■高回転対応の断面積の大きな吸気ポートを採用したのが新開発NAエンジンのポイント
2021年にフルモデルチェンジを実施するスポーツカー「トヨタGR86/SUBARU BRZ」のプロトタイプにサーキット(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)で試乗することができました。
とはいえ、与えられたのはインアウトを含めて4ラップでした。タイムアタック系の走りはプロレーサーに任せ、自動車コラムニストとしてはワインディング感覚で走ることにしたのです。
もっとも、サーキットという場所ですからアクセルを全開にできる時間はワインディングの比ではなく、GPS測定で140km/hを超える非日常の車速まで味わうことができました。
たとえば、AT車の試乗時にDレンジに入れたまま(スポーツモードを選択)、アクセルを全開にするだけで、最終コーナーの立ち上がりでは78km/hだった車速が、ホームストレート上のブリッジを過ぎたあたりで142km/hに達していました(GPSを使った計測値)。
排気量アップというとトルクは増えてもエンジンは回らなくなるというイメージを持っているかもしれませんが、新型GR86/BRZの搭載する新「FA24」エンジンに関しては排気量を増やした余裕を活かしつつ、2.0Lエンジン以上に軽快に回るユニットに仕上がっています。
とくに6速MTとの組み合わせでは、ファイナルがローギアードになっていることもあり、かつてのハチロクが積んでいたテンロクエンジンと比べても遜色ないほど素早くエンジン回転が上昇する様を味わうことができるのです。とくに5500rpmからバルタイが大きく切り替わったかのようなパンチのある回り方を見せるのは、新型GR86/BRZのチャームポイントといってもいいのではないでしょうか。
排気量を増やしつつ、なぜ気持ちよく回るエンジンに仕上げることができたのでしょうか。
技術的なポイントは「D-4S」と呼ばれる燃料供給システムの採用にあります。先代モデルにおいてもD-4Sは採用されていたので86/BRZファンであれば、よく知っているシステムでしょう。これは燃料噴射装置について、筒内直噴(DI)とポート噴射(PI)を併用するというものです。基本的にはDIを常に使い、状況に応じてPIを使って燃料をシリンダー内に送り込みます。
DIを常に使う理由は、DIを止める状況をつくると、DI用インジェクターの先端が汚れてしまいしっかりとした性能が出せなくなることと、そもそもDIには燃料が気化するときの冷却を利用して燃焼室温度を下げられるので、エンジン性能を上げるのに有利という面があるからです。そして、ピークトルクを出している領域でいえば、PIはDIだけでは燃料噴射量が足りない領域で追加インジェクター的に活用されているといえます。
追加インジェクター的な役割だけであれば、もっと噴射量の多いDI用インジェクターを使えば、必要な燃料を噴射できるのでは? と思うかもしれません。しかし、DIだけでは7000rpmオーバーまで気持ちよく回るエンジンに仕上げることはできません。
なぜなら、GR86/BRZ用のFA24が実現した自然吸気エンジンらしいフィーリングには、十分な空気を送り込むだけの太い通り道(吸気ポート)が必要だからです。
通常、DIだけのエンジンでは吸気ポートを工夫してシリンダー内に強い渦を作ることが必要です。そのためのオーソドックスな手法はポートを絞ったり、バルブを設けたりするというもので、高回転域での吸気効率は悪化します。もっとも、近年の環境重視エンジンでは高回転まで使うことはないので吸気ポートを絞っていても問題にはなりません。
しかしGR86/BRZというスポーツカーのエンジンにおいては高回転まで気持ちよく回ることが商品性の重要なポイントになります。高回転域でのパワーが期待できる太い吸気ポートと、燃料冷却により点火時期を進められるDIはいずれも欠かせない要素といえます。
そして、この組み合わせで不得手となる低回転域での安定した燃焼を実現するためにPIの併用も欠かせないのです。
たとえば、エンジン回転数の低い領域では、DIで噴射した燃料がしっかりと混じることができず点火プラグの辺りだけガソリンの濃い状態が出来てしまいますが、そのときPIで燃料を噴射しておけば、そもそもガソリンと空気を混ぜた混合気をシリンダーが吸い込むので問題なく燃焼させることができるというわけです。つまり太い吸気ポートのネガを消すことができるのです。
GR86/BRZのエンジンが初代に引き続き採用する燃料噴射システム「D-4S」、DIとPIを併用するこの仕組みがあるからこそ、断面積の大きな吸気ポートの採用が可能になり、その吸気ポートがあるからこそ、235馬力を7000rpmで発生する、いまどき貴重なスポーツカー用自然吸気エンジンを生み出すことができたのです。