aiko「食べた愛」MVに登場する伝説のスカイライン「ケンメリ」ってどんなクルマ?

■クルマがもっと堂々と、かっこよかった時代の4代目スカイライン!

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
YouTube「aiko-『食べた愛』music video」より

恋する女心を歌わせたら天下一品のシンガーソングライター、aikoさんが新曲「食べた愛」のミュージックビデオをリリースしました。片思いしてる自分の姿をさまざまな場面設定を通じて描いた映像なのですが、夜中にスマホのYouTubeで見ていた筆者は、途中でキリン本絞りを吹き出しそうになりました。彼とのドライブシーン(後半ではaikoさん本人もドライブ)に、ケンメリ・スカイラインが使われているじゃありませんか! aikoやるじゃん!!

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
これがケンメリ・スカイライン。トップグレードの2000GTX

と言われても全然ピンとこない方に解説しましょう。ケンメリとは、1972年から77年にかけて作られた4代目スカイラインのこと。広告のキャッチコピーが「ケンとメリーのスカイライン」だったのでこの愛称で呼ばれるのです。ちなみに4ドアのケンメリ・スカイラインは「ヨンメリ」と呼ぶんですよ。

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
1972年、銀座の日産ギャラリーに展示されたケンメリに来場者はうっとり

当時はスマホもネットもありませんから、男子が熱中するものといえばクルマやバイクしかありませんでした(やや誇張)。今からみたらその頃のクルマはだいぶヘッポコですが、今の1万倍くらい夢にあふれ、堂々としていて、カッコよかったのです。中でもスカイラインといったら男の憧れそのもの。その存在は社会現象といわれるまでになり、ケンメリはキャラクターTシャツだけで30万枚が売れたといいます。

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
ぶっといリアクオーターパネル!

そんなケンメリ・スカイラインですが、3代目「ハコスカ(こっちはハコ型スカイラインの意)」のイメージを受け継ぎつつ、より豪華さを打ち出したクルマでした。それを象徴したのが2ドアハードトップのぶっといリアクオーターパネル(Cピラー)。おそらく2代目フォード・マスタングあたりがお手本で、斜め後方視界はほとんどなかったでしょうが、その「無駄な」感じが若者にとってはたまらず、エラくゴージャスに思えたものです。

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
手前が6気筒、後ろが4気筒モデル。ボンネットの長さの違いが分かりますね
ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
2000GTXのワイルドな運転席周り

ボディは、4ドアセダンと先述した2ドアハードトップ、そしてバンボディ(当時は商用でクルマを買う人がまだまだ多かったんですね)がありました。手が込んでいたのは4気筒と6気筒でボディ全長が異なっていたこと。エンジンの長さでエンジンルームの長さを作り分けていたのです。これはプリンス自動車時代の2代目スカイラインが、レースに勝つために6気筒エンジンをフロントに押し込んだ時以来の手法。スカイラインが誇る偉大な伝統というわけです。とはいえケンメリは6気筒モデルでも全長が4460mmしかありません。今でいえばRAV4より15cm小さく、カローラクロスとほぼ同サイズですから、当時のクルマの「小っこさ」が分かりますね。

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
L20型直列6気筒2リッターエンジン。当時の日産を背負った名機です

ケンメリのエンジンですが、別格のGT-Rを除けば、1.6リッター直列4気筒(G16 型:100ps/13.8kgm。*別にタクシー向けLPG仕様あり)、1.8リッター直列4気筒(G18型:105ps/15.3kgm)、そして2リッター直列6気筒(L20型:130ps/17.0kgm)というラインナップでした。

2リッター直6を積むトップグレード「GTX」は足回りも特別で、フロントがマクファーソンストラット、リアがセミトレーリングアームという4輪独立懸架。3代目では採用されなかった「丸テール(丸形のテールランプ)」も復活し、これは以降のスカイラインのアイコンとなっていきます。

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
これがビデオに登場するGTX・Eですが、写真はスカイライン20周年の記念モデル

aikoさんのビデオに登場するケンメリですが、「GTX・E」というレアモデル。年を追って厳しくなる排出ガス規制に対応するため、L20型エンジンを電子燃料噴射仕様にしたグレードですが、フロントマスクが前期のGTX顔から変更されているのが特徴です。このGTX・Eでは、スカイライン誕生20年を記念するアニバーサリーモデルが400台限定で販売されたりもしたのですが、それにしてもaikoさん、目利きですねえ。公式ツイッターによれば、お父様がかつてケンメリに乗られていたとのこと。その思い出を、いつも助手席に乗っていた娘さんがMVに活かすなんて、素敵ですね。

ケンメリ・スカイラインってどんなクルマ?
北海道美瑛町に立つ「ケンとメリーの木(右)」

さて、aikoさんのおかげでケンメリ・スカイラインに興味を持たれた方。ぜひ北海道の美瑛町にお出かけください。見事なアップダウンが続く丘の途中に「ケンとメリーの木」と呼ばれる1本のポプラが立っています。この木は1972年、ケンメリ・スカイラインのコマーシャルに使われ、以来日本全国からファンが押し寄せるフォトスポットとなりました。風雪に耐えてきたその姿を見上げて、50年前のクルマ好きの汗と情熱に思いをはせるのも悪くないかもしれません。

●aiko-『食べた愛』music video

(文:角田 伸幸

【関連リンク】

ケンとメリーの木(美瑛町観光協会)
https://www.biei-hokkaido.jp/ja/sightseeing/ken-merry-tree/

この記事の著者

角田伸幸 近影

角田伸幸

1963年、群馬県のプロレタリアートの家庭に生まれる(笑)。富士重工の新米工員だった父親がスバル360の開発に立ち会っためぐり合わせか、その息子も昭和期によくいた「走っている車の名前が全部言える子供」として育つ。
上京して社会人になるも車以上に情熱を注げる対象が見つけられず、自動車メディアを転々。「ベストカー」「XaCAR」で副編集長を務めたのち、ポリフォニー・デジタルにてPlayStation用ソフトウェア「グランツーリスモ」シリーズのテキストライティングに携わる。すでに老境に至るも新しモノ好きで、CASEやパワートレインの行方に興味津々。日本ディープラーニング協会ジェネラリスト検定取得。大好物は豚ホルモン(ガツとカシラ)。
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