■レギュラーガソリンで圧縮比14.0を実現。ノッキングを回避し、レスポンスも確保できた背景にはSKYACTIV-Xの経験が生きている
マツダのコンパクトカー「MAZDA2」が商品改良を行ないました。
近年のMAZDA2のラインナップではカタログモデルより特別仕様車がメインという状態になっていますが、今回の商品改良においても「Sunlit Citrus」という新しい特別仕様車が生まれました。
名前の通り、シトラスをさし色とした爽やかな仕上がりになっています。ある意味で、モデルとして熟成してきたことを感じさせる内容ともいえます。
しかし、今回の商品改良ではSKYACTIV-Gと呼ぶガソリンエンジンについても大改良を施しています。具体的には、これまで12.0だった圧縮比を14.0に高めています。とはいえ、以前からMAZDA2に興味があるようなファンにとっては、14.0という圧縮比は驚くものではないかもしれません。
というのも、モータースポーツ用のグレード「15MB」には、デミオ時代から圧縮比14.0のハイパフォーマンス系ガソリンエンジンが搭載されていたからです。ただし15MBに搭載されるエンジンはハイオクガソリン仕様でした。
一方で、今回の商品改良で登場した高圧縮比SKYACTIV-Gはレギュラーガソリン仕様で、幅広いグレードに搭載されるものとなっています。
レギュラーガソリンで高圧縮比を実現するときにハードルとなってくるのは、ノッキング(異常燃焼)です。ノッキングはそのまま放置しておけばエンジンの寿命を短くしますし、ノッキングに対応して点火時期を遅くする(リタード)ような制御をすると、結果としてリアルワールドでの燃費が改善しないということになりかねません。リタード制御を前提にカタログ上の圧縮比を高めるだけではナンセンスなのです。
では、MAZDA2が新採用した高圧縮比エンジンは、どのような技術的トピックスがあるのでしょうか。
それが、独自技術の「Diagonal Vortex Combustion(ダイアグナル・ボーテックス・コンバスチョン:斜め渦燃焼)」です。マツダが詳細を公表していないので、その内容については公開されている図版から予想するしかないのですが、「e-SKYACTIV X(イー・スカイアクティブ エックス)の開発で培ったエンジン制御技術」を活用しているというマツダの発表がヒントになります。
あらためて整理すると、従来のSKYACTIV-Gエンジンについてはピストンが往復しているシリンダー内でタンブル流と呼ばれる縦向きの渦を作ることで吸い込んだ空気と筒内直噴したガソリンを混ぜ合わせるというのが基本でした。
一方で、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)を採用したSKYACTIV-Xでは、圧縮着火領域ではスワール流(横方向の渦)を利用しつつ、スパークプラグで点火して燃焼させる領域ではタンブル流に変化させるという工夫がなされています。
SPCCIエンジンでは「ダイアグナル・タンブル」という言葉で、そうした独自の混合気の渦を表現しています。そのポイントはピストン冠面形状にあるというのがマツダの発表でした。
また、SPCCIでのタンブル・スワール流の切り替えを実現するためにSKYACTIV-Xでは吸気ポートにSCV(スワールコントロールバルブ)を備えることで渦の流れを制御しているというのも特徴です。
MAZDA2の高圧縮SKYACTIV-Gについては、車両価格帯を考えるとそこまで凝ったメカニズムを採用するのは現実的ではないでしょう。はたして、どのような仕組みによって「斜め渦燃焼」を実現しているのかが気になるのではないでしょうか。
そこで注目したいのが、マツダが公表している斜め渦燃焼についてのイメージ図です。
ざっと左側から見ていくと、まず吸気行程で斜め渦を作っていますから、ポート形状などに工夫があると想像できます。つぎのステップでは斜め渦の軸が明確になっていることが見て取れます。つまりピストン冠面のキャビティ形状(へこみ)がダイアグナル・ボーテックス・コンバスチョン専用に作り込まれていることも予想できるのです。
そうして圧縮行程ではその斜め渦の軸に対して、再度、燃料を噴霧しています。このようにしてスパークプラグの周辺に濃い混合気を集めることでノッキングを起こさずにしっかり燃焼させることができるという一連の流れを、このイメージ図は示しているといえます。
高圧縮エンジンは従来のエンジンと比べて110馬力という最高出力の数値自体は変わっていません。独自の燃焼技術は燃費改善に振られています。
実際、WLTCモード値をFF・AT車で比較すると、従来型エンジン搭載車が19.0km/Lなのに対して、高圧縮エンジン搭載車では20.3km/Lと、約6.8%も向上しています。はたして、その違いはリアルワールドでも感じることができるのでしょうか。そうした現実的なユーザーメリットが、これからメディアによる比較テストなどで明らかになっていくことに期待しましょう。