■全長3400mmに制限される軽自動車ではフロントナンバーを中央に持ってくるのはデザイン&寸法的に難しい
軽自動車のナンバープレートといえば黄色にすることで識別している時代が長く続いているわけですが、ラグビーワールドカップや東京オリンピック&パラリンピック記念プレートを導入することで、白いナンバーの軽自動車もよく見かけるようになっています。
とはいえ、白いナンバーをつけていても遠目に軽自動車と識別するポイントはあります。それはフロントのナンバープレートがオフセットして取り付けられていること。日本一売れている軽自動車ホンダN-BOX(標準車)も、フロントのナンバープレートは向かって左にオフセットしていますし、そうなっているモデルは多数派です。その主な理由は、冷却性能を確保するためです。
軽自動車であれだけ広いキャビンを確保するためにはエンジンルームを非常にコンパクトに設計しなければなりません。そのためエンジンの前に余裕はほとんどなく、ラジエターはトランスミッション側にオフセットして置かれていることが大半です。そうなるとラジエターにしっかり走行風を当てるためにフロントのナンバープレートをオフセットしておくのが有効です。それが、軽自動車のナンバープレートは真ん中に置かれていることが少ない理由です。
ですから、ナンバープレートを中央に置こうとすると、そのままでは冷却性能が悪化してしまうため、かなり工夫しないといけません。最初からオフセットしておけば、そうした工夫も不要になりますから、効率的な開発が可能になります。
ナンバープレートを中央に置くことのデメリットはそれだけではありません
ご存知のように軽自動車というのはボディサイズが規格によって制限されています。具体的には全長3400mm以下と規定されているのです。
ナンバープレートをセンターに置くのは、全長の規定に大きく影響します。今回のマイナーチェンジでN-BOXカスタムはナンバープレートを中央配置に変えました。そうなると全長ギリギリの場所にナンバープレートが来ることになります。冷却性能を確保しつつ、全長が軽規格を超えないようミリ単位で調整する必要があったといいます。
また、バンパーの最前端にナンバープレートがくるということは鼻先になにかを付けたような印象になりがちです。全長が規格で決まっているという軽自動車の場合、じつはデザイン的にはナンバープレートをオフセットしていたほうが伸びやかなスタイルにしやすいのです。そのためN-BOXでは標準系はアンダーグリル内にオフセットして配置しています。こうすることで、バンパーの中央部分に邪魔が入らず、実際に以上に鼻先が長く見えるといいます。
そうしたデザインで苦心しているのはホンダだけではありません。2020年3月にフルモデルチェンジ「ルークス」として生まれ変わった日産のスーパーハイトワゴン軽自動車もフロントのナンバープレートは中央配置ですが、ナンバープレートが飛び出して見えると全長が短く感じるというネガを解消するために、グリル部分も全長ギリギリまで前に出すことでバランスを取っています。
ナンバープレートを中央に置くというのは登録車ぽく見えるというメリットだけでなく、全長が短く見えるというネガもあるわけです。
たいていの軽自動車は規格で定められたスペックギリギリの全長ですからスペック的に異なることはないとはわかっていても、パッと見の印象で短く見えるクルマというのはライバルと比べたときのウィークポイントになるのは言うまでもありません。
2020年、軽自動車のフロントナンバープレートを中央配置にすることはトレンドになったように感じますが、そこには意外なデメリットもあるわけです。こうした功罪を考えると、軽自動車のフロントナンバープレート中央配置が主流になることは当面なさそうです。
ただし、N-ONEのようにキュートなスタイルを魅力としているモデルでは、ナンバープレートの中央配置で全長が短く見えることはネガになりません。むしろ軽自動車のトレンドがスーパーハイトワゴンから、よりコンパクトであることをセールスポイントにするモデルにシフトして、ボディサイズを大きく見せる必要が薄くなったほうが、中央配置のフロントナンバープレートを採用する軽自動車が増えていくかもしれません。
(自動車コラムニスト・山本晋也)