目次
■整備士はクルマのお医者さん。だけど対応できるのは確認できたことだけ!

今クルマをお使いの皆さんの中には、多少の手入れや「クルマいじり」をする方もいらっしゃると思いますが、専門知識や工具、テスターなどを要する項目に対しては、クルマを買った販売店や整備工場に持っていき、面倒を見てもらっていることがほとんどでしょう。
その用件は、故障・不具合・点検・車検・そのほかもろもろ…。
●クルマの不具合はさまざま
クルマは常に正常に動いてくれるものではありません。どこかしらが何かしらの予兆を表した後に、何らかの症状を示して故障します。そしてその症状はさまざまです。
・エンジンのかかりが弱々しくなった。
・ブレーキをかけるとキーキー音が鳴るようになった。
・ナビゲーションが表示しなくなった。
・ランプが点かなくなった。
・計器盤のコントロール照明が点かなくなった。
思いついたものを適当に挙げてみましたが、こういった症状はまだ恵まれていると思わなければなりません。
というのも、これらはいったん症状が現れたらほぼ現れっぱなしで、気づいた翌日にディーラーに持っていっても、セールスマンや整備士(メカニック)にも確認してもらえ、対処してもらえるからです。
ところがそうではない症状のときがあります。
・1日あたりの走行が50kmあたりを超えると全メーターの指針が踊るようになる。
・走行中、シートのスライドレールからキシキシ音がすることがある。
・エアコンのA/Cスイッチを入れてもコンプレッサーが働くときと働かないときがある。
・ETC車載器がカードを認識するときとしないときがある。
・段差を越えたり降りたりすると、足まわりから金属同士が擦れ合うキシキシ音がするときがある。
・車内の助手席の向こうあたりから、ゴトゴトゴトゴト…という音がすることもある。
思いついたものを適当に…ではなく、これらはこれまで何台かのクルマを乗ってきた中で、実際に筆者の経験してきたことを挙げてみました。

お気づきになりましたでしょうか。共通して「…ときと…ないときがある」という、実に不明瞭な書き方をしていることに。
問題はココです。症状が起きたら販売店に持っていくわけですが、持っていったときに限って症状が姿を消す…。
皆さん、学校時代、ふだん不真面目な態度をとっているくせに、先生の前でだけいいコぶるクラスメートがいませんでしたか? 学校時代のみならず、同僚や部下に対しては無礼な姿勢でいるのに、上司やお偉いさんの前ではやけに好印象な態度を示すイヤな茶坊主があなたの会社にもいませんか?
これらと似たようなもので、クルマの方も悪知恵を持っているのか(としか思えない)、これらの症状が現れるや、「急げ!」とばかりに筆者が販社のピットに持っていっても、いや、その前に販社の敷地に片方の前輪を乗り上げた途端に症状を消すということに何回も遭ったことがあります。
●メカニック泣かせのものも多い、クルマの不具合症状

いっそメーターが壊れたなら壊れっぱなし、エアコンが働かないなら働かないっぱなし(という言葉があるのかどうか知りませんが)、そしてゴトゴト音が鳴るなら鳴りっぱなしでいてくれたほうがいいのです。「ほら、こんな症状です。見たでしょ。ね、ね」と、堂々とメカニック氏に示すことができるわけですから。
ところが症状が現れないとなると、メカニックもお手上げです。実はここが整備士泣かせの点で、まさか顧客が嘘をついているとは思っていないでしょうが、自分たちが症状を確認できないことには対策の案すら思い浮かべることはできません。
だからといって、「本当に不具合が出ているんだって!」「俺が嘘ついているというのかッ!」と逆上してはいけません。何しろ自分の目で見ていない限り、ヘタに手を打つことはできないのです。
「予防整備」という手もありますが、それとて販社に持っていっては症状が消えをくり返す中、数度の問診を経てのこと。
最初に聞いた言葉だけによる推測でうかつに策を施したところで、それが正しいという保証はありません。それが見当違いで無駄になったならまだしも、それが原因で別の不具合を引き起こす可能性すらあるのです。だんだんと「責任問題」の4文字がチラつき始めます。
このへん、いくらこちらが客とはいえ、メカニックの心情も察してあげるべきでしょう。
●メカニックへのヒントのために、せめてメモを渡してあげよう
症状が出たり出なかったり。メカニックも手が出せず…。そんな状態をいつまでも続けていても仕方ありません。何か策はないか。
故障部位判明にメカニックに近づいてもらう手として、ヒントをあげるという方法があります。


筆者は点検や車検の際、必ず依頼事項を書きます。点検内容についてお互いにわかりきっていることをあえて書く以外に、他に目を通しておいてほしい点などを書き出し、当日渡すのです。
同時に、前回の点検時から保留となっている項目があったら、今日までに症状が出た頻度、症状が現れた日にち、他に場所、走行速度、そのときの気温など、できる限りのことを記しておけば、メカニックにとっては何らかのヒントになるかもしれません。
規定の点検項目にしろ、不具合症状の項目にしろ、文字で残したものをメカニックに見てもらいながら仕事をしてもらうためで、少しでも確実性を期したいという狙いがあります。


筆者は毎度このようなことを行っているのですが、どこの販社(というほどいろいろなところでクルマを買っているわけではなく、筆者がそのようなことを行っている販社はたった2ヵ所ですが)にもそのようなことをする客は他にいないらしく、その販社で初めてクルマを渡すときには思いがけない顔をされるやらありがたがられるやら…。
声は消えても紙は残る。依頼したいことがあれば口頭でとどめず、きちんと書面にして渡すことです。客(=筆者)がいなくなった後もメカニックはその用紙を見ながら仕事ができるわけで、そのほうがやりやすいようです。
●いっそ長期間クルマを預けることも考えよう


筆者がいま使っている旧ジムニーシエラは、2018年3月に納車、まだ寒さが残るその月のうちから、助手席シートベルト付近からゴトゴト音が出るようになりました。寒い時期限定かと思いきや、特にそうではない季節でも鳴るので、点検時に探ってもらいましたが原因は特定できず。
ゴトゴトの源はベルト付近の樹脂トリムの振動に思えれば、助手席ドア内からのようにも聞こえる…。余計な音というのは、そのうちどこからでも聞こえてくるようになるものです。
いつかの点検のときには、販社の代車の都合に合わせてクルマを1週間預け、寒い中クルマをほったらかしにしてもらった朝に見てもらうということをしました。
それでも症状は出ず、いつかは内装パネル内側にクッション材を貼り付けてくれたのですが、一時的に収まったものの再発、結局は未だ解決していません。

また、納車の翌々5月から、クーラーのコンプレッサーがすぐに作動しないという症状が出始めしました。タイミングを見て販社に持ち込んだり、定期点検のたびにメモ書きを提出しても、いかんせん症状が出なかったものですから、筆者と販社が「ACスイッチの接触不良か?」と推理し、A/Cスイッチも含めた空調コントロールパネル全体の交換もしたのですが症状は消えず。
そうこうしているうちに1年半が過ぎた翌年8月、販社から「ヤマグチさんと同じ年式の同じクルマで同じエアコン症状のクルマがやってきた。そのクルマは原因が判明したけど、ヤマグチさんのクルマも同じ要因かも知れないから見せてほしい」との連絡を受け、こちらのクルマは相変わらず症状が出ないまま予防整備の形で、見知らぬ旧シエラと同じ部位を交換したら1発で解決しました。

納車から1年半を経てようやく見つかった要因は、エンジンルーム内の部品で、A/Cスイッチでも何でもなく、筆者・販社ともども力まかせに場外ファールを打っていたというオチでした。
普通の人なら怒るところでしょうが、筆者の場合、このようなことが起きても知識の収穫になると捉えているのと、そもそも話のネタになるということで心底からおもしろがる性分なので(実際、ここでネタにしている)、笑い話にすることにしています。
ただし、症状が出ない限りは、クルマを1週間預けても1ヵ月預けても、はたまた1年預けても解決するとは限らないということをお忘れなく。
それはともかく、クルマの重大な故障も去ることながら、このように、「走る」「曲がる」「止まる」に影響しない、ちょっとした不具合の中には、原因がなかなか特定できないということも多々あるものです。そして症状が出ない限り、メカニックは何をすることもできません。
顧客はお金を払う方ですが、だからといってやみくもに文句をいったりしていいわけでもありません。確かに間違った使い方をしていないのにもかかわらず、不具合を起こしたそのクルマは自分が高いお金を払って買ったものであり、顧客の直接の窓口は販売店ですから文句をいいたくなる心理もわかるのですが、製造上の不具合は販売店の落ち度ではなく、メーカー側の責任です。
文句をいうならメーカーに。同じ不具合でも、「ま、いっしょに解決しましょうや」というくらいの気持ちで接すると、相手(販社側)もなお誠実に対応してくれます。
お持ちのクルマが原因不明の不具合で困っている方、メカニックも同じように困っているのかもしれません。メモ書き1枚作戦を試してみてはいかがでしょうか。
(文・写真:山口 尚志)