歩行者がバイク・ライダーを怪我させ送検!交通弱者が「重過失傷害」に問われた高知市・信号無視バイク転倒事故に隠されたメッセージとは?

■歩行者が送検された理由は運転者の気持ちを考慮したからではなかった

7月14日、高知市内の国道で51歳の歩行者が赤信号を無視して横断歩道をわたっていたところ、回避しようとしたバイクが転倒。30代のライダーが左手の骨を折る全治8週間程度のけがを負いました。

信号無視で横断し、バイクを転倒させた重過失傷害で歩行者が送検(撮影 中島みなみ)

直接の原因は歩行者の信号無視ですが、現場は見通しのよい直線の幹線道路。当初はライダーの過失も問われるかと思われましたが、約2か月経過して送検されたのは歩行者だけ。過失傷害よりも程度が重い刑法の「重過失傷害」容疑でした。

高知南署のこの判断に、多くの自動車ユーザーが反応。ルール無用の歩行者に適正な判断が下されたと歓迎しました。しかし、取材を進めると、この摘発の狙いは、こうした自動車ユーザーの気持ちを代弁したものではないことがわかりました。

●交通ルールを大きく逸脱する歩行者は、交通弱者とはみなされない

警察が問題視したのは、歩行者の横断方法と交通状況でした。

現場の国道56号線(土佐道路)は、片側2車線往復4車線の分離帯のある幹線道路です。十字路交差点ではなく、幹線道路を横切る横断道があるだけでした。バイクの進行方向は黄色点滅、歩行者と自転車だけの横断道は赤信号でした。横断する場合は、押しボタンを押して青になるのを待たなければなりません。歩行者の過失の第一は、この押しボタンを押さないことでした。

信号歩行者用信号の押ボタンを押すだけでよかった(撮影 中島みなみ)

発生は19時40分頃。帰宅時の交通量が増える時間帯だったことも、安全確認を怠り、事故を引き起こすきっかけを作ったとされます。

歩行者は「早く帰りたかったので押しボタンを押さなかった」と供述しましたが、この男性は幼児を抱えてもいました。これも問題でした。バイクの進入で歩行者は、子どもと共に転倒しています。幸い2人とも無事でした。

警察は「どちらかが死亡していてもおかしくない事故。押しボタンを操作し、充分に安全確認していれば回避できた」と、判断しました。

●歩行者も車両も、ルールを順守が方向者保護につながる

スマートフォンを操作しながらの自転車運転で人身事故を発生した場合には、重過失傷害に問われることがあります。

51歳の歩行者の行動は、前述の通り歩行者側にいくつもの過失が積み重なったことで、初めて自転車運転と同様の責任が問われることになったケースです。信号無視の一点だけを問題にした歩行者への一罰百戒ではありませんでした。

さらに今回の事故対応は「歩行者保護に立ったもの」と、高知南署は話します。

「歩行者保護は歩行者も交通ルールを守らないと成り立たない。歩行者もルール順守を、という意味合いで事故を公表した。同種の事故をなくすためでもある」

歩行者用信号の押ボタンを押すだけでよかった(撮影 中島みなみ)

一瞬で発生する事故の過失を予測することはできません。歩行者が信号無視でも責任を問われかねないライダー側から見ると、多くの偶然が重なって過失責任を問われない不幸中の幸いだった、といえるのではないでしょうか。

今回のケースが、高知県内で発生した過去10年の事故をさかのぼっても、記録ないほど珍しいというのは、こうした偶然が重なっているからではないでしょうか。

中島みなみ