キック式スターターとは?ペダルの踏み込みでエンジンをかける始動方式【バイク用語辞典:動力伝達機構編】

■主流はセルモーター式、キック式は僅少ながらオフロードモデルなどの一部で採用

●大排気量エンジンではスムーズなクランキングのためにデコンプ機構を採用

キック式スターターは、現在主流のセルモーターが登場する前の標準的なスタート方式です。現在も僅かながらセルモーター式とキックスターター式の併用式で採用は続いていますが、キック式スターターだけを採用しているモデルは僅少です。

今では懐かしいキック式スターターについて、解説します。

●キック式スターターの仕組み

現在ほとんどのバイクは、セルモーターでクランキングさせて始動します。クランキングとはクランクシャフトを強制的に回転させてシリンダー内のピストンを上下運動させることです。クランキングの状態でシリンダーに燃料を供給して点火火花を飛ばせば、エンジンが始動します。

キックスターターの原理
キックスターターの原理

キック式スターターは、キックペダルを踏み込むことによって人力でクランキングを行う方式です。

ライダーがキックペダルを踏み込むと、キックスタータードライブギヤが回り、アイドルギヤを介してプライマリードリブンギヤ(クラッチアウター)に回転が伝わります。そして1次減速機構に伝わり、クランクシャフトが回転(クランキング)する仕組みです。

●エンジンのかけ方

キック式スターターでエンジンをかけるには、キックペダルを足で強く踏み込むというのが基本ですが、カブタイプのような小排気量エンジンでは容易にクランキングできますが、排気量の大きいエンジンではそれなりの要領が必要です。

具体的な手順は次の通りです。

・ギヤをニュートラルにしてキーON

・キックペダルを軽く踏んで重くなる位置(圧縮上死点)を探す。

・キックペダルを上に戻して、上の位置から体重をかけて一気にペダルを力強く踏み込む。

・1回で始動できない場合は、アクセルを開けながら何回かクランキングを行う。

キック式スターターを装備しているモデルには、セルモーター式と併用している場合があります。セルモーターが不調、バッテリが上がり気味でクランキングできなくなった場合に、キック式スターターが役立ちます。

●デコンプ機構

排気量の大きい、圧縮比の高いエンジンでは、圧縮行程で混合気を圧縮するときの抵抗が大きくなります。そこで、排気弁を少しだけ開けて圧縮空気を抜いて、圧縮に要する力を低減するデコンプ機構を採用しているモデルがあります。デコンプを使えば、軽い踏力でスムーズなクランキングができ、始動しやすくなります。

デコンプ機構は、バルブリフターというカムをカムシャフトの横に装着して、デコンプブレバーと連動するワイヤーで作動させます。デコンプレバーを握ってライダーが自ら操作する「手動式」と、キックペダルの動きと連動して作動する「オートデコンプ」があります。手動式では、キックペダルを踏む前にデコンプレバーを握って圧縮圧が抜けるまで待ち、抜けた頃を見計らってデコンプレバーを離して一気にペダルを踏み込みます。


かつてはバイクの始動というと、キックペダルに体重をかけて何回も踏み込むカッコいい姿をよく見かけましたが、最近はキック式スターターが装備されたモデルはほとんどありません。クラシカルやオフロード、カブなどの僅少な一部モデルでしか装備されていませんが、キック式を好んでバイクを選ぶ人もいるそうです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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