マツダMX-30は、マツダの次なる100年を予感させる1台 【マツダMX-30試乗】

■EVに先だってまずはハイブリッドモデルを投入

2019年の東京モーターショーでワールドプレミアされたマツダのSUV「MX-30」の市販モデルが登場。試乗することが叶いました。東京モーターショーではマツダ初のEVとして登場したMX-30ですが、国内仕様はまずマイルドハイブリッドモデルを投入しました。

MX-30 前7/3
大口径グリルが流行るなか、あえてスリムなグリルを採用したMX-30
MX-30リヤ7/3
筒状のリヤコンビランプなど、ディテールに凝ったデザインが施される

パワーユニットは156馬力/199Nmの直列4気筒エンジンに6.9馬力/49Nmのモーターが組み合われます。モーターといっても駆動系の途中に挟み込むようなものではなく、オルタネーターの出力を向上したISGと呼ばれるタイプです。バッテリーは10Ahのリチウムイオンを採用。ミッションはコンベンショナルな6速のATです。

MX-30エンジンルーム
パワーユニットはマイルドハイブリッドなので、高圧部分を示すオレンジの配線などが見当たらない

MX-30最大の特徴とも言えるのがフリースタイルドアと呼ばれる観音開きのドアです。マツダはこの方式をRX-8で採用しています。RX-8はロータリーエンジンを搭載した最後のモデルだったこともあり、MX-30にこのフリースタイルドアを採用したのは一種のオマージュ的な意味も含んでいるのでしょう。

観音開きと言っても運転席へのアクセスは通常のクルマと何ら変わりはありません。普通に乗りこむことが可能です。

MX-30 真横
リヤハッチが傾斜したスタイリッシュなデザイン
MX-30フリースタイルドア
センターピラーを持たないフリースタイルドアは、観音開きとなる

上質な感触のシートに座ると、シンプルなインパネが目の前に広がります。フラットなダッシュパネルにシンプルなメーターナセルを装備。センターのナビ画面はまるでスマートフォンを横にしてはめ込んだかのごとく横長です。

太くガッシリしたセンターコンソールや細めのスポークを持つステアリングなど、基本に忠実なデザインと配置は好感度が持てます。

MX-30インパネ
インパネデザインはコンサバなものだ

モーターアシストのある発進はスムーズなものです。とはいえ49NmのISGですから、ストロングハイブリッドやEVのような力強く押し出されるような発進加速感は望めません。

よくできたガソリンエンジンモデルが、しっかり低速トルクを出しているような印象です。走り出してしまうと、あとは素直で静かなSUVという雰囲気にあふれています。フロントシートはグラスエリアも広く、明るい空間が得られています。

MX-30フロントシート
上質なクロスを使うシート

一方、リヤシートはちょっと事情が異なります。リヤシートへのアクセスはフロントドアを開けた状態でリヤドアを開放します。リヤドアのみの開放はできない仕組みです。リヤドアが開くおかげでアクセスは楽です。センターピラーがない分、通常の4ドアよりも乗り込みやすいともいえます。

ちょっと狭めに感じるリヤシートですがヘッドルームもしっかりとあり、窮屈さは感じません。ただし、ほかのSUVと比べるグラスエリアが狭く、視覚的な閉塞感を感じます。これがちょっともったいない。まるでクーペのリヤシートのような雰囲気となってしまいます。

MX-30リヤシート
ラゲッジルーム拡大のためもあり、リヤシートはクッションもシートバックも平板なデザイン

乗り心地はよく、コーナリングもスムーズで素直です。もちろんG-ベクタリングコントロールも搭載されているので、コーナリング時などの動きはスムーズさが増します。

G-ベクタリングコントロールは、エンジントルクを制御することでクルマを曲がりやするなどの効果を得ます。人間が普通に運転しているときは、コーナーの手前で無意識にアクセルを戻すなどして同様の効果を得ているので、G-ベクタリングコントロールの恩恵がわかりにくいのですが、ACCで走っているときなどはG-ベクタリングコントロールが働くことで、より一層安定感が増し、運転にスムーズさが生まれます。

MX-30 インテリア コルク
インテリアの装飾にはコルクを採用。1920年、創業当時のマツダは「東洋コルク工業」という社名で、コルクを扱う会社であった。

SUVにカテゴライズされるMX-30ですが、ラゲッジルーム容量は定員時400リットルさほど大きくはありません。詳細資料によるとMX-30はサブトランク容量を約30リットル持ちます。また9インチのゴルフバッグについては定員乗車状態では搭載不可ながら、6対4分割の6側を倒すことで3個搭載可能となっています。

最近はラゲッジルーム容量が少ないSUVも増えていて、たとえばトヨタのハリアーも400リットル程度、レクサスUXは220リットルしかありません。こうなるともはやSUVというジャンルでひとまとめにしてしまうのに無理があります。なにか新しいカテゴリーを作る必要があるでしょう。

MX-30 定員時ラゲッジ
定員時のラゲッジルーム容量は400リットル
MX-30 ラゲッジ片側倒し
リヤシートバックは6対4分割。写真は右の4部分を倒した状態
MX-30フルラゲッジ
フルラゲッジ状態。最大奥行きは1730mm、タイヤハウス間幅は1000mm

MX-30の魅力はSUVとは思えない斬新なデザインにあるといえるでしょう。

エクステリアもインテリアも、従来のSUVとは一線を画するデザイン性がうかがえます。

マツダは2020年1月に創立100周年を迎えました。従来、マツダのSUVは「CX」の名称を使ってきましたが、この節目で「MX」の名称でのSUVを登場させました。MXといえば、ロードスターデビュー時のネーミングが「MX-5ミアータ」でした。マツダは「MX-30」のネーミングについて、次のように説明しています。

MX-30 真正面スタイリング
ひと目でマツダとわかるが、CX系とは異なる空気感を持つデザイン
MX-30真後ろスタイリング
リヤからも端正なスタイリングがよくわかる

──「MX」は、新しい価値の創造と提供に挑戦する車種としての名称。従来のMXシリーズと同様に、新たな価値を提供できる商品として、「わたしらしく生きる」をコンセプトに、お客様が自然体で自由で多彩な楽しみ方を創造していただきたいという思いを込めて命名──

MX-30 フリースタイルドア
センターピラーがないフリースタイルドアを全開した状態。写真は100周年記念車で2トーンのシートを採用する

2021年には日本にもMX-30のEVが導入されるとのこと、そしてロータリーエンジンのレンジエクステンダーも予定されていると言われます。

MX-30はマツダのこれまでの100年の集大成であるとともに、これからの100年の方向性を示すクルマと言えるでしょう。

(文・写真/諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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