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■エアコン不調のユーザー必見! 車内の冷えをより早くする、最後の手段とは?
暑いのが嫌な筆者には、クルマのエアコンに苦い思い出があります。
前に使っていたクルマは新車時からエアコンの効きが悪く(これは自分のクルマだけで、他の同型車には同じ例はない)、ガス点検をしてもエバポレーターを交換しても好転しませんでした。エアコン修理後は多少効きが良くなっただけで、まだまだ正常とはいえなかった頃、最後の手段として試した裏ワザががあります。
それは、空調コントロールを内気循環にし、吹出口を「上半身+足元」にセットするというもの。それまで冷えるのが遅かったエアコン効果がいくらか早まったように思えました。
あれが気のせいだったのか、本当に効果のあるものだったのかを試してみました。
●おさらいと今回の実験の目的、そして推理
前回のエアコン実験第3弾「外気導入と内気循環とでは、エアコン排出水の量に違いはあるか?」の中で、「内気循環は、室内気を助手席足元から空調ユニット内に取り込む」と書きました。
外気導入は暑い外気をエンドレスに吸い込むモードのため冷却効率が低い(冷えが遅い)のに対し、内気循環は取り入れる車内気が限定的で温度の下がった空気をリサイクルしてまた下げるというモードのため、内気循環のほうが冷却効率が高いことは、第1弾の実験グラフで示したとおりです。
ということは、内気循環の足元吸込口真ん前の空気の温度が低ければ、エアコンが作り出す冷気の温度の下がりはさらに早くなるのではないか?ということを思いつきました。
どういう意味かというと…。
内外気切り替えを「内気循環」、吹出口を「上半身+足元」にセットし、A/C ONで風を出すというもの。
内気循環では助手席足元から車内気を吸うと書きました。冷気(の半分)を足元にも出す…、つまり冷気の出口と吸込口を同じにすれば、冷たい風が出始めるのはなお早まるのではないかという推理です。
整理しましょう。今回行うのは次のようなものです。
●目的と方法
【目的】
内気循環時、「上半身+足元」にして助手席足元にも冷気を送ることで、エアコン冷気温度の下がりが早まるかどうかを観察する。
【方法】
次の3とおりで行う。
パターン1…内気循環、上半身送風、A/C ON、温度最低、ファン最大
パターン2…内気循環、上半身+足元送風、A/C ON、温度最低、ファン最大
パターン3…(参考)外気導入、上半身+足元送風、A/C ON、温度最低、ファン最大
測るのは上半身吹出口から出るエアコン風そのものの温度。センター吹出口に温度計をセットし、エンジン始動&ファンを入れて15分間、30秒ごとの温度変化を記録しました。車内の温度変化は測定しませんでしたが、ファンの入れ始め時と終了時の車内温度だけは測りました。
前回までと同様、車両は旧ジムニーシエラ(JB43W)1300cc車。マニュアルエアコンで、温度設定はできません。
以前のクルマの時に困って行い、気のせいだったかも知れないことの検証を、別のクルマであらためて試すのはおかしいのですが、何とぞご容赦ください。
パターン1は過去にも行ったもので、外気循環のときよりは室内温度の下がりが早いというものです。外気を遮断し、助手席足元から得る車内気を冷やすわけですから、初めのうちは部分的に温度が下がり、助手席足元の温度も「そのうち下がる」ということになります。
前述「冷気(の半分)を足元にも出す…つまり冷気の出口と吸込口を同じに」がパターン2です。パターン1で温度がそのうち下がっていた助手席足元にも積極的に冷気を送れば、「冷やしたい空気の温度はすでにある程度下がっているのだから、冷風温度の下がりはなお早いはず」ということが成り立つはずです。
パターン3は、参考までにと思って行った実験です。
●結果
得られた結果がこちらです。
前のクルマでの経験は気のせいではありませんでした。
パターン1~3は、そのつど部屋の温度を高温(40度超)にまで戻して行いました。時を経るにおよんで外気温も下がるため、スタート時の車室温にもばらつきが生じているのですが、出てくるエアコン風の温度、パターン1(緑線グラフ)に対し、パターン2(青線グラフ)のほうが明らかに低いことがわかります。
ONにしてすぐに冷風が出始めることについて「よくすぐに冷たい風が出るな」といつも感心するのですが、初めの30秒ほどは両モードでの風の温度差はそれほどなし。60秒経つ頃には「上半身のみ」と「上半身+足元」の違いが表れ始め、以降、そのまま持続することがわかりました。
パターン1と2の、同時間後の温度差の数値を見ると、ファン作動初期に最大で1.5度、その後1度の相違が続き、以降、1度未満の差を継続することがわかりました。実はもっと差が出るだろうと予想しており、自分でグラフを見てがっかりしていないでもないのですが、体感上はグラフ以上の差を感じました。
いっぽう、パターン2から内外気切り替えを外気導入にしたパターン3は、過去の例に等しく温度が高めであることがわかります。取り入れるのが外気である以上、吹き出す先がどこであろうと関係ないからです。
車内温度に注目してみると、開始時にいちばん温度が高くて不利なパターン2こそ、最終的に最も温度が低いことからも、その効果が立証されています。とはいえ、その差はたかだか0.5度ですが、さらに続けていけばもう少し差が開くかもしれません。
●あきらめる前に
この記事をお読みの方の中にエアコンが不調に悩まされている方がいるとしたら、冒頭に述べた理由からその気持ちは痛いほどわかります。
かつて90年代初頭まで、クルマのエアコンは、ある一部の高級車orハイグレードの車以外は、販売店で取り付けるディーラーオプションが大半で、マニュアルエアコンで12万円~、オートエアコンで15万円あたりからの価格だったと記憶しています。
エアコン標準装備が大半の今のクルマでその単価を測ることは困難ですが、ガス補充どころではないエアコンの修理を行うとなると、部分的に行っても万単位、エンジンルーム側、室内側両方に手を入れるフル修理となると、おそらく15万円以上を覚悟しなければならないでしょう。
ユニット構成品の価格もさることながら、工賃がバカにならないからです。エアコン修理で気が重くなるのはこの費用の点です。
エンジンルーム側にはコンプレッサー、コンデンサー、リキッドタンク、エキスパンションバルブ、配管があり、室内側にあるのはブロアファンモーター、ヒーターコア、エバポレーター、レジスター、そして内外気&吹出口切替機構の一体モジュールなどが代表格。ほかにも細かなものがありますし、オート式ならなお複雑化します。
修理をする際、これら部分にすぐ到達、着手できるわけではありません。クルマによりけりですが、たいていはバンパーやグリル、ヘッドライトを外さなければエバポレーターにアクセスできません。
室内側もまた、エンジンルーム側の作業に負けないほど大がかりです。計器盤(インストルメントパネル)奥に潜むエバポレーターを交換するとしたら、まずインストルメントパネルの脱着が避けられません。それもインストルメントを外す前にメーター、オーディオはもとより、各種スイッチ類など、これを外す前にあれを外さなければというさかのぼり作業が必要となる…。
つまり、クルマの外であれ中であれ、エアコンとは直接関係ない部分までもの作業が伴うため、エアコンの修理費用は高額になってしまうのです。ましてや最近では、エアコン冷媒の変更によるガス価格15倍の背景もあります。
効きの悪いエアコンに悩むユーザーが思いつく策は限定的で、一時しのぎ的なものばかりです。内気循環の最低温度+ファン最強、フィルター交換、エバポレーター洗浄、市販の洗浄剤噴霧、ガス補充…。
何が原因かわからないエアコン不調の前には、これらは気休めでしかありませんが、どうせなら気休めついでに「内気循環、上半身+足元送風」を試してみたらいかがでしょうか? 筆者も気休めありきで試したことですが、得られた効果がたとえわずかであってもホッとしたものです。
最後に筆者の不思議な経験として、エバポレーターを新品交換しても向上しなかったクルマのエアコン、エバポレーターを洗浄したらなぜか効きが好転したことを申し添えておきます。
高額な修理を払う前に、できることは何でもやってみましょう。
(文・写真、グラフなど:山口 尚志)