初作にしてEVスポーツセダンの理想型を実現!?:ポルシェ・タイカン4S 第1回・その3【プレミアムカー厳正テスト】

■VWグループの高級EVを徹底比較!アウディe-tronスポーツバック55クワトロ & ポルシェ・タイカン4S

VWグループ最新EVの比較試乗、2台目はポルシェが“フル電動スポーツカー”と謳うタイカンです。

●571psのパフォーマンスを我が手に

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前ダブルウィッシュボーン、後マルチリンクのエアサスペンションは、車高をドライビングモードと速度に応じて変化させる
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“立体ガラス文字“のポルシェロゴ。その上のリヤスポイラーは速度やドライビングモードに応じて上昇する

試乗車のタイカン4Sは、上級グレードのターボやターボSと同じく前後2モーターの4WDであり、e-tronの1速固定式と異なり、リアアクスルに2段トランスミッションを搭載します。

1速は力強い加速に、2速は最高速に寄与し、通常は2速発進となるようです。

標準パワーパックは、最高出力つまりローンチコントロール時で390kW(530ps)/640Nm(65.3kg/m)でバッテリー容量は79.2kWhです。“パフォーマンスバッテリープラス”なる約100万円のオプションを装着すると93.4kWhとなり、これに伴い最高出力も向上し、420kW(571ps)/650Nm(66.3kg/m)となります。試乗車はこの仕様でした。

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オプションのパッセンジャーディスプレイ(17万1000円)もあり、ボタンが少ないすっきりとした室内

e-tronから乗り換えると、全高が235mmも低いのでAピラーとルーフの境目あたりに髪を擦らせながら腰を折って乗り込みます。しかしいったん乗り込んでさえしまえば、そこはタイトでぴったりフィットな空間。ウエストラインも低く視界は良好です。

この感じで思い出したのは、ひと昔前のジャガーXJ。2003年まで販売されていたX308系までのモデルです。異なるのは、ジャガーXJが太いフロアトンネルに押されて人間が左右端に座るのに対し、タイカンは車両中央に寄って座ること。全幅が1966mmもあるのに助手席の住人はだいぶ近いです。

ダッシュボードのデザインは911に似た水平基調であっさりしたものですが、すべてレザートリムされていて、これ見よがしではないものの高級感はあります。

シフトスイッチはセンターコンソールではなくメーターパネル左下の垂直面からドライバーに向かって突き出ています。パームレストのあるe-tronに比べて実に素っ気ない形状で、操作性も劣りますが、R_N_Dの切替えでしかないので、事務的なものとして割り切っているのでしょう。

●運転がラク

小ぶりなステアリングを操って街に出ます。小径ながらもその操舵力は一部の日本車並みにとても軽く、眼前に広がるフェンダーの峰とも相まって狙ったラインを正確にトレースできます。スピードを上げるにつれて手応えが少しずつ増しますが、それでも軽めです。

自動車インプレッションで「ステアリングはもう少し重いほうが……」というのをよく見ますが、タイカンにそのフレーズは無用です。ロードホールディングが素晴らしく、コーナリング中に路面不整に遭っても一向に進路を乱す気配がありません。キックバックもほぼ皆無。ならばステアリングが重い必要もないでしょう。

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911などと同じヘッドレスト一体型のシート。乗車定員は4人

少し飛ばしたくらいではアンダーステアもオーバーステアも感じられず、オン・ザ・レールのコーナリングに終始します。ロールやピッチングといった車体の揺らぎがごく少ないのは、3チャンバーの電子制御エアサスペンションの見事な仕事のおかげでしょうが、e-tronより低くかつ車体の中央寄りに座っていることも効いていると思います。

静粛性も良好です。二重ラミネートガラスを奢られるe-tronほどではありませんが、そこいらのスポーツカーを軽く蹴散らす運動性能の持ち主であることが信じられないほど静粛です。内燃機関車の高級ビッグサルーン並みか、それ以上と言っていいでしょう。

●ハンドリングと乗り心地の驚異的な両立

さらに驚いたのは乗り心地です。総合的にe-tronをも上回り、喩えようもないほど重厚でフラットです。首都高速の継ぎ目も路面の不正箇所も、トンっと一瞬で減衰してくれます。何万点にも及ぶ部品の全てが少しも振幅を繰り返さない、そんな感じです。e-tronと乗り比べれば微かに路面のざらつきを感じさせますが、つまり絨毯が少し薄い感じですが、それでも絨毯はきちんと敷いてあります。極めて高いレベルでの局所的な優劣に過ぎないということです。

良好な乗り心地とハンドリングは両立しない、というのが旧来の自動車評論の常識ですが、タイカンはそれを覆しました。重いバッテリーを床下に敷き詰めることで得られるEVならではの低重心に対し、背の高い内燃機関を積む既存車ではもはやハンドリングも乗り心地も物理的に太刀打ちできないということでしょうか。

高速道路の入り口から、一瞬だけ試しにフルスロットルを試みてみました。アクセルを床まで踏み込むと、すぐさまリアの2速トランスミッションが切り替わります。変速動作はきわめて俊敏で、レーシングカーのドグミッションのような感触です。ゴンっとボディを揺らしますが、何しろ剛性感に満ち溢れているので不快ではありません。むしろ一種の快感です。

カタログデータによる0-100km/h加速は4秒だそうで、0km/hから鷲掴みにするように強烈な加速を体験できます。F1マシンですら2秒そこそこだそうですから、公道を走る一般市販車としては余りあるほどの加速性能と言っていいでしょう。

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タイアはミシュラン・パイロットスポーツ4。サイズは前245/45R20、後285/40R20

小さなコーナーで少し強引なコーナリングも試してみました。短いストロークに対し反応の正確なブレーキペダルで慎重に速度を調整し、外側の壁が怖いのでやや早めにステアリングを切り込みます。すると一瞬だけ、コーナーの中ほどでわずかにフロントタイヤの滑る感触を感じました。

しかしそれは、滑るというよりタイヤのトレッドパターンが軋みながら、あるいはブロックパターンがバトンリレーでもしながら踏ん張っているような感触、と言ったほうがいいのかもしれません。タイヤが懸命に踏ん張っている最中に、電子制御のモーターがスマートに手助けしているのでしょう。全長5m全幅2m迫る巨体でありながら、結局は難なくコーナーをクリアしていきました。

もはや一般公道はおろかサーキットに持ち込んで振り回しても、このクルマの限界性能を観察するのは容易ではないと思われます。

●2000万円は高くない

ポルシェはEV初作にして理想的なスポーツセダンを作ってきました。たとえば内燃機関ポルシェと0-100km/h加速で対比させるなら、ライバルはパナメーラGTSになります。

剛性の高いボディにガッチリ精緻に組み付けられた操舵系と足回り、そして静粛なうえに低級音を一切感知させないインテリア。これで1500万円弱というならかなりのお買い得品です。満鑑飾のオプションを含めても2000万円という価格は、ちっとも高くないと思いました。

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ラゲッジスペースは前に81リッター、後に407リッターを確保

(文:チーム パルクフェルメ/写真:J.ハイド)

■SPECIFICATIONS

●ポルシェ・タイカン4S
全長×全幅×全高:4,963×1,966×1,379mm
ホイールベース:2,900mm
車重:2,280kg
駆動方式:4WD
モーター:EBG-EBF
トランスミッション:フロントアクスル1速/リヤアクスル2速
最高出力:490PS(360kW)ローンチコントロール時オーバーブースト最高出力:571PS(420kW)
ローンチコントロール時オーバーブースト最大トルク:650N・m
一充電走行距離(WLTPモード):463km
バッテリー総電力量:93.4kWh
サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン式エアスプリング/マルチリンク式エアスプリング
タイヤ 前/後:245/40R20/285/40R20
電力消費率:25.6kwh/100km(複合)
価格:1448万1000円/テスト車両=1919万5998円