■バッテリー総電力量は20kWh、実質購入価格は約200万円
ちょうど一年ほど前に当コラム「週刊クルマのミライ」にて、『日産アリアのスペック発表で期待高まる軽EVの現実的な価格とスペック』という記事を公開しています。
この記事は日産のハイパフォーマンス電気自動車「アリア」のスペックから、仮にそのバッテリーやモーターといった技術を使った軽自動車サイズの電気自動車(BEV)を作ったとしたらどうなるのだろうかと予測するという内容でした。
記事内では『近距離移動に割り切って20kWh程度のバッテリーを搭載したシティコミューター的な軽BEVを作れば、ICE(internal-combustion engine:内燃機関)車とさほど変わらない価格が実現できるかもしれない』と予測をさせていただきました。
あれから一年、ついに日産と三菱自動車が軽BEVの開発状況と目標スペック、発売予定時期について公式発表を行ないました。
まず、開発を進めているのは従来の軽自動車と同様、両社が出資したNMKVです。そして、軽自動車BEVの発売は2022年度初頭予定となっています。
ボディサイズについて、日産は全長3395mm・全幅1475mm・全高1655mm、三菱自動車は全長3395mm・全幅1475mm・全高1670mmと発表しています。全長・全幅は軽自動車のリミットですから共通なのは当然として、気になるのは全高が異なる点でしょうか。
ちなみに、全高が同程度の日産デイズのスペックシートを見ると全高はFFで1640mm、4WDで1660mmとなっています。三菱eKワゴンも同スペックですが、SUVテイストのeKクロスについてはオプションのルーフレールを装着すると全高はFFで1665mm、4WDは1685mmとなります。
このあたりの違いというのは、日産と三菱が発表している全高が異なる背景として想像するポイントになりそうです。
もちろん、日産と三菱でもボディが異なる可能性も完全にゼロとはいえません。とはいえ、車両本体価格から補助金を引いた実質的な購入額が約200万円とアナウンスされていることから、軽自動車のメインストリームにあるモデルのような勢いで売れるとは思えません。
そうなるとドアやガラスなどは流用できるよう基本骨格は既存モデルを流用していると考えるほうが自然ではないでしょうか。
仮に基本となるボディが同様だとして全高が上がる理由としては床下にバッテリーを積む関係から最低地上高を稼ぐ必要がありますから、エンジン車に比べてサスペンションなどでリフトアップしている可能性も考えられます。
さて、バッテリーといえばBEVの性能にもっとも重要といえる要素ですが、その総電力量は20kWhと発表されました。
16kWhのバッテリーを積んでいた、三菱の軽BEV「アイミーブ」の航続距離はJC08モードで160kmを超えるくらいのレベルでした。当時と比べるとバッテリーなどのマネージメント制御も洗練されていますし、バッテリーの重量も軽くなっています。
少なくとも、20kWhのバッテリーであればカタログ値で200km前後の一充電航続距離を実現していると考えていいでしょうし、つまり空調などを使ったとしても150km前後は走ることができる考えられます。
もともと軽自動車の使われ方というのは近距離使いがメインというユーザーが多いのは事実です。戸建て住宅などで家に隣接した駐車場に普通充電ができる設備を用意できるユーザーであれば、不満なく使えるレベルの性能を満たしていると予想するのが妥当ではないでしょうか。
災害などで停電となったときにはV2H機器を介して非常用電源として活用できる機能も与えられているというのも、戸建てであれば魅力となりそうです。
しかも電気自動車というのは、モーター駆動ならではの滑らかで力強い走りと、エンジンがないことによる高い静粛性を実現できます。軽自動車とは思えないほど、上質な走りが可能になっているとすれば、前述した200万円というお値段に見合う満足が得られるといえそう。
運転支援技術をはじめとした様々な先進技術を搭載していることも発表されています。長距離を走らないユーザーにとっては、「プロパイロット」「MI-Pilot」などの自動運転レベル2に相当するテクノロジーは不要かもしれませんが、AEB(衝突被害軽減ブレーキ)などの性能が高いレベルにあることは、デイズやルークス、eKシリーズの性能を知っていれば大いに期待できるところで、その点でも満足度の高いモデルとなりそうです。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)