■普段は存在感を消している1.5L 4気筒だが、アクセルをグッと踏み込むとDOHCエンジンの咆哮が響く
ホンダのコンパクトSUVとして世界中でヒットした「VEZEL(ヴェゼル)」。ご存知のように、2021年4月にフルモデルチェンジを果たしました。
すでに初期受注で3万台に迫るというほど好スタートを切った新型ヴェゼルに、高速道路やワインディングといったステージで試乗することができました。
新型ヴェゼルには1.5Lハイブリッドと1.5L NAエンジン、2つのパワートレインが用意されていますが、今回試乗したのは「e:HEV」と名付けられたハイブリッドシステムを搭載するZグレードのAWD(四輪駆動)でした。
ハイブリッドシステムの構成は、総排気量1496ccの4気筒DOHCエンジンに発電用モーターと駆動用モーターを組み合わせるというもの。高速走行時にエンジンで直接タイヤを駆動する直結モードを持っているのが特徴で、それにより高速燃費を稼ぐというのがe:HEVの特徴ですが、逆にいうと街のりの速度域ではほとんどモーターだけで駆動する電動車となっています。
つまりエンジンはほとんど発電機として活用するというのが、e:HEVの基本的な仕組みというわけです。
さらにエンジンはアトキンソンサイクルといって、効率重視のメカニズムを採用しています。アトキンソンサイクルを日本語にすると「高膨張比サイクル」といいますが、その良さを活かすにはポンピングロスを減らすようにエンジン負荷の大きな領域で一定回転で動かしたほうが有利というのが定説。
新型ヴェゼルのハイブリッド車に搭載される「LEC」型エンジンのスペックを見ると、最高出力は78kW/6000-6400rpmとなっています。高負荷時には意外に高回転まで回せる仕様になっています。さらに、最大トルクは127Nm/4500-5000rpmと、かつてのVTECエンジンのように発生回数が高めになっています。
ハイブリッド専用ですが、スペック的にはそれなりにアクティブなフィールが期待できるエンジンといえるのです。
とはいえ、試乗を始めるとエンジンの存在感はほとんどありませんでした。バッテリーに十分な電力が溜まっている状態では自動的にEVモードとなりエンジンは停止されてしまいます。そして、バッテリーの電力が不足したり、登坂などで電力が必要になるとエンジンがかかりますが、それも気をつけていないと気づかないくらい振動もノイズも最小限に抑えられています。
街のり領域では、このエンジンは3000rpm以下で作動することが多く、効率と静粛性を重視した黒子的存在として、モータードライブらしい電動感を支えています。
そう聞くと、エンジンが発電機に徹してしまい、せっかくのDOHCサウンドを楽しめることはないように思えますが、そんなことはありません。
高速道路の合流でアクセルをグッと踏み込んで、強い加速を求めるという意思を示すと、一気にエンジンが表に出てきます。感覚的には6000rpmオーバーの、ちょっと甲高いホンダDOHCエンジンらしいエキゾーストノートを響かせるのです。高回転まで引っ張ってからシフトアップしたかのようにエンジン回転を下げるなどATのステップ制御のような演出も加わり、右足でエンジンをコントロールしているという気分が味わえるのです。
個人的には、ハイブリッドシステムの構造を考えるとシフトアップ風のエンジン制御は過剰演出といった気もしますが、「エンジンのホンダ」という思いを持つファンにとっては、こうした演出は嬉しいポイントかもしれません。
また、2モーターハイブリッドではスポーツマフラーなどの排気系チューニングをするとアクセル操作とエキゾーストノートがリンクしないというネガがあるという意見も聞きますが、新型ヴェゼルのハイブリッドであればスポーツマフラーと良くマッチしそうです。
ホンダは2040年までにハイブリッドを含めたエンジン搭載車をゼロにするという方針を示しています。エンジンは消える未来を見据えて電動化を進めているわけですが、そうした背景を考えると新型ヴェゼル・ハイブリッドが基本的にはエンジンを黒子としているのは会社としての方針ともいえるでしょう。
だからこそ、アクセルを踏み込んだときのみエンジンサウンドを楽しめるようにセッティングされているのはエンジンを担当しているエンジニアの心意気を感じてしまうのです。