日産アリアのスペック発表で期待高まる軽EVの現実的な価格とスペック【週刊クルマのミライ】

■アリアのエントリー価格は540万円と予想。バッテリー25kWhとモーター1セットの合計重量は300kg

日産から新世代の電気自動車(BEV)としてSUVスタイルのブランニューモデル「ARIYA(アリア)」が発表されました。もっとも航続距離の長いグレードではWLTCモードで610kmを想定と、これまでBEVに対して、航続距離が、ハイブリッド車はもちろん、ガソリン車ほどでもないことをネガとして指摘していたユーザーを納得させるようなスペックを提示しています。

さらに前後にモーターを積んだAWD仕様ではシステム最高出力290kW、システム最大トルク600Nmという、これまた強烈な数値で、ハイパフォーマンスなBEVというカテゴリーに参入するという意思表示は、電気自動車のトップランナーである日産のプライドも感じさせます。

日産アリア
日産アリアはバッテリー総電力量65kWhと90kWhの2タイプを設定。それぞれFWDとAWDが用意される

さて、ここで注目したいのは、アリアで発表されているバッテリー総電力量と車両重量という2つのスペックと、補助金(おそらく40万円)を考慮した「500万円~」という価格に関するアナウンスです。

今回アリアが搭載したバッテリーは、リーフが使っているものとは別モノだといいます。そうなるとバッテリーの重量や調達コストが気になるものですが、それを想像するのに役立つのがバッテリー搭載量と車両重量のスペックです。アリアは大きく4グレードが設定され、駆動方式はFWDとAWDの2種類、バッテリー総電力量は65kWhと90kWhの2種類が用意されるとなっています。AWDは前後に同等モーターを積んだ仕様になると考えるのが妥当です。

そして、車両重量は1900~2200kgと発表されています。つまり、65kWh・FWD仕様と90kWh・AWD仕様の重量差が300kgと考えることができるわけです。快適装備などが同等だと仮定すると、リアを駆動するモーター&PCU 1セットとバッテリーの違い(25kWh分)などを合計した重量が300kgということになります。

モーター単体のスペックは、最大トルクでいうと300Nm相当で、永久磁石を使っていることを考えるとドラスティックに軽量化するのは難しいでしょうから、50~70kg程度はあると予想できます。さらにインバーターなどのPCU(パワーコントロールユニット)もあると考えると、バッテリーの重量は200kg前後に収まる可能性さえありそうです。リーフの初期型が24kWhのバッテリーで約300kgでしたから、かなりの軽量化が進んだことをアリアのスペックは示しているのです。

もうひとつ、バッテリーというのは調達コストが高く、BEVの価格を引き上げる要素と言われていますが、65kWh分のバッテリーを搭載したグレードで500万円程度というプライスは、絶対的な価格は別として、これまでのBEVの価格帯からするとコストパフォーマンスが高いと感じられるもので、すなわちバッテリーコストも下がっていることが想像できます。

NISSAN_IMk
厳密にいえば軽自動車のサイズを少々超えているが、中身やスタイリングは軽EVの未来を提示している

つまり、アリアが採用する新しいバッテリーは、軽くて安いものになっている可能性があるのです。そうなると、期待したくなるのは2019年の東京モーターショーでアリアと並んでステージ上に展示されていたコンセプトカー「IMk」です。軽の電気自動車を思わせるコンセプトカーを見たときは、軽自動車のBEVはどうしても価格競争力の面で厳しく、数が売れる商品にはなりづらいという声が挙がっていました。

しかし、アリアのスペックから想像するバッテリーの重量やコストを考えると、近距離移動に割り切って20kWh程度のバッテリーを搭載したシティコミューター的な軽BEVを作れば、ICE(internal-combustion engine:内燃機関)車とさほど変わらない価格が実現できるかもしれないと思えてきます。もちろん、価格競争力を維持するにはCEV補助金を考慮する必要はまだまだあるでしょうが……。

いずれにしても、アリアのスペックを見ていると、日産デイズ・シリーズにBEV仕様が加わるという噂に俄然信ぴょう性が出てきますし、価格や性能面での期待も高まってくるのです。BEVの使用特性は、軽自動車ユーザーの多くが使っているような近距離ユースに向いています。
はたして日産から登場するであろう軽BEVは、どのようなスペックになるのでしょうか。

NISSAN_imk
軽自動車サイズのEVであれば20kWhのバッテリー総電力量で、航続距離200kmもあれば十分だろう

(自動車コラムニスト・山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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