■中高生を対象とした人材育成プログラム
公益社団法人自動車技術会は、3月22日「第9回カーデザインコンテスト」の表彰式を開催しました。
本コンテストは、自動車のデザインに関わるさまざまな業種の会員で構成される同会のデザイン部門委員会が主催するもの。次世代カーデザイナーの人材育成プログラムとして、感受性の高い中高校生を対象にしたコンテストです。
2020年11月から公募した今回のテーマは「10年後の暮らしを楽しくする乗り物」で、応募者はA4判のスケッチと作品解説の2枚を提出します。クルマを含むさまざまな乗り物について、技術やデザインがさらに進化しているであろう10年後を想定、「自動車」に限定しないところがこのコンテストの肝でしょう。
実際、コンテストの概要を解説したデザイン部門委員会・人材育成WGリーダーの水野郁夫氏(日産自動車)によれば、自動車にとって100年に一度の大変革期である現在、メーカー等は今後の乗り物のあり方について模索が続いており、まだ見ぬ未来を予測するのがデザイナーの役割だとしました。
9回目を迎えた今回の応募数は312名。課題を授業に取り入れる学校などもあり、ここ3年間は300名以上の応募者数をキープしています。表彰式は従来、都内のイベント会場で行われていましたが、昨年に続き、コロナ禍によりオンラインでの開催となりました。
各賞は中学生(A部門)と高校生・高専生(B部門)に分かれ、佳作のほか「ダビンチ賞」「カーデザイン賞」「審査員特別賞」、そして最優秀賞である「カーデザイン大賞」で構成されます。今回、佳作には20名が選ばれました。
●乗り物の範囲を限定しない豊かな発想
ではさっそく各賞の作品を見てみましょう。
まず、工学的な工夫に優れた作品に贈られる「ダビンチ賞」は、A部門から長田琉吾さん(東村山市立東村山第二中学校3年)が受賞(B部門該当なし)。受賞作『Street Runner』は新しい時代のモータースポーツの提案で、空気圧で前輪が浮き上がる仕組みや、左右輪の大きさを変えるという斬新な提案が評価されました。
「カーデザイン賞」は、イメージや機能がもっとも優れた絵に表現されている作品に贈られ、A部門からは鵜殿正基さん(千葉市立高洲第一中学校2年)の『Sedia』が受賞。車イスの容易な収納を可能にしたユニバーサルデザインの提案で、非常にスポーティでワクワク感を呼び起こします。車体の見せ方だけでなく、ロゴのデザインを含めた完成度の高さが評価されました。
「カーデザイン賞」B部門は早川千晴さん(栃木県立足柄工業高等学校3年)の『UKIUKI MANTA』。マンタの背中に乗ってみたいという発想から、一目見てウキウキするスタイルで、細かな用品や緊急脱出などの構造面も提案しました。人とモビリティの関係性が描けており、単にカタチだけでない表現が評価点です。
「審査員特別賞」は優れた創造性に着目した賞で、A部門は中村柾太さん(大田区立大森第六中学校2年)の『KAGYU』が受賞。カルシウムをボディ素材とし、ゴミを吸いながら走るという都市に特化した提案です。ゴミ収集に沿ったフロント形状や、色を変えた表現などが評価されました。
「審査員特別賞」B部門からは楢崎龍美さん(九州産業大学付属九州高等学校2年)の『豆電球型足湯ロープウェイ Socket』。温泉街を楽しむ乗り物として、一見モビリティに見えないものの、水彩画で独自の世界観を提示。モチーフのソケットへの落とし込みの完成度が高く、構造面のリアリティも評価されました。
最後に、トータルでもっとも優れた作品に贈られる「カーデザイン大賞」は高橋洋平さん(福島県立福島高等学校2年)の『Omni Mobile』に。
さまざまな災害に対応する乗り物で、安心感のあるシェルター構造のキャビンやしっかりしたホイールが特徴。斬新でありスタイリッシュ、3つの使用シーンを想定したスタイリングの変化が高い評価を得ました。高橋さんは高校で防災に関する組織に所属し、震災の語り部の話から発想したといいます。
さて、今回の応募作品はカーデザイン大賞の高橋さんがそうであるように、災害を意識したものや、あるいは生活困窮社会を想定した作品が目立ったといいます。そうした社会の諸課題といったリアルな面に対し、中高校生の既成概念にとらわれない発想が反映されたとすれば、本コンテストの趣旨が実践されたと言えるでしょう。
(すぎもと たかよし)