超ハイパワーなリッターバイクを街乗り。フィーリングは限りなく電気自動車に近かった【週刊クルマのミライ】

■普段はリーフ乗りのリターンライダーが実感。200馬力オーバーのスーパースポーツバイクはEVを超える全域トルク感

CBR1000RR-R
CBR1000RR-Rの車両重量は201kg、最高出力160kW(218PS)となっている。パワーウエイトレシオは驚異の0.92kg/PSを誇る

私事ながら2020年を振り返ると、リターンライダーとして、また売り上げの不安定な自営業者の一人として、思い切った判断といいますか、ひとつのチャレンジをしたことが記憶に残る年となりました。

それはホンダのスーパースポーツの最高峰といえる「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」を購入してしまったことです。50歳を機に、大型二輪免許を取得して、ライダーにリターンしたのは2019年の夏でした。それから一年ほどは原付二種に跨って、公道でバイクに乗ることに身も心も慣らしていったのですが、ついに人生初の大型二輪として選んだのが最高出力160kW(218PS)を誇るCBR1000RR-Rだったのです。

163cmという身長、そして実質的には若葉マークに近いライディングスキルからすると無茶な判断ということはわかっていましたが、残りの人生において「今日が一番若い日」なのも事実です。歳をとるほど、こうしたスーパースポーツに乗ることが難しくなるということで、経験として思い切って乗ってみることにしたのです。

SC82E
CBR1000RR-Rのエンジン「SC82E」は総排気量999ccの直列4気筒で、ボア81.0×ストローク48.5mmのプロフィールはMotoGPマシン譲り。14500rpmまでスッキリと味わうことができる

CBR1000RR-Rが積む「SC82E」型エンジンが最高出力を発生するのは14500rpm、慣らし運転はレブリミットの半分程度が目安といいますが、それでも計算上は4速で120km/hを超えてしまいます。5速レブリミットでは295km/hに達するといいます。サーキットを走らない限り、公道ではずっと慣らし運転状態といえるほどのポテンシャルを持っています。

ちなみに、1速での守備範囲は140km/hまでというギア比になっています。燃費を無視すれば、街乗りではシフトアップが不要といえるパワートレインの設定なのです。というよりも、その気になれば日本の公道は高速道路まで含めて1速だけで走ることができるほど。

さすがに1速で100km/h巡行しているとノイズやバイブレーションが気になりますが、街乗りであれば7000rpmにも達しませんから振動はまったく感じないといえるレベルで、むしろ気持ちよく乗れるほど。というわけで、市街地では1速に入れっぱなしで乗っていることがほとんどとなっています。

こうしてパワーウエイトレシオ0.92kg/PSのリッタースーパースポーツで、ほぼ1速固定状態で街乗りをしていてふと感じたのは「この乗り味は電気自動車にそっくりだ」ということです。

じつは日常的には電気自動車の日産・リーフ(初代・後期型)にも乗っています。

日産リーフ(初代)
気温が下がると充電パフォーマンスが下がるのは初代リーフのウィークポイントだが、スムースな加速はさほど影響を受けない

ご存知のように、リーフをはじめほとんどの電気自動車は変速比が固定となっています。変速機構でのラグがなく、さらにレスポンスに優れたモーター駆動のため、エンジン車に比べると驚くほど右足の反応にリニアに車速が伸びていくというのが特徴で、それはエンジン車に対する走り味のアドバンテージとして多くのドライバーが認めるところとなっています。

そんな電気自動車の加速感、乗り味に慣れている自分であっても、リッタースーパースポーツであるCBR1000RR-Rのリニア感や加速性能はモーターのレスポンスを超えたと感じることがあります。とくに市街地で1速に入れっぱなしで走っているときの感覚は、よくできた電気自動車の走り味にかなり近いと感じる瞬間が多々あります。

もちろん、エンジンの熱やマフラーの咆哮がありますので、モーター的な静かさとは対極的なフィーリングですが、アクセル操作にリニアにトルクを発生する感覚、思い通りに車速が変化する様は電気駆動とそん色ないと感じるのです。

現在、モビリティ全般の電動化が言われています。電動化になると走りがつまらなくなると感じている人も多いかもしれません。しかし、加速感だけでいえば究極的に進化した内燃機関は電気駆動に限りなく近づくというのが、リターンライダーとしてCBR1000RR-Rに乗って感じたことです。

CBR1000RR-R
ホンダのリッタースーパースポーツ「CBR1000RR-R FIREBLADE」。メーカー希望小売価格は、242万円~278万3000円。純正マフラーはアクラボビッチとコラボレーションしたもので快音だ

だとすれば電動化時代になっても操る楽しみのようなものはなくならないといえますし、むしろレスポンスが鋭くなるぶん、アクセルコントロールの深味は感じられるといえるのではないでしょうか。

視点を逆にすると電気自動車の街乗りで加速感というのは、ライダーが乗っている状態で計算してもパワーウエイトレシオが1.5kg/PSを切るようなモンスター級のスーパースポーツバイクに匹敵するフィーリングということもできます。

エンジンが好きなドライバーでも、電気自動車の瞬間レスポンスは評価するというのは、エンジン車では不可能といえるほどのレベルに達しているからこそなのかもしれません。

リッタースーパースポーツと電気自動車という真逆のキャラクターに思える2台の加速フィールに意外なほどの共通性を感じたのは、内燃機関から電動化へのシフトが進むであろう2020年代の体験として非常に貴重なものでした。

こうなると気になるのは、ハイパワー系の電動バイクのフィーリングです。2021年には、そうした体験もしていきたいと考えています。

(自動車コラムニスト・山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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