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■おっとり静かな水冷エンジン
ホンダ・ジョルノのエンジンは、スポーツバイクに慣れたライダーにとって、けっしてパワフルとはいえません。50ccという小排気量エンジンで環境性能を満たそうとすれば、少しパワーを犠牲にしなければならない面もあるのでしょう。
でも、だからといって市街地で不満を感じるほどアンダーパワーでもありません。
スロットルグリップをひねると、どの回転域からでもスルスルと加速がはじまります。
グイグイ前に出る逞しいトルク感こそありませんが、ふつうに街を走るには不便のない加速力で、坂道も力強く登ります。静止状態から全開発進を試してみましたが、どかんと飛び出すような出足の鋭さはありませんでした。最初の0.5秒くらいは、スロットルを開けてもまったく車体が動きださないほど。
それでもゆるっと動き出して、約5秒後には30km/hの法定速度に達します。速いという印象はなくても、静止状態からたった数秒で公道のマックス・スピードに達する動力性能は、日常の足としては十分ですね。
静粛性はバツグンです。ホロホロとマイルドな排気音は、法定速度いっぱいのクルージング中でも、全開加速中でもさほど変化せず、ずっと静かなままでした。
■ふわっとソフトなドラムブレーキ
ブレーキには、ホンダ独自の「コンビブレーキ」が採用されています。左レバーのリアブレーキをかけると、自動的にフロントブレーキが連動し、前後のブレーキがほどよく同時にかかる仕組みです。ただ、そのときでも右レバーで操作するフロントブレーキは、ライダーの操作で独立してコントロールできるようになっています。
バイクのブレーキングの基本は、前後のブレーキを別々にバランスよくかけること。でも、状況に合わせて前後ブレーキのバランスを調整し、最大限のストッピングパワーを引き出すのは、ベテランライダーにとっても簡単な操作ではありません。
ジョルノは、ビギナーには難しいこのブレーキ操作を機械的に支援することで、誰もが安心してブレーキをかけられるようになっているのです。
ジョルノのフロントブレーキを単独でテストしてみると、利きもタッチもフワフワ。右レバーをめいっぱい握り込めば、やっとどうにか少しだけフロントタイヤが鳴くかな? というソフトな利き味です。
いっぽうリアは、左のブレーキレバーだけを握っても自動的にフロントブレーキが連動するため、よく利き、よく止まります。試しに力いっぱい握り込んでみましたが、キャッキャッとリアタイヤが鳴いてロック寸前にはなるものの、それでも完全にはロックしない絶妙の設定でした。
ジョルノのブレーキは、スポーツバイクに慣れたライダーには、柔らかすぎて心もとないかもしれません。でもこのブレーキなら、きれいなアスファルト路面を法定速度で走っているかぎり、左右のレバーを強く握るだけで、誰でも安全に効果的なブレーキングができるのではないかと感じました。
■意外とハード? 走りも楽しい足まわり
ころころと丸っこくてかわいいジョルノですが、見かけによらず、足は男っぽくてがっちり硬め。走行中にシートの上でわざと大きく体を動かして車体を揺らしてみても、マシンの姿勢や操舵性にはあまり影響がありません。
また、もともと低速で走るバイクなので、街中によくある路面のバンプくらいなら、強く突き上げられることもなく、さらりとショックを吸収してくれます。ストロークが短く、硬いサスペンションながらプアではなく、初期動作に粘りとコシがあって乗り味もなかなかのもの。原付スクーターとしては、とてもよくできた足だと感じました。
コーナリングにもへんな癖はまったくありません。ふくらむことも切れ込むこともなく、自然にくるりと曲がれます。サイズ的にもUターンのような超小旋回は得意なので、タウンユースで操縦性が気になるシーンには一度も出遭いませんでした。
■進化するジャパニーズ・イタリアン・スクーター
写真は1999年発売のジョルノクレア。それまで2ストロークだったジョルノの後継機として、4ストロークエンジンを積んで登場したジョルノクレアは、厳密にいえば別モデルではあるものの「元祖4ストジョルノ」ともいえるマシンです。このジョルノクレアは、ジョルノの記事を書いている間に、ふしぎなご縁でたまたま譲っていただいたマイバイク。
海辺の町からやってきたこのスクーターには、ところどころ錆が浮いていましたが、それさえも愛おしい、古きよきジョルノ・ファミリーの一員です。
初期型発売から約30年の間に数々のバリエーションを生み出しながらアップデートを重ねてきたジョルノ。さまざまに性能・機能が変わっても、その魅力はデビュー当時から今も変わらず受け継がれています。
日本生まれの可愛い「イタリアン・スクーター」ジョルノが、未来の日本をどんなふうに走りぬけてゆくのか、これからも楽しみに見守ってゆきたいですね。
【ホンダ ジョルノ・デラックス 主要諸元】
全長×全幅×全高:1650mm×670mm×1035mm
シート高:720mm
エンジン種類:水冷4ストロークOHC単気筒
総排気量:49cc
最高出力/最大トルク:4.5ps/0.42kgm
燃料タンク容量:4.5L
タイヤ(前・後):80/100-10 46J
メーカー希望小売価格:20万3500円(税込)
(文:村上菜つみ 写真:高橋克也)
【関連リンク】
ジョルノ・デラックス Official Site
https://www.honda.co.jp/GIORNO/
村上菜つみさんがホンダ・ジョルノ・デラックスで出かけたツーリング記事は、月刊誌「モトチャンプ」2020年11月号(10月6日発売)に掲載されています。