まるでサハラ砂漠をプリウスで越えた興奮!by寺田昌弘【水素満タンMIRAIで1000kmチャレンジ】

「日本を代表する自動車メーカーであるトヨタの水素燃料電池車MIRAIで、水素満タンでの航続距離最長記録1003kmをフランスチームが打ち立てたのは日本人としてクヤシイ!」という自動車ジャーナリスト国沢光宏さんの声がけにより、結成された世界記録に挑む日本チーム。結果は見事1040.5kmと世界記録を更新し、豊田章男さんからも感謝状もいただきましたが、およそ1000kmを走るため各人100kmほどを担当した10人からなるドライバーによる、後日談エッセイ。今回はスタートドライバー国沢光宏さんからバトンを受け取った、第2スティント担当の寺田昌弘さんです。

■HEVのプリウスとは違うFCEVのエコラン

●国沢さんから受け取った時点でMIRAIの燃費は驚異の209km/kg!

1997年にパリダカールラリーに参戦してから、冒険の扉を開け、クルマで未知なるものへの挑戦することが大好きになりました。1999年から自動車環境評論家の横田紀一郎さんのもと、トヨタ・プリウスとともに北米大陸を横断したり、欧州8ヵ国を走りながらエココンシャスなヒト、コト、モノに出会う旅に出ました。

2000年秋、横田さんから「21世紀の自動車史に新たな轍をつけないか」とハイブリッドカーによるフランス・パリからセネガル・ダカールまで、世界初のサハラ砂漠縦断の旅に出ました。当時は今までのICEと比べてHEVの耐久性が不安といった声があり、ならばプリウスでサハラ砂漠を越えようと。無事走破し、HEVの信頼性、耐久性の高さを証明しました。

MIRAIで1000kmチャレンジスタート時の寺田昌弘さん
MIRAIで1000kmチャレンジスタート時の寺田昌弘さん

そして今回、モータージャーナリストの国沢光宏さんが指し示してくれた新たな冒険の扉を、10人のドライバーとサポートメンバーとともに開けて、前人未踏の領域まで挑戦しました。私はプリウスでサハラ砂漠を越えたあのときの興奮が蘇ってきました。ただ不安は、FCEVの経験がないこと。そこで当日ホテルからスタート地点となる水素ステーションまで、国沢さんに横乗りしていただき、FCEVならではのエコランの基本を教わりながらドライブすると、HEVのエコランの方法と異なることがいくつもありました。

寺田昌弘さんドライブがスタートした1000kmチャレンジのMIRAI
寺田昌弘さんドライブがスタートした1000kmチャレンジのMIRAI

国沢さんのドライビングで福島・いわき市をスタート。私は茨城・大洗町から海沿いの国道、県道を走り、利根川を越えて千葉・匝瑳市まで約100kmの第2スティントを担当。国沢さんが第1スティントを終え、大洗に到着したとき、水素消費は209km/kgでした。乗り換えで停車しているときに207km/kgになるくらいギリギリにエコランに徹した驚異的な記録です。国沢さんからミライを託されたとき、「とにかく200km/kg以上で走れば、記録更新ペースだから」と教えてもらい、いざ出発。

●エコランが大人のホビーとしても成り立っていく可能性

寺田昌弘さんドライブで快調に走る1000kmチャレンジのMIRAI
寺田昌弘さんドライブで快調に走る1000kmチャレンジのMIRAI

信号が少なく、交通量も少ない海沿いの国道を南下し、205km/kgくらいで順調に走っていましたが、鹿嶋市、神栖市はどうしても中心街を通過しなければならず、何度も信号でストップアンドゴーを繰り返すことになりました。夕方で帰宅ラッシュと重なり交通量も増え、信号のかなり手前からアクセルを抜いて滑走することもできず、交通の流れに合わせていくとみるみるうちに数値が悪くなり、200km/kgを切るまでになってしまいました。

寺田昌弘さんドライブで1000kmチャレンジMIRAIは203km/kgをキープ
寺田昌弘さんドライブで1000kmチャレンジMIRAIは203km/kgでスティント終了

このままではワールドレコードを超えることが不可能となってしまうため、利根川を越え千葉・銚子市を抜けてからさらにエコランに集中しました。自分の走るルートを前日に下見しておいたおかげで、ルートの起伏や信号など道路事情はわかっていたので、アクセルをできるだけ一定に保ったり、滑走したりして、クリッカー・小林編集長の待つ乗り換えポイントへ。なんとか203km/kgまで挽回し、タスキを渡すことができてひと安心。

MIRAI1000kmチャレンジ担当区間を終了し一安心の寺田さん
MIRAI1000kmチャレンジ担当区間を終了し一安心の寺田さん

その後も自分のランドクルーザーでミライを追いかけながら走り、雨で抵抗が増え、過酷な状況の中、ベテランモータージャーナリストの方々のドライビングで新記録が現実的なものとなり、豊洲のゴールへ向けて、ミライがレインボーブリッジを渡ってくると聞いた時には、新たなモビリティの明日への架け橋を越えてくるように思えました。

フランスのチームが1003kmという記録を出してくれたから、日本で1040.5kmという世界新記録を樹立できました。今後は北米などほかの大陸でこの記録に挑戦してくれるチームが現れることを期待しています。こういったエコランがこれからのモビリティと大人の楽しむホビーのひとつになり、そこで得た情報がさらにモビリティの進化に役立つことを願うばかりです。

(文:寺田 昌弘/写真:小林 和久)

寺田昌弘
寺田昌弘

●寺田 昌弘(てらだまさひろ)
東京生まれ。ダカールラリーをはじめ国際クロスカントリーラリーに数多く参戦し、プリウスによる環境体感の旅で北米大陸横断、欧州8ヵ国、豪州、サハラ砂漠、ゴビ砂漠走破など、クルマに乗って5大陸、約50ヵ国を旅する。世界の道を知るだけでなく、ヨットでタヒチやセーシェル、地中海など洋上も旅し、地球サイズでの体験を文章や写真で伝える。また国際感覚あふれるイベントディレクター、MCとしても活躍。国際スポーツ記者協会会員。