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■高級セダンを厳正テスト! キャデラック CT5 Platinum/トヨタ クラウン RS Advance 2.5HV/アルファロメオ ジュリア ヴェローチェ
●あえてドイツ車を外し、アメ車にイタ車と日本車を比較してみる
「チーム パルクフェルメ」は、利益を優先せず、優良かつ良質な自動車評論を展開することを目指したコンテンツ制作チームです。今回は、サイズ的にはミドルクラス、とはいえ価格は600万円前後という高級セダンの比較試乗をお届けします。
ではアンチドイツセダン比較試乗、イタ車のアルファロメオ ジュリアに続き、次はアメリカからの1台です。
●キャデラックの最新FRセダン
キャデラックCT5は左ハンドルです。右ハンドルの設定はありません。もうこれだけで日本では顧客をだいぶ限定してしまいそうですが、そういうことは気にせずに、観察した印象を綴っていきましょう。
CT5は今年2021年の1月にGMジャパンによって日本市場に投入されました。プラチナム(FR/560万円)とスポーツ(4WD/620万円)の2グレードが用意され、今回の試乗車は前者のプラチナムです。
2リッター直4エンジンはツインスクロールターボを採用。ターボラグを抑えて低回転域から優れたスロットルレスポンスを提供すると謳われており、最高出力は240馬力・最大トルクは1,500〜4,000rpmという広い回転域で350Nmを発揮します。
アイドリングストップに加えて、低負荷時には2気筒を休止するシステムも搭載しています。ATが10速であることと併せて経済性に期待が持てますが、燃費数値は公表されていません。
ドライブモードは4種類。「ツアー」「スポーツ」「アイス&スノー」のほか、シフトプログラムやステアリング応答性などを好みに合わせて個別設定できる「マイモード」があります。
エクステリアは、全ての灯火類にLEDを採用。フロントグリルをはじめ各部のトリムはプラチナムがクローム、スポーツはブラックメッシュ仕上げとなります。
ダッシュボード中央の10インチディスプレイは、直感的なタッチ操作に加え、ロータリーコントローラーやステアリングスイッチでも操作可能で、ナビやオーディオ、各種カメラからの映像も確認できます。
車両各部に設置されたレーダーやカメラ、超音波センサーにより、エマージェンシーブレーキや完全停止も可能なアダプティブクルーズコントロールなどの安全・快適装備に加え、デジタルインナーミラーや前後のシートヒーター、Boseの15スピーカーシステム、ヘッドアップディスプレイ、スマホを充電可能なワイヤレスチャージング機能も標準で備わっています。
GMジャパンがゼンリンデータコムと共同開発した完全通信車載ナビ「クラウドストリーミングナビ」も標準装備。常に最新の地図をストリーミングするためデータ更新が不要です。
●”アメ車”感を取り戻したドライブフィール
CT5のアイドリングは静粛です。走り出しても静かです。ただし静かな中で耳をそば立てれば、その音質は“ザ4気筒”。安手のコンパクトカーにも似た、軟質な唸りで、車格を考えるとこれはちょっと残念です。
しかし意外にも、高回転まで回すと改善します。アクセルペダルをぐっと踏み込むと、ジュリアほどではありませんが硬質で、少しばかりレーシーな音質に変わります。量産性の高い4気筒エンジンを載せることが避けられなかったのでしょう。クルマ全体とエンジン単体のキャラクター設定がやや乖離しているようです。
CT5のステアリングは、意外にも低速域では今回の3車中で最も重めで、走り出しからずっしりとした感触を持ちます。中立付近は意図的にスローにしているようで、初代CTSで持ち込もうとしたヨーロッパ流のダイレクト感は、アメリカ市場に配慮したのか、あえて打ち出すのを控えたようです。
サスペンションも同様に欧州流から米国流にシフトしたようで、高速巡航ではスポーツモードでもふわふわする感じがしました。ただし、そこからさらにペースを上げた領域では感度を増し、帳尻が合ってくる感触はあります。
ジュリアで気になった低速域のドライバビリティは、CT5はよく調律されています。アクセルもブレーキも自然に感じられ、違和感はありません。そのままスピードを上げても、何しろATは10段ですからエンジン回転は幾らも上がりません。80km/hでも100km/hでも約1500rpm、公道を大人しく走る限りそれ以下に保たれます。
ロードノイズも風切音も少なく、そのせいかエンジンノイズがジュリアより耳触りな気もしますが、むろんうるさいというほどではありません。エンジンの音質が、世の「クルマ好き」の好むタイプのものではおそらくない、というだけのことです。
ATは10段もあるだけにステップアップ比が小さく、シフトショックは皆無です。ステアリング裏のパドルでマニュアル操作してもほぼ皆無。重めの操舵力かつスローなギア比のステアリング、そして操作と作用に違和感のないペダル類と合わせて、これはこれでジュリアとは違う、オトナ向けの落ち着いた運転の楽しみを味わうことができます。
セオリー通りにゆっくりステアリングを切ってクルマの動きを最小にできるドライバーには、しっかりとドライビングプレジャーを返してくれるでしょう。このあたりは、GMグループのトップブランドの沽券がかかっているのだと思います。
(文:チーム パルクフェルメ/写真:J.ハイド)
■SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高=4,925×1,895×1,445mm
ホイールベース:2,935mm
車重:1,680kg
駆動方式:FR
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1,997cc
トランスミッション:10速AT
最高出力:240PS(177kW)/5,000rpm
最大トルク:350N・m / 1,500-4,000rpm
サスペンション:(前)マクファーソン式(後)マルチリンク式
タイヤ:(前)245/45R18(後)245/45R18
燃費:不明
価格:560万円