■電気自動車の普及に急速充電インフラ整備を求めるのは間違い?
カーボンニュートラルやゼロエミッションという言葉が飛び交う昨今、電動化時代に向けて日産自動車の次世代を担う新設計の電気自動車「アリア」の先行予約が始まりました。

実際に発売されるのは2022年冬。グレードによっては一充電航続距離が650kmに達しており、もっともパワフルなグレードでは290kW・600Nmという高性能な電気自動車です。
そんなアリアのデビューエディションともいえる「リミテッド」のお披露目と、先行予約から購入までをサポートするデジタルトランスフォーメーションについてのメディア向け説明会が開催されました。
世界的にも電気自動車の量産・販売経験の豊富な日産自動車。今回のメインプレゼンターである星野朝子 副社長も愛車リーフと共に電気自動車ライフを送っているということです。
そんな星野副社長がアリアの特別仕様車「アリアリミテッド」の発表に際して、電気自動車の充電について、いくつか興味深い発言をしていました。
結論からいえば、電気自動車の普及に対して急速充電インフラの整備はそれほど影響しないという主旨でした。

電気自動車を日常的に利用していないメディア関係者や、少し乗ったことがあるくらいの自動車ユーザーの認識としては、電気自動車の普及と急速充電インフラの整備は切っても切れない関係にあると信じているかもしれませんが、そうではありません。
質疑応答では、星野副社長から「急速充電インフラは高速道路などを中心に充実しており、高速道路で移動するのであれば、どこに行くにも困ることは少なくなっている」といった発言もありました。すでに十分に整備されているという認識です。
もちろん、電気自動車の普及が進めば、急速充電待ちの渋滞が酷くなってしまうことが容易に予想されますからインフラの整備はまだまだ進める必要があるという見解も示しました。
なぜ、いまの急速充電インフラでも電気自動車の普及に対しては十分であるといった内容の発言を星野副社長がしたのかといえば、電気自動車というのは本質的には、家庭や職場での駐車場で普通充電をすることで必要十分な航続距離が確保できるからです。
日常的にリーフを使っているという星野副社長からは「数週間に一度、自宅で一晩充電すれば十分です」といった発言もありました。

たとえばバッテリー総電力量が40kWhのリーフであれば実際の一充電航続距離が250~300kmはあるでしょう。つまり月間500~600kmの走行であれば、月に二度ほど満充電にすれば事足りてしまうのです。
さらにバッテリーの充電率を気にせず、帰宅したら普通充電につなぐという行為をルーティンにすれば、毎朝満充電の愛車で出かけることができ、航続距離を気にすることは、ほぼなくなります。
急速充電インフラありきの質問を繰り返すマスコミに対して、星野副社長からは「パブリックな充電器の重要性を減らしていかないといけない。どのような充電ネットワークがインフラとしてベストなのか社会で考えていかなければいけない」といった旨の回答もありました。家庭や職場における普通充電の整備こそ一番に進めるべきなのです。
日本では電気自動車をエンジン車の代替と考えるばかりに、ガソリンスタンドの代わりに急速充電インフラが必要になると認識しているユーザーも少なくないようですが、それは間違っています。
急速充電というのはロスも大きく、多くの場合でバッテリーへの負担が大きく、寿命を縮めます。さらに急速充電は10~30分程度の待ち時間も発生します。はっきり言って、急速充電だけで電気自動車を走らせようというのは筋悪です。
本来は、家で休んでいたり、職場で仕事をしている間に充電が進む普通充電がスタンダードであって、急速充電は出先でのエマージェンシー的という使い方こそ正しいといえるのでしょう。
電気自動車が本格的に普及していくためには、そうした認識が自動車ユーザーの間に広がることも必要ではないでしょうか。