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■ロールス・ロイスの超特別プログラム「コーチビルド」とは?
●史上最高級はお客様の夢を実現する超わがままプログラムにより誕生
世界最高級のクルマといえば「ロールス・ロイス」。
そのネームバリューは絶大で、あらゆる高級品が「○○のロールス・ロイス」と例えられるほど。
そのロールス・ロイス史上、最高級の特注プログラム「ロールス・ロイス コーチビルド」によって作られた3台のクルマのうち、1台のクルマが発表されました。
その名は「ボート・テイル」。
ロールス・ロイスはこれまでも「ビスポーク」という特別な顧客のためのプログラムがありましたが、それを凌ぐのが「コーチビルド」。
コンセプトは「ロールス・ロイス コーチビルドに限界はない」。
リアル「あなたの夢、叶えたろか」的な。「世界一の変態カー」的な(褒めています!笑)。
さらに目的地に行くためのクルマではなく、クルマが目的地という、これぞラグジュアリーの極み。
●ご注文は「今までに見たことのないロールス・ロイスを!」
ロールス・ロイスがこの特別な1台を作るために費やした年月は、4年。お客様のパーソナルな背景や、作られたクルマが存在する広い文化的な背景などまで考慮して作られた1台で、1813個もの新しい部品を使ったそう。
2017年、ロールス・ロイスは同じように「スウェップ・テイル」を作り、それが大成功。それが「コーチビルド」部門の誕生となりました。
今回、賛同したパトロン(オーナー)は3名。その3名の共通点が船舶だったことから、「ボート・テイル」となったそう。シャシー(車台)には帆船の船体「ボート・テール・タイポロジー(類型論)」を現在の手法で表現。
そして今回、オーナーからのリクエストは、「今までに見たことのないものを作って欲しい」とのこと。
まずは手書きでデザインを書き、粘土で実物大のクレイモデルを製作。それをデジタルでリマスターし、雄型を作ってアルミニウムの板で覆ってハンマーで成形。伝統の技術と工芸でアルミニウムのボディを磨くという、すべて手作業で行います。さすがの匠技で、切れ目のないパネルやドラマチックに湾曲した美しいフォルムを生み出します。
このクルマのパトロン(オーナー)は、1932年製の「ロールス・ロイス ボート・テイル」も所有していて、新しい「ボート・テイル」に合わせてレストアをしています。
全長は約5.8m。ロールス・ロイスの象徴「パルテノン・グリル」とライトで、ロールス・ロイスらしさをアピール。そこに睨みを利かせたようなボート・テイルのブロウライン。ロールス・ロイスの伝統的なデザインを引用しつつ、丸形ヘッドライトはクラシカルに。サイドから見たデザインは、モーターボートのバイザー風ウインドウスクリーンや、緩やかに傾斜するAピラー。ボディ側面の下はえぐられているような形状になっていますが、これは伝統的なランニング・ボードを元に考案されたもの。
船らしいものでいうと、船後部の甲板「アフト・デッキ」。木製のリア・デッキを現代風にアレンジし、使用した木材は「カレイドレーニョ・べニア」。一般的にはインテリアに使う素材をエクステリアに使用するため、特別な処理が施されています。
「ボート・テイル」の「フィックスド・キャノピールーフ」は、ロマネスク時代の建築「フライング・バットレス」を彷彿させる彫刻的なフォルムと弧を描くデザイン。
ボディカラーも個性的。
海をイメージし、日光の当たり具合によって活力とエネルギーを与える美しいブルーには、「ミューズ・イン・ブルー(青色の女神)」という美しい名前が付いています。ホイールも華やかなブルーにクリアコーティングされ、ボンネットの美しいグラデーションは、ロールス・ロイス初の手塗り。
インテリアのレザーやボンネットのカラーにもこだわりがあり、フロントには深いブルーのレザーシート、リアシートは淡いブルー。また、レザーはメタリック調の光沢。
ステッチやパイピングは時計の針からイメージ。ボディ下部分には航跡の波をイメージし、55度の角度で鮮やかなブルリアントブルー。
●オーナーの趣味嗜好をも盛り込む心意気
また、時計が凄い!
スイスの高級時計「ボヴェ社」(BOVET1822)とロールス・ロイスのコラボレーション。オーナーがボヴェのコレクターだったことから、ダッシュボードクロックを男性用と女性用の2つを作り、しかも腕時計にも車載用にもリバーシブルで使えます。これは作るのに3年の月日がかかったそう(※こちらの詳細は6月8日午後1時[英国時間]発表)。
また、オーナーはペンのコレクターでもあり、グローブボックスの中にアルミニウムとレザーの手作りケースを収納し、そちらに収めています。
インストルメントパネルは「ギョ―シェ」という手彫りの装飾技術。ステアリングホイールはツートーン。
そして「ボート・テイル」最大のイベント!
ロールス・ロイスはドアの内側にアンブレラが内蔵されていますが、その代わりに天気がいい日のためのパラソルが用意されています。スイッチを押すとこのデッキは蝶の羽のように大きく開き、「ホスティング・スイート」が登場します。これは建築家サンティアゴ・ダイニング氏のコンセプトで、「ホスティング・スイート」が開くと、「宝箱」が15度の角度で差し出されます。この箱にはロールス・ロイスの「アルフレスコ・ダイニング」(野外の正餐)を体験する装備が設定。食前用と料理用で、「Boat Tail」と刻印されたパリのクリストフル社製に収まっています。さらに特注の二重の冷蔵庫が用意され、シャンパンコレクターでもあるオーナーお気に入りのヴィンテージ・シャンパン「アルマン・ド・ブリニャック」が収められています。
さらにカクテルテーブルがエレガントに回りながらホスティング・スィートの両側に開き、その下に収納された現代的なスツールが2客。デザインはロールス・ロイスが行い、イタリアの家電メーカー「プロメモリア社」が制作。
音響はフロア全体がウーファーになるオーディオシステムで、15基のスピーカー。
もちろんこれらを施しながら、クルマとしても一級品なのですから素晴らしい。
こちらは世界に1台のオーナーカー。実車は見る機会はないかもしれませんが、とにかく気になるクルマなのは間違いありません。
一番気になるのはお値段なのですが…もちろん公表無し。
しかし究極の贅沢なクルマとは、オーナーのわがままをすべて叶えてくれるクルマを一から作ること。なるほど…。しかし、相当センスが良くないと作れませんね。
(吉田 由美)