アウディe-tron 50 クワトロアドバンスドの総合魅力は、ファーストエディションを超えた!?

■出力はスペックダウンも、バッテリーの小型化で総合性を向上

アウディの電動モデルe-tronに新しく「e-tron 50」が加わりました。2020年9月に日本に導入されたe-tronスポーツバックファーストエディションは、5ドアながら全高は1615mmに抑えられたクーペルックのモデルでしたが、今回のe-tron 50は全高が1630mmと若干高めでCピラーは立ち気味に配置され、ルーフレールも装着されるSUVライクなスタイリングとなっています。

eトロン50クワトロアドバンスイメージなお「tron(トロン)」は、アウディが新世代エネルギー源モビリティに使うネーミングで、電気自動車の「e-tron」のほかに、天然ガスを燃料とする「g-tron」と、水素FCV(燃料電池車)の「h-tron」が存在。

かつてはA3のプラグインハイブリッド車にもe-tronの車名が使用されましたが、現在のアウディジャパンのラインアップはすべてEVとなっています。

●大きな車幅が許せるならば、候補に入れてもいいのでは?

eトロン50クワトロアドバンス フロントスタイル
ルーフレールが装着され、SUVらしさを増しているeトロン50クワトロアドバンス

e-tron 50のボディサイズは全長が4900mm、全幅が1935mm、全高は前出のように1630mmです。全長と全幅についてはe-tronスポーツバックと同じ寸法となります。

カタログ上の全幅にはドアミラーやアンテナは含まれません。e-tron 50には一般的なミラーではなく、カメラ&モニターを使った「エクステリアミラー」が採用されますが、大きく外側に張り出す形状のため、ミラーを含む全幅は2043mmにもなり、日本で乗るとかなりの大きさを感じます。この感覚は最初に導入されたe-tronスポーツバックに試乗したときも同様でした。

しかし、ボディサイズが大きいことを除けば大きな問題はありません。2mオーバーの車幅を気にしない環境であれば十分に乗っていられるでしょう。トヨタのグランエースは全幅が1990mmですから、都内の住宅密集地や地方の旧市街でなければ意外とイケるかもしれません。

eトロン50クワトロアドバンス 真後ろスタイリング
水平基調のデザインを大切にしている。もちろんエキゾーストパイプは存在しない
eトロン50クワトロアドバンス 真横スタイリング
ルーフの傾斜がスポーツバックと比べるとかなり緩やかなeトロン50
eトロン50クワトロアドバンス
エクステリアミラーを含めると、車幅は2メートルを超える

駆動方式は前後にそれぞれモーターを配置する2モーター4WDのクワトロ。最高出力は230kW・最大トルクは540Nm。バッテリーはリチウムイオンで、容量は71kWhとなります。

最初に日本に導入されたe-tronスポーツバックは最高出力300kW・最大トルクは664Nm、バッテリー容量は95kWなので、約20~25%のスペックダウンを行ったデチューン版だといっていいでしょう。

とはいえ、そのパフォーマンスは素晴らしいものです。230kWを馬力に換算すると308馬力となります。起動時から最大トルクの540Nmを発生する4WDモデルの加速は力強いもので、e-tronスポーツバックファーストエディションと並んで同時にスタートすれば違いは感じるでしょうが、単独で乗っている限りは圧倒される加速感であることは間違いないでしょう。

●バッテリー方式の違いがもたらした、走りのすっきり感

eトロン50クワトロアドバンスボンネットフード内
ボンネットフード内。メカニカルな部分はほとんど見えない。カバーのように見えるのは、フロントラゲッジルームのリッド
eトロン50クワトロアドバンス フロントラゲッジルーム
フロントのラゲッジルーム。充電ケーブルなどはここに収まる

e-tron 50は最初に輸入されたe-tronスポーツバックファーストエディションと同様にバッテリーを床下に搭載します。ファーストエディションでは一部を2段積みにすることでバッテリー容量を確保していましたが、e-tron 50のバッテリーはすべて一段積みで、車両重量は100kg軽くなっています。

当然航続距離にも差があり、ファーストエディションはWLTCモードで405km、e-tron 50は316kmとその差は決して小さいとは言いがたいものです。しかし、車重が減少しているうえに1段となって重心が下がっているので、e-tronスポーツバックと比べるとハンドリングがスッキリとした印象となっています。

ワインディングで感心させられたのは左、右とステアリングを切って走らなくてはならないS字コーナーでの動きです。左から右へとコーナーが連続するということは、ロール移動量は約2倍になるということです。そうした大きな動きであっても安定感が損なわれないところは、e-tron 50の懐の深い部分といえるでしょう。

eトロン50クワトロアドバンス インパネ
水平基調で運転しやすいインパネデザイン。エクステリアミラーの画像はドアインナーハンドルの上に表示されるが、普段のなれもあり、ついつい従来のドアミラー部分を見てしまう

乗り心地や静粛性に関しても申し分のないものです。EVなので基本的な部分の静粛性は高いレベルで確保されています。フロア一面にバッテリーが搭載されていることもあり、路面からの音の侵入も大幅に抑えられている印象です。

eトロン50クワトロアドバンス タイヤ&ホイール
5アームのしっかりとしたデザインのアルミホイールを採用。重量級モデルらしく、ブレーキキャリパーの大きさもかなりのものだ

255/50R20という大径タイヤを手なずけるのはアダプティブエアサスペンション。大きく重いタイヤ&ホイールでありながら、しっとりとした乗り心地を得ているのはさすがといえます。アクセルを強く踏んで、フル加速状態に入っても必要とされる静粛性が保たれているところは、まさにプレミアムモデル然とした部分です。

eトロン50クワトロアドバンスリヤシート
リヤシートはクッション、シートバックともに平板が基本形状だが、クッションについては少し凹ましてしっかり座れる工夫がされている
eトロン50クワトロアドバンスフロントシート
タップリとしたサイズのフロントシートだが、ホールド性もしっかり確保されている

e-tronスポーツバックもe-tron 50も1.9mを超える全幅を有するモデルなので、前席も後席もゆったりと余裕のあるスペースを確保しています。しかしながら、スポーツバックはフロントシートあたりのルーフを頂点としてリヤに向かってなだらかに傾斜していくスタイリングのため、リヤシートが少し窮屈な印象となります。

対してe-tron 50はルーフをほとんど傾斜させずにリヤまで維持しますので、後席はより広々としています。さらにクォーターウインドウもスポーツバックは三角、e-tron 50は台形で、こちらのほうも室内がルーミーになります。

eトロン50クワトロアドバンスラゲッジ
リヤシートは4-2-4の分割可倒式。フラット性は高く、荷物をタップリと搭載できる

ラゲッジルーム容量もスポーツバックの616リットルに対して、e-tron 50は660リットルを確保。リヤシートを前倒しした際のラゲッジルーム後端からフロントシートまでの距離もスポーツバックの1910mmに対し、e-tron 50は1940mmと長くなっています。

最初に輸入されたe-tronスポーツバックファーストエディションの車両本体価格は1327万円。今回試乗したe-tron 50クワトロアドバンスは1069万円で、その差は258万円と、国産Cセグ1台分くらいの差があります。

どちらも一般的な価格帯とは言いがたい存在ですが、実用性と先進性、そしてハンドリングのよさなどからこのe-tron 50クワトロアドバンスは、ファーストエディションを上まわる魅力を有しているといってもいいでしょう。

(文・写真:諸星 陽一

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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