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■VWグループの高級EVを徹底比較! アウディe-tronスポーツバック55クワトロ & ポルシェ・タイカン4S
●重いけど、それを意識させないEVたち
VWグループ最新EV2台の比較試乗は、ここまでもっぱら運転した感覚を書いてきました。両車ともEVならではのメリットを存分に携えており、深い感銘を受けました。
重いバッテリーを積むからボディはガッチリと作る必要があり、それを床下に敷き詰めるように積むから重心が低くなり、内燃機関の騒音がなくなり静かになるから他の騒音に気を配り、結果として剛性感が高く、乗り心地がよく、静粛性に優れ、ロールやピッチングが少なく、良好なハンドリングをe-tronもタイカンも実現しています。これらはとくに全高の低いタイカンにおいて顕著でした。
居住性について、2台の特徴を説明します。両車とも全長5m・全幅2mに迫る巨体で、e-tronはそれに相応しい室内空間を持っています。
前後席とも広々としており、SUVなので当たり前ですが頭上の余裕もたっぷりです。センタートンネルが事実上ないのもEVならでは。ただし後席中央にはセンターコンソールの後端がやや張り出しており、そこの住人は少しガニ股で座る必要があります。
エアコンの吹き出し口と小物入れのようですが、せっかくEVゆえセンタートンネルがないのですから、もったいない気がします。
●タイカンのライバルは911か?
タイカンは体躯こそビッグセダンではあるものの、それに相応しい室内スペースは持ち合わせていません。身長172cmのドライバーが運転席でポジションを合わせて後席に移ると、膝前は拳1.5個くらい、頭上は手のひら1枚がやっとです。
乗車定員4名に対しても最低限のスペースと言えるでしょう。「911よりは現実的な後席を持つポルシェのスポーツカー」というのが正しい捉え方なんだと思います。なんだ最高じゃないですか。
タイカンについてもうひとつ印象深かったのは、センターコンソールのタッチパネルモニターに触感があることです。モニターに映し出された各種スイッチを押すと、ストロークがあることに気づきます。運転中はブラインドタッチが多くならざるを得ませんから、自動車のタッチパネルには必須の機構と思われます。業界標準となることを望みます。
●話題のドアミラーに19万円の価値はあるか?
e-tronの「バーチャルエクステリアミラー」についても触れておきましょう。
通常のドアミラーに代えて小型カメラを設置し、モニターに後方視界を映すシステムです。すでにレクサスESに採用されていますが、あちらが後付けモニター風であるのに対し、e-tronはAピラー付け根下部のドアトリムにスマートに埋め込まれています。
モニター画像を見るわけですからドライバーの背丈は関係ないはずですが、好みに合わせるためかモニターをタッチ&スライドすることで画角を調整できます。画像は鮮明で、とくにトンネル内など暗いところではエフェクトが掛かるようで、物理鏡より明るく見えます。
ライト点灯を怠る不届き者の捕捉もバッチリです。車外に突き出たカメラは物理ミラーより小型ですから、空気抵抗低減による電費向上、また風切音の減少にも効果大でしょう。静粛性に優れるこのクルマではなおさらです。
●バーチャルエクステリアミラーのデメリット
一方でデメリットもあります。左右に突き出したカメラの折り畳みが手動なのです。折り畳まずとも物理鏡車の折り畳んだ状態より出っ張らないようですが、狭い日本のパーキングで細いツノが出っ張ったままというのは、心理的なストレスにはなるでしょう。また、車線変更や後退時などにカメラの方に目が行って一瞬焦ることもありました。
3日も乗れば慣れると思いますが(事実慣れましたが)、物理鏡車を並行所有している場合は厄介かもしれません。
加えて、物理鏡と異なり結像点がモニター面になるので、高齢になるほど焦点距離が瞬時に合わなくて辛くなりますね。逆側のサイドウインドウから西陽が差し込むシチュエーションでは、モニター表面が白く反射して一瞬見えなくなることもありました。総じて19万円のエクストラコストを払う価値があるとは思えませんでした。
自動運転の未来からこぼれ落ちてきた、これは一滴のしずくのようなものと理解するといいでしょう。新し物好きかつ、クルマはこれ1台しか運転しない、という方にのみおすすめしておきます。
●電費を測ってみた
カタログ上の一充電走行距離(WLTCモード)はe-tronスポーツバック・ファーストエディションで405km、タイカン4Sは前述のパフォーマンスバッテリープラスをオプション装着してあり463kmです。むろん内燃機関車の燃費と同様にこれはカタログ数値ですから、実際はなかなかここまで走れません。
加えて、EVは一般に急速充電では満充電にはならず、8割程度でストップします。バッテリー保護のためです。8割だと航続距離は300km程度ということになり、充電施設もまだガソリンスタンドほど多くありませんから、心許ない数値と言えるでしょう。
よって家庭に充電器を設置することが現実的な選択となります。実際、EVを買う顧客の7〜8割ほどは家庭用充電器を一緒に購入しているようです。
2台を平均時速26〜28kmでおよそ80km並走させ、オンボードコンピューターに表示されたアウディの電力消費率は3.8km/kWh、ポルシェのそれは4.4km/kWhでした。車重と前面投影面積の違いが数字に正直に反映された結果といえるでしょう。
●タイカンを選べる人のほうが貴重かも
VWグループの異種格闘技戦は、いずれもブランドの総力を注いだ素晴らしい作品でした。タイカンにはほんの少し走っただけで、自動車を走らせるのはこれほどまでに心地よいものなのかと思わせてくれるドライビングプレジャーがありました。e-tronからは、アウディがEVという新しい武器を得てサイズや価格の制約が少ないビッグサイズSUVを作ると、ヒトとモノを運ぶのにかくも素晴らしい速さと快適性を実現できるのか、という新境地を感じることができました。
地球の未来に想いを巡らせずとも、単純に運転が楽しいか、という基準で見てみても、いずれも非常に魅力的な自動車です。e-tronを選べる人の数は限られるでしょうが、タイカンのようなディメンションを持つ自動車を選択できる人の数はもっと限られます。
人生は移りゆくものなので、そのときのライフスタイルに合わせて選ぶのが良いでしょう。
単純に自動車好き、運転好きの心を満足させることを優先するならタイカンです。もしもタイカンを手にすることができる状況にあるなら、その人の自動車人生はそこで頂点に達すると言っても過言ではありません。
EVのメリットは脱炭素ばかりではありません。自動車の運動性能に新地平をもたらしました。しかしこれは今から数年だけのメリットなのかもしれません。バッテリーの開発が進んで高効率と軽量化が達成されると、逆に今のようなハンドリングや乗り心地は失われるのかもしれないのですから。
(文:チーム パルクフェルメ/写真:J.ハイド)
■SPECIFICATIONS
●アウディe-tron スポーツバック55クワトロ・ファーストエディション(バーチャルエクステリアミラー仕様車)
全長×全幅×全高:4,900×1,935×1,615mm
ホイールベース:2,930mm
車重:2,560kg
駆動方式:4WD
モーター:EAS-EAW
トランスミッション:1速固定
最高出力:408PS(300kW)
一充電走行距離(WLTCモード):405km
バッテリー総電力量:95kWh
サスペンション 前/後:ウィッシュボーン式エアスプリング/ウィッシュボーン式エアスプリング
タイヤ 前/後:265/45R21/265/45R21
交流電力量消費率:245Wh/km(WLTCモード)
価格:1346万円/テスト車両=1346万円
●ポルシェ・タイカン4S
全長×全幅×全高:4,963×1,966×1,379mm
ホイールベース:2,900mm
車重:2,280kg
駆動方式:4WD
モーター:EBG-EBF
トランスミッション:フロントアクスル1速/リヤアクスル2速
最高出力:490PS(360kW)ローンチコントロール時オーバーブースト最高出力:571PS(420kW)
ローンチコントロール時オーバーブースト最大トルク:650N・m
一充電走行距離(WLTPモード):463km
バッテリー総電力量:93.4kWh
サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン式エアスプリング/マルチリンク式エアスプリング
タイヤ 前/後:245/40R20/285/40R20
電力消費率:25.6kwh/100km(複合)
価格:1448万1000円/テスト車両=1919万5998円