新型ヴェゼルのシンプルかつスリークなデザインは、e:HEVらしさをイメージ

■ホンダのSUVっぽい、かつフレームレスグリルでe:HEVらしいシンプルな顔に変化!

日産のジュークが開拓したコンパクトSUVブームの波に乗ってヒット作となった初代ヴェゼル。7年半ぶりに発表された2代目は、大きくイメージを変えての登場となりました。その意図はどこにあるのか? さっそく担当デザイナーのおふたりに話を聞きました。

ヴェゼル・メイン
先代と大きく異なるクーペルックなスタイル

── まず初めに。「N-WGN」や「フィット」「Honda e」など、最近のホンダ車のデザインは非常にシンプルな方向に進んでいますが、新型ヴェゼルもその流れにあると言えますか?

そうですね。いずれのクルマも人の生活に寄り添い、心を豊かにするコンセプトのもと、よりシンプルな考えや発想をベースにしています。もちろん、シンプルと言っても単に質素ということでなく、デザインの本質を突き詰めることで、ノイズレスなスタイルやあるべきパッケージを目指しています。

── 新型のデザイン、造形におけるテーマは何か設定しましたか?

いえ、特別なテーマはなくて、開発のグランドコンセプトである「AMP UP YOUR LIFE」から、シンプルでありながら動きを感じ、シームレスかつエキサイティングなサーフェスといった方向性を発想しました。たとえば、単なる水平基調ではなく、面の変化を感じさせ、しかも運転のしやすさも兼ね備えたスタイルですね。

ヴェゼル・サイド
水平基調のスタイルは初代HR-Vのイメージも

── 大きく寝かせたテールゲートをはじめとする、クーペライクなパッケージの狙いはどこにありましたか?

先代はキャブフォワードのモノボリュームスタイルでしたが、新型はグローバルでは「HR-V」の3代目として展開する中で、競合車に対しよりクルマらしいスタンスや、後席の快適性などユーティリティの確保を狙ったのがひとつ。

また、90年代の「アコード」に象徴されるような、昔のホンダのパッケージのよさに戻ろうというテーマもあったんです。

── なるほど、前後に伸びやかなスタイルですね。では前から各パートを見て行きます。フロントではN-WGNやフィットとは異なる切れ長のランプと、段差をつけたグリルの形状がユニークですね。

ホンダには「CR-V」や「BR-V」など、アジアを中心にグローバルに展開するSUV群がありますので、それらとのイメージの共有がシャープな顔つきの理由ですね。また、グリルは低く薄いホンダらしい顔を表現するため、上部で薄く水平なイメージを出し、それを下部で支える造形としています。

ヴェゼル・グリル
2段構造のグリルは低く薄いホンダの顔を意識

── ボディ同色のグリルが話題ですが、同時にグリルの「縁」がないのが特徴的ですね。

はい、『フレームレスグリル』として、比較的初期の段階から提案されていたものです。ヴェゼルはEVではありませんが、e:HEVの搭載など大きくは電動化の方向にありますから、従来のパワーの象徴としてのグリルに対し、よりクリーンでシームレスな表情を目指したわけです。

── サイドビューでは、特徴的な水平のキャラクターラインの上下でかなり表情が異なっています。

そうですね。まず、キャラクターラインの位置を高くすることで重心を上げ、街中で際立つ個性を与えたかった。そのラインは、前後ランプの内部までつながっていて勢いを出しています。

下半身のドア面は従来「線」で見せていましたが、長いスパンの大きな面とすることで、必要以上にアグレッシブにならず、ユーザーとの親和性を狙っているのです。

ヴェゼル・ホイール
グラフィカルなホイールアーチは意図的な表現

── 一方で、ホイールアーチに強いラインを入れたのはなぜですか? また、プロテクターを艶のある素材にしたワケは?

コンパクトSUVとして、全幅を1790mmで抑える目的があります。その中でミニマムな表情を出すために、一定のグラフィック的手法も使おうと。また、SUVといってもヴェゼルは街乗りがメインなので、プロテクターはシンプルでありつつ質感の高さを出したかった。

ヴェゼル・リアナナメ
大きく傾斜したテールゲートが特徴のリアビュー

── 要素の少ないリアビューでは、横一文字のランプとこれに沿ってカットされた面が目立ちますね。

基本的にはフロントと同じ考え方ですが、さらに立体感のある造形としています。また、先代のリア回りはミニバン的でしたが、リアゲートを傾斜させることでヒンジを前方に置き、使いやすさとクーペルックの両立を図っています。

ヴェゼル・リア
横一文字のランプとカットされた面

── 次にインテリアです。デザインのテーマはどこにありますか?

やはりグランドコンセプトに沿っていて、そこから『信頼』『美しさ』『気楽な楽しさ』というキーワードを設けました。信頼は厚いパッドで強さと包まれ感を、美しさは統一されたスイッチ類の表情や、短いリーチによる操作など乗員の所作を、気楽な楽しさではパノラマルーフによる光の採り込みを目指しました。

ヴェゼル・インテリア
エクステリア同様水平基調のシンプルな内装

── シンプルという点もエクステリアと同じ発想でしょうか?

そうですね。運転のしやすさから水平基調とし、乗員が無意識に高さの「基準点」を感じるよう工夫しています。たとえば、インパネからドアの内張りまで金属のモールが置かれていますが、これはパノラマルーフの光を受ける役割を持ちつつ、同時に基準点を感じさせる役目もあるんですね。

── 無意識の基準点とは面白い発想ですね。本日はありがとうございました。

ヴェゼル・デザイナー
ヴェゼル・デザイナーのおふたり

【語る人】
株式会社本田技術研究所 デザインセンター
オートモービルデザイン開発室
BEVスタジオ チーフエンジニア
阿子島 大輔氏(写真左)

デザイン室 プロダクトデザインスタジオ
研究員 デザイナー
廣田 貴士氏(写真右)

【インタビュー】
すぎもと たかよし

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
続きを見る
閉じる