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■新型WRX S4の樹脂むき出しは賛否両論
●ゴルフボールから生まれたアイデア
スバルのスポーツセダン「WRX S4」がフルモデルチェンジを発表以来、そのスタイリングやエンジンスペックに賛否両論となっているようです。
エンジンについていえば、先代モデルの2.0Lから2.4Lへと排気量アップしながらピークパワーが300馬力から275馬力にダウンしていることに失望したといった声もあります。
そこについては環境対応とパフォーマンスの両立ゆえに仕方がないと理解できる部分もありますが、スタイリングの特徴となっている樹脂むき出しのフェンダーアーチモール(クラッキング)には否定的な声が多くなっているようです。
SUVであれば定番的な手法ですが、スポーツセダンにはふさわしくないというのが、その主な理由でしょう。
しかも前後バンパーやサイドステップ部分も樹脂むき出しとなっています。エントリーグレードでも400万円を超える価格帯のセダンとしては、樹脂むき出しのスタイリングに疑問があるというのも理解できます。
しかし、WRXが機能重視のスポーツセダンである限り、この樹脂パーツには意味があるはずです。
それが「空力テクスチャー」の採用です。
WRX S4の樹脂パーツをクローズアップしてみると、表面にヘキサゴンパターンが施されていることがわかります。これは、いわゆるシボと呼ばれる飾りのための意匠ではありません。空力を考えた形状となっているのです。
ヘキサゴンパターンのヒントになったのは、ゴルフボールです。ゴルフボールのディンプルは、空気の剥離を抑制することで飛距離を伸ばすことは知られています。そのディンプル効果を自動車の空力デバイスとして活用できなかということで生まれたのが、WRXに採用されたヘキサゴンパターンの空力テクスチャーというわけです。
●BRZとは異なるパターンを採用した理由
その原理は、積極的に空気の流れを乱すことです。こう聞くと、空力にネガティブに感じるかもしれませんが、乱流化することで速度分布は均一化します。つまり剥離を抑制することができるわけです。
実際、空力テクスチャーの有無によってフロントフェンダー部分における剥離点が移動していること、乱れが小さくなっていることは実験で明らかになっています。
では、どのような効果が期待できるのでしょうか。スバルのエンジニア氏によれば車両にかかる圧力変動の抑制と空気抵抗の低減が現象として起きえるといいます。
これを具体的にいえば、直進安定性と乗り心地の向上につながるといいます。
また空力テクスチャーはヘキサゴンだけの1パターンではありません。知られているようにBRZ(兄弟車のGR86)のフロントバンパーには、サメ肌パターンのテクスチャーを施した樹脂パーツが与えられています。
こちらは摩擦低減効果と縦渦発生効果が期待できるテクスチャーで、その効果はフロントタイヤの接地性アップにあるといいます。その狙いはハンドリング性能の向上で、このように車両のキャラクターによって適切な空力テクスチャーも変わってくるというのがスバルの主張です。
●空力効果は体感できるか?
新型WRXの外観をあらためて見て頂ければわかるように、樹脂むき出しとなっているのはフロントバンパーからはじまり、フロントフェンダー、サイドステップ、リヤフェンダー、リヤバンパーまで。つまり車体ボトムラインを一周するように空力テクスチャーが配されているわけです。
さらに見えない部分ではフロントのアンダーカバーにも、この空力テクスチャーは施されています。まさに全身で空力効果を目指しているのです。
また、樹脂パーツの表面を塗装してしまうと当然ながら表面のパターンが隠れてしまいますから空力効果は失われます。
空力テクスチャーによる空力効果を前提としている限り、新型WRXにおいて樹脂パーツをむき出しで採用するというのは必須なのです。
では、その空力効果は体感できるのでしょうか。
新型WRX S4については、クローズドコース(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)でしか試乗していないので、正直いって直進安定性やロバスト性についてはわかりません。
乗り心地の向上についても残念ながら感じることはできませんでした。とはいえ、新型WRX S4の乗り心地的な快適性はスポーツセダンとして非常に高いレベルにあります。ただし、それが強固なボディ由来なのか、サスペンション・セッティングなのか、優れた静粛性によるものなのか、それとも空力テクスチャーによるものなのか、明確に区別するのは難しいのも事実です。
むしろ、空力テクスチャーありきのセッティングとして生まれたパフォーマンスですからテクスチャーの有無でパフォーマンスの違いを考えるのはナンセンスといえるでしょう。
というわけで、新型WRXにおいて樹脂むき出しとなっているのは、その走りにつながる重要なポイントであって、パフォーマンスセダンとして評価するのであればマストアイテムとして受け入れるべきです。
そうは言ってもボディカラーによっては、空力テクスチャーが入っていない、かなり広いフラットな面がむき出しになっているのは、価格に見合うプレミアムな仕上がりかといえば疑問もあります。
たとえば、機能に関係ない樹脂部分はボディ同色パネルやデカールで隠すなどの工夫をしてもいいのではないでしょうか。スバルのデザイナー氏にうかがうと、そうした部分の課題は認識しているようです。この先、なんらかの改良が期待できるのかもしれません。