「エアコン」と「クーラー」って何が違うの?機能と定義の違いを知る

■区分けを曖昧なままにしていませんか?

air control panel fresh
これは「クーラー」なのか、「エアコン」なのか、どっち?

1980年代初頭あたりまでは、クーラーまたはエアコンのないクルマがまだまだ多く、夏のドライブ時、涼しくするためにはブロアファンをまわしてただの風を出すのが主流でした。

ただ吹き出してきただけの風を身体に当てることで涼しく感じられるようにする、いわば「涼感」を得られるようにしていたのです。本当の意味で涼しくするのはクーラーです。

「でもみんな『エアコン』といっているじゃないの。『クーラー』じゃないの?」というひともいると思います。

ということで、今回はクーラー、エアコンそのものの話と、「エアコン」という、言葉の定義をテーマにしていきます。

●そもそも「エアコン」とは何? 「クーラー」とは何が違う?

どちらも冷やすときに使っているのに、何が違うのか? 疑問を持たれている方が多いと思います。

「クーラー」はただ冷やすだけのユニット。

いっぽうの「エアコン」とは「エアコンディショナー(air conditioner)」の略称で、エアコンディショニング(air conditioning:空気調和)、すなわち「暖房、冷房の両機能を有し、これら機能の合わせ技で温度、湿度をそれぞれ独立で調整できる装置」のことをいいます。

ここで「クルマのエアコンで湿度調整なんかできたっけ?」と思った方はするどい!

「湿度」とは空気中に含まれる水分の含有率のこと。皆さん、今お使いの家庭用エアコンのリモコンを見てみてください。「暖房」「冷房」などの他に「除湿」があるはずです。これは温度を維持したまま湿度を調節するモードです。

しかしクルマの空調パネルにこの機能はありません。A/Cを入れれば、設定温度しだいで除湿はされますが(だからデフロスター(くもりとり)が機能する)、あくまでも結果的に除湿されたというだけで、湿度そのものを直接調整できるわけではありません。

したがって、クルマの「エアコン」は、正確には「エアコン」とはいえません。いうなれば「エアコンもどき」とでもいいましょうか。

仮に擬似的であれ、現状のクルマの空調を「エアコン」と呼ぶことにしましょう。

冷やすときに「エアコンをつける」といいますが、ここまで書いておわかりのように、冷やす機能だけが「エアコン」ではないので、暑いから涼しくしたいと「エアコンをつける」なら、逆に冬場、A/C OFFで暖房のみ使っていても「エアコンをつける」となります。

厳密にいうなら、涼しくするのは「エアコンの中のクーラー」であり、暖かくするのは「エアコンの中のヒーター」なのです。各機能が集合・一体になったものが「エアコン」です。車内を涼しくするときに押すボタンに「A/C」と刻まれているので、「クーラー」と「エアコン」がなお混濁される原因になっているのでしょう。

本当は「A/C」ではなく、「COOLER」と記すべきものなのです。

過去4回の実験記事でも筆者は「エアコン」と書いてきましたが、話が面倒になるので説明は今回の記事タイミングをにまわしました。記事中の「エアコン」はすべて「クーラー」にお読み替えください。

●クルマが冷たい風を作るプロセス

皆さんが空調パネルの「A/C」を押したとき、クルマが車内外でどのような働きをして冷風を作り出すのかを、図とともに説明します。

mechanism of generation of cool air
「クーラー」であれ「エアコン」(擬似的ですが)であれ、冷たい空気を作るメカニズムは変わらない。

1. A/CスイッチのONでコンプレッサーのマグネットスイッチが入り、エンジンの回転によってコンプレッサー内で冷媒圧縮が始まる。
2. 「高温・高圧」化し、液状になった冷媒はエンジンルーム前部の「コンデンサー」内に送られ、電動ファンの風、または走行風を受けて温度が下げられて「低温・高圧」化、液状とガス状が入り混じった状態となる。
3. コンデンサーから「リキッドタンク」に送られ、不純物が取り除かれるとともに、内部に封入されている乾燥剤で水分も除去。
4. エキスパンションバルブ(膨張弁)で霧化され、「低温・低圧」となる。
5. 霧化された冷媒はエバポレーター内に進入。冷え冷えのエバポレーターの背後から風を送ることで冷風が生み出される。
6. この冷風が任意で選んだ吹出口から噴出し、車内を冷やす。
7. エバポレーターから出た冷媒は、「低温・低圧」のまま再度コンプレッサーへ

1.~7.の繰り返しを「冷凍サイクル」と呼びます。この流れで冷気が作り出されます。

クーラーの図を見てわかるとおり、エバポレーターの背後から風を送り、冷えた風を吹出口から出して車内を冷やします、暖房と冷房、それぞれの風の流路はまったくの別系統のため、温度調整は別個に行い、冷やすだけのクーラーは、エアコンの場合ほど冷気の温度を緻密に行うことはできません。クーラーの効きを弱めたければ主に風量を抑えるしかないでしょう。

では、この「クーラー」に対し、「エアコン」は何が違うのでしょうか。

●「クーラー」と「エアコン」、構造上の違い

実は「クーラー」と「エアコン」とで、エンジンルーム内で行われる冷気生産活動の仕方はまったく同じ。先の冷凍サイクルで冷気が作り出されます。

違いとなるキーは、車内側エバポレーターの設置場所です。

k12 air conditioner
エバポレーターが風の経路にあるのが、「クーラー」に対する強みである。エアミックスドアで温度の高低は自在だ。

これは2002年登場の日産マーチK12型の風の流路を示す構造図。

ブロアファンが起こした風が通るのは、順番に、フィルター、エバポレーター(青着色部)、ヒーターコア(赤着色部)、冷暖の温度を決めるエアミックスドア、吹出口を選択するベントドアとなります。

ヒーターコアの内部にはエンジン冷却液がやってきており、ブロアファンからの風はヒーターコアを通過するときに温まり、吹出口を経て車内を暖めます。クーラーの原理はさきに述べました。

ここで「エアコン」定義のひとつである温度調整。通過する風の温度は、図中の「エアミックスドア」の角度が決め手で、これを「エアミックス方式」といいます。皆さんが空調パネルで行っている温度調整とは、このエアミックスドアの角度調整なのです。

したがって、A/C ONでクーラー最強(最低温度)のときはエアミックスドア位置は図のA(青ドア位置)、ヒーター最強(最高温度)のときはA/C OFF(エバポレーターには冷気がきていないので常温)でエアミックスドアがBの位置(赤ドア位置)、その間で好みの温度にしたいときはAとBの適当な位置ということになります。

Bの位置のときは、A/C ONであれば、その成り行きで除湿されるということにもなります。ガラスがくもったとき、「A/C 併用」が効果的なのは、水分を取り除いた空気がガラスに吹きつけられるためです。冷房が暖房とまったくの別系統である「クーラー」ではこの芸当はできないことになります。もっとも時間がかかることが許されるなら、除湿された冷気はそのうちガラス周辺にまで到達し、くもりは取れますが。

ところで、温度を上げたり風量を弱めたりしていれば低燃費に貢献すると勘違いしているひとがいますが、温度調整はエアミックスドア、風量調整はファン速度で行っていることですから、温度が高かろうと風が弱かろうと、冷気を作り出すコンプレッサーが、エンジン回転を動力源にまわっている限り、温度やファンの微調整が低燃費化とは無関係であることがわかります(固定容量式コンプレッサーの場合)。燃費が気になるならA/Cをオフにするしか手はありません。

heater and cooler
ヒーターしかないクルマにクーラーを取り付けたところで、機能上、相互の関連性はなく、2者をただ並べただけのものでしかない。

ここまで書いて、「クーラー」であろうと「エアコン」であろうと冷たい空気を作り出すしくみは同じで、エバポレーターとヒーターコアが同系統上にあるかどうかが「クーラー」と「エアコン」(クルマでは擬似的ですが)の分かれ目になることがわかります。

つまりエアミックスが、風が出る前の空調ユニット内で行われるか、風が出た先の車内で行われるかの違いであるというわけです。利便性はどちらが高いかはいうまでもありません。

過去4回の実験、ごらんになっておわかりのとおり、すべてエンジン始動、停車状態で行いましたが、停車時よりも走行時のほうが効きが向上します。しくみ図で見てわかるとおり、コンデンサーが走行風を受けることで熱交換がより積極的に行われるようになるからです。停車時よりもより効きが向上することを添えておきます。

●燃費への影響は何が生む?

mechanism of generation of heater
夏冬問わず、エンジンがまわってさえいればいやでも熱が出ているので、それを冬に有効利用しているだけなのがクルマ用のヒーターだ(ガソリン、ディーゼルエンジン車のばあい。)。これがハイブリッドとなると事情は変わってくる。

ヒーターの熱源は、ヒーターコアに導いたエンジン冷却液の熱。すなわちエンジンがまわってさえいればいやでも発する熱を、人間が都合よく使っているだけの、いわば廃物利用のため、ヒーターを入れようと入れるまいと燃費に影響はありません(ブロアファンを駆動する電気はエンジン回転によるオルタネーターの発電によるものですが、これは無視します)。

エンジンの冷却性が上がることになり、ヒーター使用はむしろエンジンにとっては好都合でしょう。熱の放出先が増えるわけですから。

air-conditioner compressor
エンジン回転を取り出して冷媒を圧縮するコンプレッサー。

いっぽうのコンプレッサーは、暑い日、くもりとりのとき、冷気を作るために「わざわざ」まわすもの。エンジン回転の一部をコンプレッサー稼働に奪われるため、そのままではエンジン回転が下がってしまいます。

コンプレッサー駆動に取られるエンジン出力は7~8ps。いまどきならもう少し小さいかもしれませんが、たとえ7~8psでもだまっているわけにはいきません。

そこでクルマはA/C ONの瞬間、コンプレッサーに取られた回転分だけエンジンの回転を上昇させます。これを行うのがアイドルアップ装置です。皆さん、アイドリング中にA/Cスイッチを入れながらエンジン回転計(タコメーター)の指針を観察してみてください。コンプレッサーのマグネットスイッチが「カチッ!」と鳴る瞬間、針が震えたでしょ? アイドル回転が700rpmなら、一瞬下に下がってすぐに700rpmになったと思います。「同じじゃないの。どこがアイドルアップなんだ?」と思われるかもしれませんが、きちんとアイドルアップしています。

コンプレッサーのために、仮に50rpm消費しているなら、エンジンは50rpm上昇させて元の700rpmに戻しています。だから見かけ上同じに見えるだけなのです。走行中は低出力のクルマほど、エアコン…まちがえた、クーラーを入れた瞬間の力の落ち込みを顕著に感じますが、それをドライバーが自然にアクセル量を増やしてエンジン回転のコンプレッサー稼働消費分を補っているため、燃費が悪くなるのです。

余談ですが、エンジン始動時や急加速時(エンジン高回転)、ほか、冷却液温度しだいでは、空調パネルの表示はそのままに、コンプレッサーのスイッチを切っていることを添えておきます。エンジンの負荷の低減や加速性を優先させるためです(エアコンカット制御)。

●クルマの「クーラー」の姿

そもそもクルマの「クーラー」を見たことがない人も多いと思います。

sunny option cooler and air conditioner
1973(昭和48)年5月にモデルチェンジした3代目サニー(B210)のオプションにあったクーラー。助手席側計器盤下への設置位置なのがわかるだろうか。同時にエアコンも用意されていた。
civic cooler
昔の初期のシビックのクーラー。グローブボックスのふたを外して埋めるため、ものが入れられなくなってしまう。

昔のクルマはヒーターだけ。それでは足りず、財力のあるひとがクーラーをつけていたわけです。室内側ユニットを助手席側計器盤(インストルメントパネル)下に吊り下げるタイプがいちばん多く、次にグローブボックスをつぶして埋め込むタイプ、後席後ろのトレイ内に内蔵するものなど、いくつか方式がありました。

rex option air conditioner
1990(平成2)年、新規格660ccに拡大したスバルレックスの販社オプションにあったエアコン。きっかり12万円。

時代が進んでいくと、吊り下げ式のようなものは姿を消し、すべてが一体・内蔵されたものに変わっていきますが、一部高級車以外はまだまだオプション。

軽自動車や大衆車にエアコンが標準化されたのは、1990年代初頭あたりからでした。

夏も終わりに近づいてしまいましたが、9月になっても暑い日が続き、運転時もエアコン、いや、クーラーのお世話になることが多いと思います。

どうか冷やし過ぎに注意し、かつ熱中症防止にも配慮し、適度な水分補給を忘れないようにしながら夏を乗り切ってください。

(文・写真・説明図:山口 尚志

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