清水和夫が解説するホンダ・レジェンド「自動運転レベル3のすべて!」、レベル2といったいどこが違うの?【Webセミナー付き】

■夢のクルマに近づいた!? ついに発売された世界初の自動運転レベル3「ホンダ・レジェンド」とは?

2021年3月4日(木)、ホンダから新レジェンドが3月5日(金)より発売!と発表されました。そのトピックスはなんといっても、自動運転レベル3を可能にするHonda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)が搭載されたこと。

レジェンド
3月5日より、いよいよリース販売されたレジェンド。価格は1100万円!

ホンダが世界に先駆け市販化した自動運転レベル3…とはいえ、「未来のクルマがやってきた! ぜ~んぶ自動で運転してくれる!」ワケではないくらいのことは知っていても、自動運転ド素人には、知識的にイマイチよ~分からんトコロが多いのも事実。

そんな折、2021年3月15日(月)、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)&“自動運転を通じた私たちの未来の社会を伝えてくれる”SIP-caféの主催で、法的&技術的なことから知る自動運転についてのWebセミナーが、“突っ込み過ぎる司会者”・清水和夫さんにより開催されます(※文末に概要をお知らせします)。

国土交通省やホンダ技研工業の専門家も登壇するWebセミナーを視聴する前に、いつでもどこでも自動運転『ではない!』レベル3について、世界で初めて自動運転レベル3を搭載したレジェンドについて、国際モータージャーナリスト・清水和夫さんに解説していただきました。(clicccar:永光やすの)

●ハンズオフ、アイズオフは可能だけど、条件付きが多すぎるレジェンドの自動運転レベル3

清水和夫さん
レジェンドの自動運転レベル3について教えてくれた清水和夫さん。試乗しているクルマは現行型、レベル3じゃないほうのレジェンド。

日本での自動運転への流れとして、2019年に、日本国内で道路運送車両法と道路交通法の自動運転に関する規定が改正され、2020年4月1日に施行。そして2020年11月、自動運転レベル3について、世界で初めて国土交通省がレジェンドに型式指定した際には、世界的に物凄く話題になりました。

巷では「日本は自動運転の実用化で世界から遅れをとっている」などと言われていますが、ソレはウソ。世界に先駆けて自動運転への法整備を進めてきたのが日本なのです。世界では、これと同じような基準が2021年1月、WP29(自動車基準調和世界フォーラム)によって発行されたことを考えると、日本は遅れているのではなく、どこの国よりも先行しているっていうのが事実。

では、レジェンドに搭載された自動運転「レベル3」のHonda SENSING Eliteについて、みんなが一番知りたいこと…何ができて何ができないのか?を解説します。

●レベル2とレベル3、”できること”と”できないこと”を理解するのが重要!

レジェンド
世界初の自動運転レベル3技術を搭載しているからか、風格が上がったような気がするのは…気のせい?

レベル2までで可能にしているのは、衝突被害軽減ブレーキや高速道路クルーズコンロール、さらに自動操舵システムとしてのハンズオフ機能などです。しかし、これは「運転支援」であって、ブレーキと加速と操舵が自動化したことであり、ハンズオフ=自動運転とは言わない!と決めています。

これがレベル3になると、前方監視義務から解放されて「アイズオフ」がOKになります。運転中に前を見なくてもよく、ハンズオフしてナビゲーションを触ったりテレビなどを見てもOKで、隣の人と目を合わせながら会話したり手を握ったり! もちろん足もフリーなのでアクセルやブレーキ操作をしなくてもOK。「寝る以外だったら何をしてもいい!」というのが、レベル3に対する世間の認識ですね。

とはいっても、ナイトライダーみたいな「自動運転」とはだいぶ違うということは、しっかりと理解しなくてはいけません。

今回のレジェンドでもそうですが、今現在の技術では、ドライバーが運転義務のすべてから開放されるわけではありません。何をしていいのか、何をしてはいけないのか…。ソコをしっかりと理解しなくてはいけないし、難しいトコロでもあります。

●自動運転とはいっても、レベル3は高速道路での渋滞時にしか使えない!

最も注意しなくてはいけないことは、国内法も国際法も、高速道路のTraffic Jam(交通渋滞)=60km/h以下の渋滞中でしか自動運転レベル3は使えない、と規定している点。

レジェンドのリヤビュー
レジェンドはやはり社長さんクラスがリヤシートに乗るプレミアムなクルマ。でも、走りの面でも「昔からレジェンドはセクシーでイイんだよ!」とお気に入りの清水和夫さんです。

しかしホンダは、より安全性を重視して、自動運転になるにはいったん、渋滞の速度が「30km/h以下」にならないと機能しないようにプログラミングしています。つまり、渋滞時にのみ自動運転が使え、“道路交通法”でドライバーは前方監視しなくてもいいというルールが適用されます。渋滞がなくなって50km/h以上になったら、自動運転は強制解除されるため、ドライバーは前を見て(アイズオン、ハンズオン)運転しなくてはいけない…。それがレジェンドの自動運転レベル3の実態です。

が、法律では細かいドライバーのタスクを規定していないので、ホンダはより安全性を確保するためにスマホの利用を禁止にしました。いつでも運転に戻れる状態にしておかなければいけないので、両手が塞がるようなこと…右手にドリンク、左手にスマホ…なんていうのはNG。車載のカーナビ操作やテレビ、ビデオを見るのはいいけど、スマホを手にしてイジってはダメっていうことですね。

現状では、これがレジェンドでのレベル3の限界。渋滞中の速度域によってシステムか人かが運転し、かつ運転を交代することを前提としているためです。速度域によって運転交代をしなくてよくなるのは、レベル4から。技術的かつ法的には、まだまだ先の話なのです。

CIP CAFEより
※過去のSIPcafe記事より画像引用

今回、改正された道路運送車両法では、システムから運転交代を要請されてから10秒以内にドライバーがハンドルを握らなかった場合、『ミニマム リスク マニューバー(MRM)』という機能を発動し、クルマが緊急停止しなくてはいけない、としています。コレ、日本が世界に先駆けて議論し、国際基準にも取り入れられたルールなのですが、ホンダは安全を最優先させているため、運転交代要求から約5〜6秒後にはシートベルトをブルブルと振動させ、ドライバーに運転交代を促すようにしています。

ちなみに、この辺りの考え方はメルセデス・ベンツのSクラスも同様ですが、メルセデスで自動運転レベル3が使えるのは60km/h以下っていう違いがあります。

●レベル2とレベル3は、アイズオフが可能か不可能かダケの差?

しかし世間では、それまでのレジェンド(Honda SENSING)とレベル3のレジェンド(Honda SENSING Elite)では約300万円もの差があるのに「アイズオフのためダケに大金を払わなきゃいけないのか? レベル3は本当に必要なのか?」という議論になるでしょう。自動運転レベル3を搭載するレジェンドもメルセデス・ベンツも、1000万円以上します。しかしレベル2なら300万円台でも買えるクルマがあるのだからソレで十分!と。スカイラインは120km/h+でも高速道路でハンズオフできますしね。

レジェンドのコクピット
レジェンドのコクピット。洗練された大人な感じです。

しかし、これは私の持論ですが、運転支援が高度化するとドライバーはどうしてもシステムに頼ってしまい、過信しやすくなる。実際に、高度なレベル2への過信が原因の事故も起きています。

繰り返しますが、米国SAE(自動車技術学会)や日本の専門家も、レベル2を「自動運転」とは呼ばない!ということで一致しているのです。

そこからさらに「30km/h以下になったらアイズオフ=目も離していいよ」というのがレジェンドのレベル3で、運転支援から一歩先を行く本当の自動運転。ただし、レジェンドも50km/h以上になるとレベル2の状態に戻す(ハンズオン、アイズオン)。

それでもやはり、レベル2にプラス、アイズオフだけを可能とするレベル3は金額的にも購入は難しいと考えるのも当然です。

しかし、レジェンドは自動運転レベル3を可能とするセンサーを持っているので、レベル2の性能も飛躍的に進化しています。性能アップしているレベル2技術、このことも今回のレジェンドで注目すべきところでもあるのです。

それにクルマ好き、運転好きからしてみれば、渋滞から解放され、自動運転から解除され自分でクルマを運転するほうが楽しくないですか? でも渋滞は面倒だからシステムに任せておく。合理的だと思いませんか!

●なぜ自動車メーカーは、レベル3の技術開発をやっているのか?

全世界で今、100万人以上の人が交通事故で命を亡くしています。事故のほとんどの原因がヒューマンエラー。だったら、自動化技術で事故ゼロを目指したいという思いがあります。その意味ではレベル3はまだヨチヨチ歩きかもしれませんが、自動車の歴史の中では偉大な一歩になると思います。この段階をクリアしなければ、その先のレベル4やレベル5、いわゆる「完全自動運転」には進めません。レベル3は完全自動運転へ向けての大切な通過点!ということが、とっても大事なことなのです。

レジェンドのレベル3は技術的にはチャレンジブルですが、営業的にはレベル2でもいい、と考える自動車メーカーもいると思います。そうなるとレベル2とかレベル3という数値が独り歩きしそうですが、目指す山の頂上は同じハズで、辿る登山道が異なるだけ。レベル2の高精度開発を続け、レベル3は飛ばして一気にレベル4へ行く登山道もあると思います。これに対して、「ちょ~っと怖いけど、レベル3を最初に味見してやろう」っていうのが、ホンダやメルセデス・ベンツの考え方ですね。

●ホンダは世界初の「レベル3」で歴史を作った!

レジェンドのインテリア
レジェンドのインテリアは、このシーコースト・アイボリーの他、プレミアムブラック、ディープブラウンの内装色があり。

レジェンドのレベル3先陣販売を、私はよく「生牡蠣を誰が最初に食べるか?」って例えるのですが、レジェンドは今、まさに生牡蠣を食べにいっている状態。それで誰もお腹を壊さなかったら、みんな食べるだろうな、と。

日本の法律に、「合理的に避けることができない人身事故はゼロ」と、メーカーにはより厳しい安全性を求めています。でもその一方で、「道交法ではレベル3でもドライバーは安全運転義務がある」と規定されている。ムチとアメのように思えますが、とにかく事故を予防するための自動運転技術なので、リアルワールドで事故を起こしてはいけないのです。

2020年に、日本で世界初の自動運転に関する法律が施行され、11月11日に世界初となるレベル3の「レジェンド」が型式認定された…ここがスタート地点。箱根駅伝でいえばレジェンドのレベル3発売の今は、まだ大手町をスタートしたばかりの段階。

が、のちに自動運転の歴史を振り返ったとき、「2020年がスタート地点だった」と、多くの人が思うはずです。

★自動運転レベル3を更によく知ろう!

我らが親分!? 国際モータージャーナリスト・清水和夫さんが“突っ込み過ぎる司会者”として進められる、自動運転に関する法的&技術的なことが学べるWebセミナーが、以下の要領で行われます。レジェンドのレベル3のこと、これからの自動運転時代のことも議論されるでしょう。今の日本の最先端技術を学べるチャンスです!

【SIP-adus2021成果発表会プレ・ミーティング 自動運転レベル3法改正と技術基準ウェブセミナー】

新型レジェンドの自動運転レベル3
自動運転レベル3とはいえ、セットできるのは30km/h以下でスタートでき、50km/hまでの高速道路の渋滞時のみ。

●概要
ついに日本で自動運転レベル3のモデルが一般ドライバーの手に!
世界に先駆けて型式認証を実現した日本は、技術基準においても世界をリードしています。国際会議においては日本が共同議長を務め、国内においても法整備を進めてきました。そうした政府の動きと並行し、日本自動車工業会では集中的に技術議論を深め、基準策定に協力してきました。
今回のセミナーでは、そうした自動運転に関する技術基準について策定に携わられた国土交通省・自動運転戦略官の多田善隆氏と、日本自動車工業会・主査の横山利夫氏(本田技研工業)に解説いただきます。司会は国際モータージャーナリスト・清水和夫氏が務めます。
自動運転では、激しい天候不良や突然の落下物など、現実世界で起こる様々な状況を想定し、安全を確保する必要があります。それをいかにルール化するのか、難題に挑んだおふたりにお話を伺います。

●日時: 3月15日(月) 12:00-13:50
講師:国土交通省・自動車局・技術・環境政策課自動運転戦略官 多田 善隆氏
日本自動車工業会・自動運転検討会・主査 横山 利夫氏(本田技研工業)
司会:清水 和夫氏(国際モータージャーナリスト)

●プログラム
12:00-12:05 政府の自動運転実証実験プロジェクトSIP-adus/葛巻 清吾 プロジェクトディレクター挨拶(ビデオ)
12:05-12:25 多田氏より、技術基準策定のポイント解説
12:25-12:45 横山氏より、自工会での技術基準議論のポイント解説
12:45-13:00 司会者からの代表質問
13:00-13:45 参加者からのご質問に回答(チャットを通じて質問をお受けします)
13:45-13:50 閉会挨拶

●アクセス https://app.livestorm.co/sip-adus/level3?type=detailed

※ご注意
・上記にアクセスし、メールアドレス、会社名、氏名をご登録ください。
登録いただいたメールアドレスにウェビナーへの招待メールが届きます(フリーの方は、会社名の欄に『フリー』とご記入ください)。
・当日、画面には参加者の氏名、チャットでのご質問が表示されますので、予めご了承ください。
・本セミナーは後日、SIP Caféのウェブサイトにおいて、質疑応答部分を除き動画配信する予定です。

●問い合わせ先:SIP-Café広報・藤井 郁乃(fujii@technomedia.jp)/名取 則隆(natori@technomedia.jp

清水 和夫/画像:HONDA/アシスト:永光 やすの

レジェンドのスペック
レジェンドのスペック(HONDAサイトより)。

■SPECIFICATIONS
●ホンダ レジェンド Hybrid EX・Honda SENSING Elite
型式:6AA-KC2
全長×全幅×全高mm:5030×1890×1480
ホイールベース mm:2850
トレッド F/R mm:1630/1630
最低地上高 mm:145
車両重量 kg:2030
客室内寸法 長さ×幅×高さ mm:2080×1540×1155
エンジン:JNB 水冷V型6気筒横置 SOHC
排気量 cc:3471
内径×行程 mm:89.0×93.0
圧縮比:11.5
電動機(モーター) 型式:H2-H3-H3 交流同期電動機
エンジン最高出力kW (ps)/rpm:231(314)/6500
エンジン最大トルク N・m (kgf・m)/rpm:371(37.8)/4700
電動機(モーター)最高出力 前(H2)/後(H3) kW (ps)/rpm:35(48)/3000/27(37)/4000(1基当たり)
電動機(モーター)最大トルク 前(H2)/後(H3) N・m (kgf・m)/rpm:35(48)/3000/27(37)/4000(1基当たり)
燃料消費率 WLTCモードkm/L:12.4
主要燃料向上対策:ハイブリッドシステム/直噴エンジン/可変バルブタイミング/可変シリンダーシステム/アイドリングストップ/電動パワーステアリング
最小半径 m:6.0
動力用主電池:リチウムイオン電池/72個
駆動方式:4WD(SPORT HYBRID SH-AWD)
トランスミッション:7速オートマチック+パドルシフト
ステアリング装置形式:ラック&ピニオン式(電動パワーステアリング仕様)
サスペンション 前/後:ダブルウイッシュボーン/ウィッシュボーン
スタビライザー 前/後共:トーションバー
ブレーキ 前/後:油圧式ベンチレーテッドディスク/油圧式ディスク
タイヤサイズ 前/後共:245/40R19 94Y
車両本体価格(税込):11,000,000円

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この記事の著者

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、スーパー耐久やGT選手権など国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。
自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。clicccarでは自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』でも公開している試乗インプレッションや書下ろしブログなどを執筆。
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