ●最大トルク:25.8kgm/0-3000rpm ●WLTC燃料消費率(総合モード/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):27.2/26.5/29.6/26.0km/L ●JC08燃料消費率:35.0km/L ●サスペンション 前/後:ストラット式/車軸式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:242万6600円(消費税込み・除くメーカー/ディーラーオプション)
(文:山口尚志 写真:山口尚志/本田技研工業)