目次
■時代によって変わったもの、消えたもの
昭和、平成、令和…。時代とともに流行や姿かたち、求められる機能が変わったり消えたりするのは様々な製品にあてはまることです。
大昔、メッキを施した鉄製のバンパーは、衝撃吸収性の有利さとデザイン自由度の高さから樹脂製に変わりました。
世界的な健康ブームと嫌煙志向の流れからシガーライターと灰皿が消滅、どのクラスにも用意されていた、若者が憧れだった2ドアボディのクーペも壊滅…。
クルマの分野を見てみても、流行り廃りや時代背景によって消えていったものが少なくありません。
今回は、消えていったもののひとつ、フェンダーミラーについて解説していきます。
●規制緩和で解禁されたドアミラー
いま主流の「ドアミラー(door mirror)」も、フェンダーパネル上にある「フェンダーミラー(fender mirror)」も和製英語で、正式にはひとくくりに「アウターミラー(outer mirror)」と呼ばれていました。
最近では少し様子が変わったのか、英和辞典で調べたら「outer mirror」の表記はなく、アメリカ表記で「side mirror」、イギリス式には「wing mirror」と出ていました。余談ながら、天井からぶら下がっている「ルームミラー(room mirror)」も日本的な呼び方で、正式には「rear view mirror(リヤビューミラー)」が本来の呼び方です。
さて、日本ではフェンダーミラーが長く使われてきました。というよりもフェンダーミラーしか許されておらず、海外で主流だったドアミラーは禁止されていたのです。
これが日本にクルマを輸出したい海外メーカー勢から非関税障壁と批判され、それだけが理由ではないでしょうが、1983(昭和58)年、日本のクルマもドアミラーが解禁されました。
以降、メーカーオプションによるフェンダーミラー選択の余地を残しながら、あっという間にドアミラー車が街を占領していきました。
しかし少しずつそのオプションも消え、トヨタだけが2代目センチュリー、タクシーモデルのクラウン、クラウンコンフォート、コンフォートについ数年前まで残していましたが、ついにセンチュリーは現行3代目へのシフトしたと同時にフェンダーミラーをやめました。
タクシー3車は一挙ジャパンタクシーに置き換わりましたが、センチュリーとは逆にフェンダーミラーを残したのはトヨタのえらいところです。2021年現在、フェンダーミラーのクルマはジャパンタクシーだけじゃないでしょうか。
●フェンダーミラーのメリット、デメリット
フェンダーミラーとドアミラー、どちらも一長一短あると思いますが、トータルで見るとフェンダーミラーのほうに軍配が挙がると筆者は思っています。
理由は、
1. 後方視界の確保がフロントガラスの中だけで完結する。すなわち目の移動量が少ない。
2. 1.に付随して、雨天時、ワイパーの払拭エリア内にフェンダーミラーがあるので、少なくとも目のじゃまになる水滴の層は、ミラー面ひとつだけですむ。
3. おおよその車両先端、幅がわかる。
4. ドアミラーの場合より、実際に車両幅が小さくなる。
というものです。
まあ、これら項目だけでわかるとは思いますが、ひとつひとつについて、6代目スカイライン(R30型)、2ドアRS、4ドアRS、同じクルマ同士の写真を用いて、1から順に説明しましょう。
どこかの警察署も改造して所有していた赤いスカイラインがフェンダーミラー仕様の4ドアRS、白いスカイラインがドアミラーの2ドアRSです。
片や2ドア、他方4ドア…。ボディにフロントガラスの後傾角は異なりますが、フロント部の設計は同じことから、何の躊躇もなく比較していきます。
1. 目の移動量が少なく、後方視界の確保がフロントガラスの中だけで完結する
あたり前の話ですが、通常、ドライバーはフロントガラスから前方視界を得て運転しています。その中には車両前方両端にあるフェンダーミラーも包含されていますから、後方視界の確保はフロントガラス内からだけですみます。
いっぽう、ドアミラーはフロントドアガラスの先端、三角エリアに設置されています。したがって、どうしても目の移動量は大きくなります。特に左ドアミラーに目をやるときは扇風機の首振り並みに首を捻らなければならず、そのときはほとんど前方を見ていません。
フェンダーミラーにドアミラー、両者ともどのみち運転者の左右斜め前方に位置していますが、ミラーをフロントガラスの内側に見るか、外側に見るか、そしてミラー像を認識するまでの時間差、いずれも距離や時間を計測すればわずかな違いなのかもしれませんが、感覚的には小さくありません。
2. 1.に付随して、雨天時、ワイパーの払拭エリア内にフェンダーミラーがあるので、少なくとも目のじゃまになる水滴の層は、ミラー面ひとつだけですむ
雨天、その水滴はガラス面、ミラー面の両方に付着します。フェンダーミラーの場合はフロントガラスぶんはワイパーが拭ってくれるので、ドライバーがくぐり抜けなければならないのはミラーの水滴層だけ。いっぽうのドアミラーは、サイドガラス、ミラー面、水滴の層は二重となります。ミラーに熱線を仕組んでいるクルマもありますが、スイッチを入れて瞬間的に水が消えるわけではありません。
ガラス面の水を消すには、ワイパーにおよぶものはなく、かつてトヨタマークII/クレスタ/チェイサーの一部には、サイドガラスにワイパーを備えた機種もありましたが、ギミックなどと揶揄する声もありました。が、次のモデルでは姿を消しました。日産は初代レパードのフェンダーミラー、初代シーマのドアミラーにワイパーをつけていました。
3. おおよその車両先端、幅がわかる
4. ドアミラーの場合より、実際に車両幅が小さくなる
これは副次的効果ですが、設置されている場所が場所だけに、自車のおおよその先端位置、事実上の幅がわかるのがメリット。ドアミラーでも車幅はわかるのですが、1と同じで目の移動量が大きくなります。
また、一般にフェンダーミラー最外側とドアミラー最外側とでは、前者のほうが10cmほど狭いのが通例です。
これは上からクルマを見たとき、自動車のボディ前後は内側に絞られており、フェンダーミラーはその絞られた先に設けられているからです。
フェンダーミラーとドアミラーが混在した時期のクルマの説明書には、「…これまでのフェンダーミラーよりもドアミラーのほうが10cmほど幅が広くなるので気をつけて…」という一文が記されていたものです。
もっともフェンダーミラー本体のステー(足)の外側への角度しだいでサイドへの突き出し量も変わってくるので一般論にはなりますが、フェンダーミラー、ドアミラー、左右間距離で前者が大きかった例はありません。
1989(平成元)年の物品税廃止、消費税導入で、5ナンバー車と3ナンバー車の自動車税ランク分けが500cc刻みなってから30年余、国産車は幅に於いて、まるでタガが外れたように小型車枠1700mmから広がり続けてきました。
全長、全幅のうち、狭い都市部では、どちらかといえば幅が大きいほうが困ると思うのですが、ドアミラーよりも事実上の車幅が狭くなることのメリットを持つフェンダーミラーは、車幅が肥大化した現在のクルマにこそ与えられるべきものではないかと筆者は思います。
ここまでフェンダーミラー推進派として、フェンダーミラーのメリットばかりを挙げてきましたが、デメリットにも触れなければフェアではありません。
それは、フェンダーミラーは本体が運転席から遠くにあるぶん、得られる像が小さくなる反面、ドアミラーはより手前にあるために像も大きくなって見やすいというものです。それで他車との距離感がつかみやすくなるというドアミラー推奨派もいます。
●出てこい、安全でスタイリッシュなフェンダーミラー!
いっぱんに「フェンダーミラーはかっこ悪く、ドアミラーのほうがかっこいい」というのが通り相場になっており、1980年代半ばあたりまでは、カー用品店でフェンダーミラー車オーナーに向けて後付けドアミラーが売られていました。
かっこいい、悪いの感性や好みは人それぞれではありますが、筆者は、世の中がいうほどフェンダーミラーがかっこ悪いと思わなければ、ドアミラーがかっこいいとも思いません。むしろフェンダーミラーは、「雨の日も風の日も、あんなに遠くから運転者に向けて必死で後ろの視界を与えようとしている。健気なヤツよ」と思っているほど。
というわけで、デジタルドアミラー認可後の2021年に時代錯誤なことを書くようですが、筆者はいまに至るも、ある時期までのように、フェンダーミラーも選べるというようにしてもいいのではないかと考えています。両者のメリット、デメリットを勘案すれば、フェンダーミラーだってまだまだ捨てたもんじゃないと思っているのです。
心配なのは歩行者保護を目的とした突起物規制で、いまのクルマは突き出し物があってはいけないということで、フード先端のマスコットやフェンダーマーカーがなくなりました。しかしドアミラーは相変わらず突き出しているわけで、衝撃を受けた際は倒れるようになっています。しかし、時期は忘れましたが、フェンダーミラーもある時期から衝撃吸収構造にすることが義務付けられ、何かが当たってもフェンダーパネル内のバネ仕掛けでショックを吸収するようにできていました。
筆者は都内でジャパンタクシーを見る都度、そしてまだ元気に走っているクラウンのタクシーを見るたびに、歩行者やものにあたっても怪我や損傷の少ない衝撃吸収機構を備え、かつ、ドアミラー同様の電動格納機構を備えた新型フェンダーミラーが開発されないかな、と思っているひとりです。
そしていままでのものがかっこ悪いというなら、誰しもが「おおっ!」と狂喜乱舞するようなスタイリッシュなものを創出してほしいのです。
以上、ドアミラー解禁から38年も経過しているのに、いまさらながらの、フェンダーミラーが持つメリットのお話でした。
ここで「復活させろよ!」と唱えるだけでおしまいにするのは無責任。そこで次回もまたフェンダーミラーをテーマにし、フェンダーミラーとドアミラーのメリット、デメリットを実車で検証していきます。
(文:山口 尚志/写真:中野 幸次・花村 英典・山口 尚志)
【撮影車スペック】
■日産スカイライン ハードトップ2000 ターボRS【E-DR30・1983(昭和58)年型・5速MT】
●全長×全幅×全高:4595×1665×1360mm ●ホイールベース:2615mm ●トレッド前/後:1410/1400mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:1175 kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.1m ●タイヤサイズ:195/60R15 ●エンジン:FJ20E(水冷直列4気筒DOHC・ターボ付) ●総排気量:1990cc ●圧縮比:8.0 ●最高出力:190ps/6400rpm ●最大トルク:23.0kgm/4800rpm ●燃料供給装置:ECCS(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:65L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式/セミトレーリングアーム式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク式/ディスク式
■日産スカイライン セダン2000 ターボRS【E-DR30・1983(昭和58)年型・5速MT】
●全長×全幅×全高:4595×1665×1385mm ●ホイールベース:2615mm ●トレッド前/後:1410/1400mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:1165 kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.1m ●タイヤサイズ:195/60R15 ●エンジン:FJ20E(水冷直列4気筒DOHC・ターボ付) ●総排気量:1990cc ●圧縮比:8.0 ●最高出力:190ps/6400rpm ●最大トルク:23.0kgm/4800rpm ●燃料供給装置:ECCS(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:65L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式/セミトレーリングアーム式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク式/ディスク式