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■信号待ち時はDか、Nか? よくいわれる疑問について、あらためて考えてみる
よく話題に挙がるAT関連の疑問の中で「AT車での信号待ちで、シフトレバーはDのままか? Nか?」というものがあります。信号待ちのたびにDからN、NからDへと動かすことがAT内部に影響を与えないのかという疑問からきているようです。
MTはマニュアルトランスミッション(Manual Transmission)の略称で、手動変速機を指します。対するATとはオートマチックトランスミッション(Automatic Transmission)の略で、自動変速機のことをいいます。
そのATには、1速、2速、3速…と自動変速するもの(ステップ式)とは別に、CVT(Continuously Variable Transmission:直訳では「連続的に可変する変速機」、通称・無段変速機)があり、人の手で調整して行う無段変速機は、少なくとも自動車用には存在しないため、CVTは事実上、一般的にATに含まれます。
ここでも、ATにはCVTも含んでいると理解してください。
●NとD往復の頻度は、ATの故障や寿命に直結しない
AT乗りの皆さんなら、ブレーキを踏みながらシフトレバーをPからR、あるいはNからDに入れたとき、車体に小さなショックが伝わることを身体が覚えていると思います。ブレーキを踏んでいなければジリジリと歩み出る(これがクリープ現象です)…なるほど、軽くても1t前後の静止車両を動かすほどの力を伝達するわけですから、AT内部に伝わるショックがいかに大きいかは想像でき、ゆえにATの寿命を思う疑問が生まれるのは当然のことでしょう。
筆者の場合、状況状況に応じて決めています。赤信号のときにNに入れるか、Dのままかはおそらく半々、どちらにするかは交差する歩行者用信号が青か赤かを決め手にします。詳しく説明すると…。
赤く灯る信号の下に停まったとき、交差する歩行者信号が青点滅または赤であればDのままにします。交差側自動車用信号が黄色→赤に変わり、こちらが青になるのは時間の問題だからです。
逆に、交差側の歩行者信号が青点灯であれば、こちらはしばらく赤が続くと見てNに入れ、パーキングブレーキをかけます。もっとも、Nに入れたとたんに交差側の歩行者信号が青点滅するときもありますが…。
それはさておき、筆者がこれまで所有してきたクルマは、1台目のMT車を除いてすべてAT車。単なる油圧制御の4AT車を1万kmほど、電子制御4AT車に16万km強、CVT車は21万km超、今使用中の電子制御4AT車は4万8000kmちょいですが、とにかくこれら種類のATを、これだけの距離使ってきました。
信号待ちの間でもDのままにしているひとに比べると、理屈上、筆者のどのクルマのATも負担がかかっていたはずなのですが、実際にはただの一度も故障に出くわしたことはありません。
頻繁にNとDを往復させるとATの寿命が縮む…とは確かに聞くフレーズですが、よくよく考えてみると、そのような使い方をしたATの故障率が高いか低いかの統計的資料があるわけではないし、そのような調査を行っているどこかの機関があるわけでもありません。
経験上、N-D間の往復頻度そのものが直接寿命に悪影響を与えるとは思えず、むしろATの故障なり短寿命なりといったトラブルは、他の乱暴な使い方、日常的に急発進や急加速、完全停止しないうちにDからRに入れているなどの要因が、複合的に重なってのことではないかと思っています。
●普段のATの使い方を見直してみよう。
となると、信号待ちのシーンだけを切り取ってNかDかを問うよりも、全体の操作を日常から丁寧に行うことを心がけるほうが得策のように思います。急発進、急加速をしないのはもちろんのこと、速度に見合わないエンジンブレーキ操作をしない、DからNを通してRやPに入れる際は、完全停止してから行うなど。
筆者も急ぎ気味のときにうっかりやってしまうことがたまにあるのですが、レバーをDに入れ、動力がトランスミッションに伝達する前(=ショックを感じる前)に、タイミングを誤ってアクセルを踏んでしまう…これもとんでもないことで、エンジン回転が上昇し、アイドリング時よりも強くなっているトルクをいきなりATが受けるわけですから、ATにしてみればたまったものではありません。ただの伝達ショックどころではない、「ドン!」という音が足元に響き、衝撃が車体全体を襲います。
ATにしろエンジンにしろ、1度や2度のミス操作に耐えられるような設計がなされてはいますが(フールプルーフ:誤操作に対する危険or故障回避機能)、こういった乱暴な操作を日常的に行われることを許容するほど、クルマのメカは頑丈ではないのです。
では、どういった扱い方をすればいいのか? 難しいことは何もなく、つまりは車体やエンジン、トランスミッションにタイヤといったメカ主要部が、余計な音を立てない使い方をすればいいだけのことです。
●安全のためとなるときれいごとばかりいっていられない
さて、DとNの話に戻りますが、これが安全のためとなると話は別です。
皆さんもよくあると思いますが、人とクルマが混雑気味の中で赤信号にひっかかったとき、こともあろうに横断歩道の上で停車せざるを得ない状況に遭ったことはありませんか?(ホントはあってはいけないことですが…)
ましてやこれがスクランブル交差点で、すべての歩行者信号が一斉に青になろうものなら、歩行者は自分のクルマの前後左右を衣服や持ち物で撫でながらあちらこちらへと歩いていく…。
「おいおい、おれのクルマ傷つけてくれんなよ」と思う瞬間でもありますが、このようなときにD、つまりいつでも発進準備OK!の状態にしておくと危険この上ありません。何かの拍子にうっかりアクセルに触れようものなら…。考えただけでもゾッとします。
このようなシーンでは、NどころかいっそPに入れ、しっかりパーキングブレーキをかけるのが賢明です。その上でブレーキペダルも踏む。
Nと異なり、Pではトランスミッションの歯車にロックがかかりますから、まずクルマが動き出すことはありません。これが坂道ならなおさらで、Nの状態にしてパーキングブレーキをかけ、ついすべてのペダルから足を放すと、パーキングブレーキのかけ方次第では前に後ろにずり出す可能性があります。
まあ、Pはかけ方の甘いパーキングブレーキを補うためのものではなく、積雪時を除き、NであろうとPであろうと、かけるときはしっかりかけなければいけないのですが。
え? 運悪く次の交差点でも横断歩道上に停まってしまったら? 遠慮なくDとPの間をガチャガチャやってください。うっかりミスで周囲の人を怪我させるよりははるかにマシです。
つまりは状況に応じて柔軟に使い分けるということです。これまでに述べたことはあくまでも筆者の経験談に過ぎませんが、よかったら参考にしてみてください。
(文・写真:山口 尚志)
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