マツダ・ロードスターが新採用。走りが気持ちよくなる「KPC」ってなんだ?

■ロードスターの基本コンセプト「人馬一体」を高める技術

●ハードウェア変更や追加パーツは不要

MAZDA ROADSTER 2022
KPC=キネマティック・ポスチャー・コントロールはリヤブレーキ制御を利用した新アイデア。コーナリング時の姿勢を改善する。画像は期間限定の特別仕様車「Navy Top」

初代からの累計販売は110万台を超えているというマツダロードスター

価格的にもパフォーマンスの面でもハードルの低いオープンスポーツカーながら、初代から続く走り重視の姿勢は不変です。「人馬一体」というキーワードは、そうしたロードスター不変の価値を示すものとして広く認知されています。

そんなロードスターが2タイプの特別仕様車を設定すると同時に、ロードスター全般の商品改良を実施することを発表しました。

それが『KINEMATIC POSTURE CONTROL(キネマティック・ポスチャー・コントロール)』です(以下、KPC)。

ハードウェア変更や追加パーツは不要、プログラム変更だけで実現できるというKPCとは、どのような技術なのでしょうか。そして得られるユーザーベネフィットとは?

なお、キネマティックとは「運動学」のことで、ポスチャーは「姿勢」。KPCを日本語にすると「運動学に基づいた車体姿勢の制御技術」という風に表現できます。

●コーナリング性能を上げる機能ではない

MAZDA ROADSTER 2022
キネマティック・ポスチャー・コントロールは高速コーナーでの気持ちよさ、人馬一体感の向上に寄与する技術だ

その狙いは、高速コーナーにおける一体感を向上させることにあります。アクセル一定のままコーナリングをするようなシーンでKPCが作動すると、車体の浮き上がりを抑えます。

通常であればコーナリング中はイン側が浮き気味になるのですが、KPCによってボディが地面に吸い付くような旋回姿勢となり、気持ちよく曲がることができるというのがエンジニアの狙いです。

具体的にその制御には、リヤブレーキを利用しています。ロードスターに限った話ではありませんが、サスペンションの設計によりブレーキング時にボディを引き下げる、アンチリフト特性というものがあります。つまり高速旋回中に、イン側のリヤブレーキだけを作動させると車体の浮き上がりを抑えることができるのです。

サスペンションの構造は従来通りですし、リヤブレーキを独立して制御する機能はそもそも横滑り防止装置に必要ですから、ハードウェアにはまったく手を入れることなく、制御だけでKPCを実現することができるわけです。これは、軽量化にもこだわるロードスターにとっては相性のいい技術ということができるでしょう。

リヤブレーキを効かせるといっても最大液圧は0.3MPaと非常に低く、ブレーキパッドを少し当てるくらいのイメージです。ですから、後輪の左右駆動力差を生み出すほどではありませんし、クルマの曲がる力(ヨー)に与える影響もほとんどありません。

コーナリングの絶対性能を高めることが目的ではなく、あくまでも車体の浮き上がりを抑えることで人馬一体感を向上させることがKPCの狙いといえます。

●販売済みモデルのアップデートも検討中

MAZDA ROADSTER 2022
2021年12月16日に発表された商品改良により全車にKPCが採用された。画像は特別仕様車の「990S」

より具体的にいえば、ステアリングの操作量が変わります。KPCを採用することで、接地感が高まるため切り込み量が抑えられ、また切り戻しについても穏やかな操作が可能になるということです。

荒れた路面でのアクセル修正も少なくなるといいますから、ある意味で運転が上手くなったような気にさせてくれる技術といえるかもしれません。そうした接地感の高まりはドライバーだけでなく、助手席のパッセンジャーでも感じることができるのもKPCのメリットということです。

リヤブレーキを利用するということで、パッドの摩耗や温度上昇のネガを気にするかもしれませんが、マツダの発表によればそうした問題はないということ。

サードパーティ製のブレーキパッドに交換したとしてもKPCは問題なく作動するということですし、LSDの有無にかかわらずKPCの機能は享受できるというところまで確認しているというのは、ロードスターというクルマの楽しまれ方を熟知しているといえるでしょう。

なお、前述したようにKPCはハードウェアはそのままにプログラム変更だけで実現できる技術です。そうなると、すでに販売されているロードスターへの適用が気になります。

具体的なことは決まっていないといいますが、プログラムを書き換えるなどの手法により、既販車へのアップデートも検討しているということです。そのあたりの情報も今後はチェックしていきたいポイントとなりそうです。

山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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